第22話:愛があるそうです。分からないけど:Harvest festival
五つの馬車が、見えてきて俺は気を引き締める。
五つの馬車が敷地の門をくぐった。質の良い執事服、もしくはメイド服を纏った御者の人が丁寧に馬車を並べて停めた。
まず、一番豪華な馬車の扉が開いた。ドレス姿のクラリスさんが、御者をしていた執事さんの手を借りて優雅に馬車を降りて、ロイス父さんたちに頭を下げる。
それからクラリスさんは面倒くさそうに、溜息を吐いた。
「ふぅ、堅苦しくて敵わん。二週間ぶりだの、ロイス、アテナ」
「二週間ぶり、クラリス」
「あの時はありがとうね、クラリス」
数日ぶり? どういうこと?
ただ、俺がその疑問をぶつける前に次の馬車の扉が開いた。
最初に降りてきたのは、ルーシー様。御者をしていたメイドさんの手を借りて、クラリスさん以上にお淑やかに麗しく降りてくる。
纏う紫のドレスは彼女の紫髪紫目とよく似合っていて、菫の花が咲いているかのようだった。
ルーシー様はロイス父さんとアテナ母さんに軽く一礼し、それからクラリスさんに頭を下げた。
それに続いて降りてきたのが、
「おお! ここがセオの家か!」
「ッ、オルドナンツっ!!」
アホの子、オルドナンツ。相変わらずうるさい。
赤紫の短髪はオールバックにされており、身なりはそれなりに整えているが、ガキ感が隠せていない。ルーシー様が慌ててオルドナンツを落ち着かせようとするが、既に遅し。
「お! セオ! 久しぶりだな! ってことは!」
「あ、ちょっ」
満面の笑みで俺に手を振りながら走ってくる。
そして俺の隣にいたロイス父さんとアテナ母さんを見て、オルドナンツの表情が更に輝く。
あれだ。戦隊ヒーローか仮面のライダーにあった時の少年の表情だった。まぁ、五歳だし、そんなもんだけど。
興奮したのも束の間、オルドナンツは少しだけ緊張したようにもじもじした後、ロイス父さんとアテナ母さんに頭を下げる。
「は、始めまして! 俺、オルドナンツ・オーバックだ……です! 邪竜殺しのロイス様と不死殺しのアテナ様にあえて光栄だ……です!!」
ユリシア姉さんとクラリスさんがニヤッと楽しそうに笑い、ルーシー様は大慌てしている。
「邪竜殺し?」
「不死殺し?」
俺とライン兄さんが首をかしげる。オルドナンツが驚く。
「お前ら、子供なのに知らないのか!?」
「うん、知らない」
「だから、教えて」
「いいぜ! ロイス様はな、
「おお、それは凄い!」
「凄い、凄い!」
始めて知った。
そして、面白い。
ロイス父さんもアテナ母さんも意外に昔の話をあんまりしてくれないんだよ。特にこんな魔物を倒したとか。
しかも、自分で話さないどころかそれ関連の情報が俺らに伝わらないように、周りにも口止めしているしな。
だから、ロイス父さんたちが恥ずかしそうに顔を少し顰めているので、俺とライン兄さんのニヤニヤが止まらない。
面倒だと思っていたオルドナンツが大親友に見えてきた。後光が差す。
それはライン兄さんも同じらしい。
「オルドナンツ君だったけ? 僕はラインヴァント・マキーナルト。気軽にラインって呼んでね」
「おう! 俺はオルドナンツ・オーバック! オルって呼んでくれ!」
「うん、よろくね、オル君。それで、なんだけど、オル君が知っている父さんたちの話をもっと――」
オルドナンツに天使の笑顔を向け、速攻で親しくなったライン兄さんはロイス父さんたちの話をもっと得ようとして、
「こほん。ライン?」
「オルドナンツ?」
「あ」
「やべ」
ロイス父さんの恐ろしい笑顔によってそれは中断された。
また、オルドナンツの後ろには恐ろしいくらいの冷たい笑みを浮かべたルーシー様がいた。
オルドナンツは冷や汗をダラダラとかいていた。シュンと大人しくなるオルドナンツ。
っつか、今更だけど、こいつ連れてきて本当に良かったのか? 俺としては、こいつがいることで堅苦しさから解放されるが、貴族として大丈夫かって話だし。
そう思っている内に、ルーシー様がロイス父さんとアテナ母さんにカーテシーをする。
「お久しぶりでございます、マキーナルト子爵様、子爵夫人様。わたくしはルーシー・バールク。ハティア王女殿下、並びに父、バールク公爵の名代として参りました」
そして、とルーシー様は続け、深く頭を下げる。
「オルドナンツの無礼、大変申し訳ありません」
ロイス父さんとアテナ母さんが苦笑する。
「大丈夫ですよ、ルーシー嬢。まだ幼い子供の事ですし、僕としましても、息子に仲の良い友人ができて嬉しいです」
「ええ。それよりもルーシー様も肩の力を抜いてください」
「ありがとうございます」
……なるほど、分かってきたぞ。
ここまで見越して、オルドナンツを連れて来たな。
たぶん、身分的な問題でロイス父さんたちはルーシー様たちに強く出れない。子供とはいえ、向こうの方が爵位が高いし。
だが、向こうも向こうで爵位ではない力、ロイス父さんたちの英雄としての力やマキーナルト領という歴史的な問題の力。
そういったので、強く出れない。
ただ、その状態で宙ぶらりんなのは、かなり困る。貴族というのは、体裁を気にするものだからな。
だから、生誕祭を迎えたばかりのオルドナンツが
それに付け加えて、アテナ母さんが暗に無礼講。それこそ、非常に大きな問題でない限り、互いに目を瞑りましょうという述べる。
ルーシー様が貴族特有の堅苦しい挨拶の口上を述べなかったところを見ると、事前に決まっていたようだな。
それと、今思ったが、ライン兄さん、最初からそれに気が付いていたな。
ロイス父さんとアテナ母さんの面白い話が聞けて興奮したとしても、滅茶苦茶賢いライン兄さんが、軽々しい態度でオルドナンツと話すわけないか。
たぶん、わざとオルドナンツの雰囲気にのったのか。そうすることで、幼い子供たちがしたことがかなり強くなり、体裁を取りやすい。
オルドナンツもだが、俺も気が付かずにその作戦に乗っていたらしいが。
なんか、悔しい。
そう思ったら、残りの三つの馬車が一斉に開いた。
一つ目の馬車からは、騎士の礼服を身にまとったこげ茶の短髪と瞳を持つガタイの良い男性と、ライン兄さんと同じ背丈の黒髪碧眼の丸眼鏡で大人しそうな男の子。
と、黒髪碧眼の男の子がバッと顔を上げてライン兄さんを見た。
瞬間、
「ニュー君!」
「ライン君!」
ライン兄さんと黒髪碧眼の男の子、ニューリグリア・スザリオンが駆けだして、ガシッと抱き合った。
それから、二人は興奮したようにまくしたてる。
「ニュー君! 読んだ!?」
「ライン君が付箋を残してくれたから、読めたよ! ありがとう!」
「それで、どうだった!」
「神秘に飲まれたよ! 興奮した! 特に千寿ムカデの子育てが凄くてさ! 体の一部を切り離して、子供の体に植え付けるって、凄いなって! 愛だったよ!」
「ね! そうだよね! 愛だよね、あれ! 分かるよ!」
分からねぇよ。
なんだよ、自分の体の一部を子供に植え付けるって。
けど、確信した。
ニューリグリア君。ライン兄さんと波長が合うわけだわ。全然大人しそうじゃなかったわ。
あの丸眼鏡の奥にある碧眼。物凄い好奇心と理知が宿ってるわ。あと、変態性も。
だからか、騎士の礼服を纏ったこげ茶の壮年、ヴィジット・スリオルンが苦笑いをする。
「お久しぶりですな、ロイス殿、アテナ殿。うちの甥が、すみません」
「いえいえ。大丈夫ですよ、ヴィジット殿」
「ええ」
それから、二つ目の馬車から降りてきた藍色の短髪と瞳の少年がロイス父さんたちの前に立つ。
背丈はエドガー兄さんより少し低いくらいか。体つきからして、エドガー兄さんと同じく、成長期に入っている感じがあるから、背丈よりも幼い。
貴族ったらしいところがある仕草。
ヂュエル・シュークリートだな。なんせ、ユリシア姉さんの顔が物凄く嫌そうに歪んでいるし。
「お久しぶりでございます、マキーナルト子爵様、子爵夫人様。ミロ王子殿下の名代として参りました、ヂュエル・シュークリートと申します。お世話になります」
「はえ?」
そしてヂュエルは、後ろに控えていた麗しい近衛服を纏った女性に譲った。絡まれると構えていたユリシア姉さんは、思わず拍子抜けしたような様子だった。
それに少し首を傾げつつ、赤錆色の長髪を後ろで一つにまとめ、凛々しい赤錆色の瞳を持つ麗人、クシフォス・ドゥクスがロイス父さんたちに頭を下げた。
「お久しぶりでございます。マキーナルト子爵様、子爵夫人様。アイラ王女殿下の家臣が一人、クシフォス・ドゥクスでございます。此度はアイラ王女殿下の名代として参りました」
「久しぶり。ニール第三騎士団長は元気かな?」
「壮健だと聞き及んでおります」
「なら、よかったよ」
……堅苦しいな。近衛騎士だし、かなり規律に厳しい人なんだろうな。
「では、皆様のお部屋へと案内します」
全員と軽く挨拶できたので、ロイス父さんがそういった。
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いつも読んで下さりありがとうございます。
面白い、また読みたいなど少しでも何か思いましたら応援や★、感想やレビューなどをお願いします。モチベーションや投稿継続に繋がります。よろしくお願いいたします。
また、外伝としてエドガーの物語を書いています。
投稿頻度はこっちに引っ張られ、基本不定期ですが、ぜひ読んでいってください。
『英雄の息子は英雄になりたい~エドガー・マキーナルトの野望~』
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