第21話:待機:Harvest festival

 到頭とうとうこの日が来てしまった。


「父さん、本当に一週間もいるの?」

「そのつもりだそうだよ」

「うへぇ」


 ユリシア姉さんが嫌そうに顔をしかめた。


 収穫祭前日。


 俺たちは屋敷うちに滞在する貴族たちを待っていた。


 結局、屋敷うちに滞在するのはルーシー・バールクとその甥のオルドナンツ・オーバック、第二騎士団長のヴィジット・スリオルンとその甥のニューリグリア・スザリオン、ヂュエル・シュークリート、クシフォス・ドゥクス。


 そしてクラリス・ビブリオ。


 計七人で、事前の予定からニューリグリア・スザリオンが増えただけだった。


 そして。


「楽しみだな。ニュー君と遊べるの」


 今回ので一番楽しそうなのは、ライン兄さん。


 そう、急遽来訪が決まったニューリグリア・スザリオンは、以前王都でできたライン兄さんの友達だ。


 魔物や動物が好きなようで、ライン兄さんとシンパシーがあったらしい。物凄く楽しそうにしている。


「ユリシア。分かっていると思うけど、ヂュエル様の事、よろしく頼むわよ。アナタと同じ年なんだから

「うぅ。嫌よ、母さん。あいつ、会うたびに決闘とか挑んでくるのよ! しかも、弱いし」

「そんな顔しない。それとルーシー様についても頼むわ」


 嫌悪感むき出しのユリシア姉さん。


 ただ、アテナ母さんの口からルーシー様の名を聞いた途端、ユリシア姉さんの顔がパァァッと輝く。


「それは心配しないで、母さん!!」

「……大丈夫かしら」


 ルンルンと鼻歌を歌うユリシア姉さんにアテナ母さんは心配の表情をする。俺も内心、心配だ。


 だって、絶対ユリシア姉さんが思っているルーシー様と、俺が知っているルーシー様が違うのだ!


 ユリシア姉さんがマキーナルト領に引きこもってから、数年。たぶん、ルーシー様の性格やらが大きく変わったのだと思うが。


 それを知らないユリシア姉さんが今のルーシー様を見て、どう思うか……


 一応、それとなく変わった的なことは俺とライン兄さんの方で伝えたのだが、どうにも嘘だと思われている。


 大事にならないことを祈る。


 ……いや、俺の方が祈れるほどの気分ではない。


 ライン兄さんもユリシア姉さんもまだ、いい。楽しそうな相手がいるんだから。


 しかしだ、しかし!


 俺はあの、うるさくて騒がしくて人の話を全くもって聞かないオルドナンツなのだ。あいつのせいで生誕祭がどれだけ迷惑したか。


 しかもだ。


 ルーシー様のこともある。


 生誕祭でのやらかし。一応、人の目には触れていないが、俺とルーシー様との間で問題はあった。


 ルーシー様の今回の訪問は、その詫びも兼ねている。そういう文言のやり取りをしちゃったし。こないだになるまですっかり忘れていたけど。


 気が重い。


 そんな俺の表情を見て、ロイス父さんが苦笑する。


「まぁ、今日とか、明日とかは基本僕とアテナが案内するから、大丈夫だよ。一週間も滞在されるからさ。たぶん、暇になるだろうし、その相手を頼むってだけ」

「それにここはマキーナルト領よ。歴史的なこともあって、向こうは強く出れないから多少の問題は目を瞑ってくださるわ。そもそも、死之行進デスマーチの慰労で向こうが来たんですもの」

「だから、まぁ、そんなに気負わなくでいいよ」

「何かあれば、ソフィアとかに相手させるし。どうせ、今年も観光に来る旅人をナンパするだけでしょうし、暇でしょうから」

「え、いや、仮にもラート街自由ギルド支部長だよね?」


 そういえば、去年か一昨年に、ナンパに失敗したとか逃げられたとかそんな話を聞いた覚えがあるような、ないような……


 まぁ、けど、あれだ。


 ソフィアは小人族で、背の高さもライン兄さんに近い。うん、案外仲良くやれそうな気がする。


「それにしても、クラリスさんは兎も角として、六人も屋敷うちに滞在すること、よく許可したよね」


 俺は後ろを振り返る。


 もともと、屋敷は俺たち一家が住まうスペースと、ロイス父さんたちの仕事部屋が一緒になって入っている。


 あんまり、部屋の余裕はないのだ。


 それに、屋敷のすぐ隣にはバトラやマリー、ユナにレモンが住まう小さな二階建ての使用人専用の別棟が隣接している。


 ちなみにアランは屋敷の裏にある普通の庭園と、アテナ母さんお手製の異空間式庭園の開発農業エリアに繋がる境目の部分の小屋で暮らしている。


 もともと、バトラ達と同じ使用人の別棟で暮らしていたのだが、仕事柄農産物の研究でそのエリアにいることが多くなり、仕事がない日も趣味で土いじりをしていたため、結局そこに自分で小屋を建てて暮らすことになったのだ。


 まぁ、何が言いたいかといえば、六人もの貴族を受け入れる余裕など家にはなかったのだ。


 貴族なのだから、使用人もそれなりに来る。ロイス父さんが多少、人数制限をしたようだが、一人につき一人から三人ほど来るらしい。


 一番多いのは、ルーシー様とヂュエル様だ。三人である。


 なので、結局の所、十数人を受け入れる必要があり、それぞれの部屋が必要となった。


 なので、結局、


「突貫工事だったけど、どうにかなったわね」

「内装とかも、それなりに頑張ったから大丈夫だと思うよ」


 使用人の別棟とは逆方向に豪華な別棟を急遽、増設したのだ。アテナ母さんとロイス父さんの頓珍漢とんちんかんな魔法と能力スキルで。


 俺たちが寝ている一夜にして隣に豪華な別棟ができたかと思うと、次の晩には屋敷うちといい具合の通路で繋がっていた。


 それからせっせと、どこからともなく調達してきた質の高いアンティークな家具やら装飾品やらを運び込み、立派な貴族の屋敷みたいな感じになっていた。


 ぶっちゃけ、俺らの屋敷よりも豪華だと思う。


「ねぇ、いつものダイニングを潰す必要あった? ほら、一応、ダイニングの直ぐ近くに貴族が来た時用の大きなダイニングルームがあったじゃん」

「大きなって言っても、そんなに入らないわよ。あの部屋。使用人も全員入れるくらいの大きさでないと駄目なのよ」

「そんなもん?」

「そういうものよ」


 俺たちがいつも食事をとっていたダイニングは、簡単に言えば家庭的なものだ。だから、貴族を家敷うちに招いた時用のダイニングルームがあったのだが、いつものダイニングと一緒に潰された。


 そして、二つをつなげて大きなダイニングルームとなった。


 そしてダイニングと隣接していたリビングはちょっと移動していて、屋敷うちの一階もかなり改築されていたのだ。


 と、ライン兄さんが少し顔をしかめる。


「ねぇ、あのダイニングってあのままなの? 落ち着かないんだけど」

「そうね……」


 アテナ母さんは考えてなかったわ、と頬に手を当てる。


 すると、ロイス父さんが大丈夫だよ、と言う。


「ほら、ちょうどクラリスが来るからさ。アーティファクトを制作を手伝って貰おうと思っているんだよ」

「どういうこと?」

「ほら。ほら、あの増設した別棟も普段使わないでしょ? だから、普段はしまう様な形にしようかと思っているんだよ」

「……うん?」

「どういうこと?」

「どういうことよ?」


 ライン兄さんも俺もユリシア姉さんもロイス父さんの言葉に首をかしげる。


 全くもって言っている意味が分からない。


 ただ、アテナ母さんは分かったようで。


「なるほどね。一階の一部と別棟部分を並離空間にして臨時の時だけ裏返すのね」

「そういうこと」


 何がそういうことか分からない。ライン兄さんもユリシア姉さんも首を捻っている。


「ねぇ、俺たちにも分かるように――」


 訳が分からないことを言っているロイス父さんとアテナ母さんに、もう少し詳しく聞こうとしたら、


「セオ。それはあとね。来たわよ」


 アランとレモンが先導しながら、五つの馬車が現れた。






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『英雄の息子は英雄になりたい~エドガー・マキーナルトの野望~』

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