第11話:そりゃあ、自分が作った物が分解されて売られてたら、傷つく:Second encounter

「人が多くなってきたね」

「うん」


 ライン兄さんを先導していた俺は頷く。ライン兄さんが尋ねる。


「それで結局、客食いって何だったの?」

「ああ~」


 俺はピエロの分身体から受け取った情報を見やりながら、なんとも言えない声を出す。それから首を少しだけ傾け、


「まぁ、お楽しみ?」

「なに、それ……」


 ライン兄さんは訳が分からないよ、と眉をひそめる。


 いや、だって、口で説明するより見た方が、いや聞いた方が早いと思うんだよね。


 そして俺たちは人込みをするすると抜けながら、歩く。朝のようなへまはしない。これでもロイス父さんたちやソフィアに相当しごかれているのだ。


 一種の悪路を歩いていると思えば、問題ない。


 そして一段と人が集まっている所にたどり着いた時、それが聞こえてきた。


「さぁさぁ、次ご紹介するはこちらの魔道具! そこのご婦人。今日は晴れてますね? ですが、急に雨が降ったら? 外に干してある洗濯物はどうなる!!」


 朗々と響く声。


「困りました、困りました! しかし、しかしっ! こちらの宝珠の魔道具! 水を感知すると自動で小さな結界を張ってくれる優れモノ! あなたが帰ってくるまで洗濯物を守ってくれる!」


 ライン兄さんが目を丸くしている。


 それはそうだ。


 声の張り方や響き方はもちろん、間の取り方や抑揚のつけ方など、一種のオペラを聞いているかのように耳が奪われる。


 自然とそちらに注目してしまう。意識の全てが奪われる。


 それほどまでに圧倒的なカリスマともいうべき声が響き渡っていた。


 俺は足を止めたライン兄さんの手を引っ張る。なんせ、俺たちはそれを特等席で聞けるのだから、こんな大人たちの足元で聞く必要はない。


「おっと! そこの旅人のお兄さん。俺には関係ないと思いましたね! ですが、これは洗濯物を雨から守るだけではない! これをこう帽子の目立たないところにつければ! もしくはフードにつければ!」


 魔力反応が現れる。


 魔力の感覚から言って、水の生活魔法を使ったのだろう。


「ほら、ごらんの通り。突然の雨でも問題なく対応してくれる! これであなたもぬれずに済むんです!」


 俺たちは人込みを抜けた。


「さぁ、皆様! 通常、一つ小銀貨一枚のところ、なんと、なんと十個で小銀貨五枚! 半額、半額だ!」


 そこにいたのは赤毛に碧眼の青年。朝、人込みであっぷあっぷしていた俺たちを助けてくれた青年だった。


 その青年の周りには多くの人たちがいて、奪い合うように先ほど紹介していた商品魔道具を買っていた。


 うん、やっぱり、あの魔道具、そこらへんの魔道具屋でも売ってる奴だな。アカサ・サリアス商会の伝手で市販の魔道具はそれなりに把握しているし。


 値段は少し安いくらい……なるほど、宝珠の内部に組み込まれているの蓄魔力量が市販のよりも少しだけ少ないからか。


 けど、あれは通常、雨漏りを一時的に凌ぐ魔道具なんだよな。いや、正確にはあれはその魔道具の中身だ。


 普通は、ちょっと大き目で重たい金属の器の中に組み込まれていて、結界の拡張や消耗防止、外部蓄魔力などが組み込まれていたはずだ。


 赤毛の青年はその中の水を感知して結界を張る部分だけを取り出して、売っているのである。


 ……洗濯物は兎も角、人が身に着けるならば微小だけど自動魔力吸収も組み込まれている感じだから、放出魔力だけで十分補えるわけか。


 あ、そうか。洗濯物はいかに水にぬれないとはいえ、結局急いで取り込もうとするしな。それを見越してか。


 そう思いながら、俺とライン兄さんは赤毛の青年の隣にとってあったシートに座る。ピエロの分身体は消さないでおく。


 そして赤毛の青年の客がはけた頃合いを見計らって、声をかける。


「さっきぶりだね、赤毛のお兄さん」

「あの時はありがとうございました」

「! ああ。坊主たちか。ということは、そこのピエロの兄さんは坊主たちのお付き……いや、何でもない。それよりも斑魔市はんまいちは楽しめているか?」


 やっぱり、いくつか勘違いしているけど、赤毛の青年は俺たちが貴族だって気が付いていたのか。


 まぁ、すんなり流してくれるからありがたい。


「うん、お兄さんのお陰で楽しめてるよ!」

「色々なものも買えたし。それよりもお兄さんの名前はなんていうの?」


 ライン兄さんが尋ねる。


「そういえば名乗ってなかったな。俺はバイン。駆け出しの商人さ」

「駆け出し? あんなに売ってたのに?」

「ああ、つい先日独立したばかりでな」


 独立か。商人も修業が必要なのだろうか。ああ、でも、昔とかだと、職業って受け継ぐって感じだからな。一から始めることはほとんどないんだろう。


 まぁ、さっき、あれだけ客を集めていたし、客食いなんて異名を持っているんだし、相当優秀だったんだろうな……


 と、思ったら。


「いや、子供の前で意地張る必要もねぇか。追い出されたんだよ」

「追い出された?」

「悪いことでもしたの?」

「いや、普通に追い出された。それだけさ」

「ふぅん」

「そうなんだ」


 突っ込んで欲しくはない感じだったので、俺たちは引き下がる。


 ついでに、俺は“宝物袋”から色々なモノを取り出していく。さっき買った魔道具や絵筆、インクなど色々と。


 次の商品を準備していたバインが気が付く。


「んあ? 坊主たち、何してるんだ?」

「何って、準備だよ。バインと同じ」

「僕たちも売るんだよ。ここは手続きが必要ないんでしょ?」

「まぁ、そうだが……」


 バインがなんとも言えない表情をしていた。それからピエロの分身体を見やるが、分身体は魔力消費を抑えるために基本的にぼけっと座らせているだけなので、反応しない。


 まぁ、これからピエロの分身体にはいっぱい動いてもらうし、緩急があった方が面白い。


 バインは仕方なさそうに溜息を吐き、それから小さく「まぁ世間様を教えるのも悪くないか」と小さく呟く。


 俺たちには聞こえていないと思っているのだろうが、大間違い。俺たちは耳がいい。身体強化もだが、普通にロイス父さんたちの血のおかげか、耳とか動体視力とかそれなりにいいんだよな。


 俺とライン兄さんは頷きあう。


 朝、助けてもらった恩はあるが、それはそれ、これはこれ。バインを喰らいつくすつもりで、俺たちだってモノを売ろうじゃないか。


 俺はいくつもの鉱石を取り出し、それを丁寧に自分の周りに並べていく。ライン兄さんは小皿に乗せた絵具の粉を水魔法の水で溶かしてドロドロにし、一枚の固い紙に並べていく。パレット代わりだ。


 それをバインが不思議そうな顔で見やっていたが、どうせ子供のやることだと思い放っておくことにしたらしい。


 次の商品……


 む、あれは俺が前にアカサ・サリアス商会に卸した小型冷蔵庫の魔道具の核に使われていた冷気を出す冷却魔道具じゃん。


 え、箱は? 冷却なんかよりも、小型冷蔵庫の箱は? 冷却の魔道具以外は?


 あっちは超高性能だぞ。回路の短縮簡略はもちろん、魔力効率を滅茶苦茶良くしたし、冷却魔道具から放出される冷気を冷蔵庫行きわたらせるために、結構工夫したんだぞ!


 中身だけ取り出した!?


 なんか、悔しい! あと、ちょっとあの冷却魔道具がどう売り出されるかワクワクしている自分にも腹立たしい!


 よし、絶対にバインよりも色々売ってやる。バインから客を奪ってやる!


 バインは俺のプライドに火をつけたんだ!


「ライン兄さん。頑張るよ!」

「え、うん。なに、どうしたの、そんなに顔を真っ赤にして。あ。あの魔道具ってセオの魔道具よりもすごいの?」

「違う! あれ、俺の!」

「ああ、なるほど。それは確かに面白そう」


 ライン兄さんがにやにやと笑う。普通に面白がっているな。


 まぁ、いい。


 バインが客引きを始めた時が、勝負の始まりだ。




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