第10話:捨てる神とか拾う神とかいうが、結局は縁が良いか悪いか:Second encounter
俺たちはそれからも
これ、売り物として売っていいの? と思う物も売っているが、こんな場所でそんな安く売っていいの? と思える物も売っていて、まさに
「セオ、いつまでそこにいるの!?」
「もうちょっと待って」
「そう言って三十分も経ってるんだけど!?」
ライン兄さんがプクーと頬を膨らませて抗議してくるが、知らん。ライン兄さんだってさっき、絵筆を選ぶのに一時間近くかかっていたのだ。
その分、俺だって時間をかけてもいいだろう。
そう思いながら、ランダムに点滅する魔道具やぐるぐると回る続ける小さな鉄球の魔道具など、何に使えるのかさっぱりわからない魔道具を吟味する。
「だいたい、午前中は僕たちも場所取って何か売るんでしょ!? もう、昼近くなんだよ!」
「……じゃあ、午後に回して」
「もう!」
ライン兄さんは怒る。
……いやいやいや。
「もう! じゃないよ! ライン兄さんだって俺以上に時間使ってたじゃん! 自分が終わったからって勝手すぎだ!」
「うっ! でも、セオも!」
「でももだってもない!」
俺とライン兄さんはいがみ合う。
顔を突き合わせ、にらみ合う。
が、しかし。
「ぷっ」
「アハハ」
何故か、互いに吹き出してしまった。破顔し、腹を抱えて笑ってしまう。
そういえば、ライン兄さんと言い合いらしい言い合いをあんまりしてこなかったからな。
テンションが上がってたんだろう。二人とも。
それがなんともおかしくて、おかしすぎて。
俺とライン兄さんはアハハハ、と笑いあい、転げまわる。
すると、
「……小僧ども。選ばないなら、どっか行けや。邪魔だぞ」
魔道具を売っていたおっさんが、呆れた視線で俺たちを見下ろした。
俺たちは冷静になる。
「あ、ごめんなさい」
「すみません」
俺とライン兄さんは慌てて頭を下げた。おっさんは数秒黙り込んだあと、仕方なさそうに溜息を吐いた。
「それで、ぬぼっとした坊主。何を買うんだ?」
「あ。じゃあ、この灯にもなる羽ペンとインクが広がるインク消しもどきと……それと、魔力で動かせる猫耳と猫しっぽ……あとは……回るこれと、光るこれもください」
「……結構な額になるが、持ってるのか?」
おっさんが片手で三を表す。大銀貨三枚か。まぁ、それなりにするな。たぶん、真力で動かせる猫耳と猫しっぽが結構高いんだろう。その他はただのネタ魔道具だし。
「あ、はい。こう見えて俺、結構生きてんです」
「……小人族か。珍しい」
……小人族って設定、滅茶苦茶いいな。使い勝手がいい。しかも、一応、嘘は言っていないからな。前世も合わせれば結構生きているからな。
と、おっさんが首をひねった。
「……お前ら兄弟じゃないのか?」
「さて、どうでしょうか?」
「……まぁ、いいか」
俺の返答を聞いて勝手に考えたのか、おっさんは僅かばかりに目を細める。それから、おっさんは俺から代金を受け取り、魔道具を渡してくれた。
俺は受け取り、ローブの中で"宝物袋"にしまう。
「ありがとうございます」
「おう。それと、店を開くなら、あっち側がちょうど空いてるぞ。客食いが現れたんで、何人かが逃げたはずだ。坊主たちなら子供だし、客食いも手荒なことはしねぇだろ」
「客食い? ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
親切に教えてくれたおっさんに頭を下げて、俺たちはおっさんが教えてくれた方へ歩いた。
「それにしても客食いってなんだろ?」
「言葉通りに受け取れば客を食べるなんだけど……まぁ、逃げるって言ってたし、客が奪われるんじゃない?」
「なんか、逆に面白そう」
「だね」
そう頷きあいながら、俺たちは歩く。
と、
「アルル……」
「リュネ……」
「ケン……」
「シュルー……」
俺の頭からアルとリュネとケンが、ライン兄さんの首元からミズチが、キュルルとお腹を鳴らす。
同時に、
グ~~
俺たちのお腹も鳴ってしまった。
「昼ごはん、先に食べる?」
「う~ん、どうしよう? でも、先に場所取りだけして置きたいかな」
「確かに……。あ、そうだ」
ポンッと思いついた俺は、分身体を召喚する。ただし、同時に"宝物袋"からピエロの仮面の魔道具を取り出して、顔につけさせる。
「場所取りは分身体に任せるわけだね」
「うん。っということで、よろしく、俺」
「任せろ、俺」
そう言って、ピエロの分身体はすいすいと人込みを縫いながら、消えていった。
それを見送って、俺たちは辺りを見渡す。
「ライン兄さん、ごはんってどこにあるか分かる?」
「いや、全然」
まぁ、だよね。
ッということで、俺は近くを通った犬耳を持つ獣人の女性に話しかける。
「あの、すみません。ここらへんでごはん、売ってませんか?」
「ええっと、お母さんたちは……?」
「あ、俺、これでも長生きしているんです」
「……なるほど」
犬獣人の女性は若干俺を見定めるように目を細める。後ろにいるライン兄さんも。ただ、ライン兄さんを見た瞬間、にこやかに顔を緩ませる。
……まぁ、仕方ない。
「向こうに数分ほど歩けば、
「そうなんですか。ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「うふふ、どういたしまして」
犬獣人の女性は俺たちに笑いかける。
「もしよかったら、一緒について行ってあげるけど」
「あ、それは大丈夫です」
「お姉さん、ありがとうございました」
俺とライン兄さんは首を横に振って、手を振る。犬獣人の女性は気分を悪くした様子もなく、俺たちに手を振る。
「気を付けるのよ」
「「はい」」
頷いたのを俺たちは、もう一度犬獣人の女性に頭を下げて、手を振る。
犬獣人の女性に教えてもらったひ方向へ歩き出す。少しすればいい匂いが漂ってきた。少しだけ人も多い。
少し顔を覗かせれば、串肉を焼いている屋台があって、そこにそれなりの人たちが並んでいた。
「こっちだね」
「どれくらい人、並んでる?」
「十人くらいだよ」
「お昼時だからもっと並んでいるかと思ったけど、意外と少ないね」
「確かに」
俺とライン兄さんははそう頷き合いながら、列に並ぶ。
と、
「二人で来たの?」
目の前に並んでいた白髪のお婆さんが可愛らしい笑みを浮かべ、俺たちに話しかけてきた。
ライン兄さんがずいっと前に出て、頷く。
「はい!」
「そうなの。君はお兄ちゃんなんだね」
「そうです!」
ライン兄さんがふふん、と頷く。俺はしらっとした目つきを向ける。それに白髪のお婆さんが気がつく。
「君はお兄ちゃんが好き?」
「……まぁ、はい」
「そう。うふふ」
白髪のお婆さんは少しだけ照れているライン兄さんを見やりながら微笑む。
……なんだろう。少しだけ釈然としない。というか、勘違いしてると思う。
まぁ、いいや。ライン兄さんが嬉しそうだし。
それから俺たちは待っている間、お婆さんと話した。お婆さんは産まれてからずっと王都で暮らしていたらしく、色々と知っていた。
王都の歴史も、お学術的と言うよりは一人の平民としての視点として知れたのはとても面白かった。
特に王都においての貴族と平民の関係や、いまの王様、オリバー王についてどう思っているのかも知れたし、王都の
驚いたのは、お婆さんは若い頃、何度も王都を襲った
回復魔法が使えるから、看護として参加したらしい。
面白おかしく語ってくれた。
と、
「あら、もう私の番ね。そうだ。君たちは
「あ、大丈夫です。自分たちで買います」
「あら、いいのよ。君たちと話せてとても楽しかったもの。お礼よ、お礼。子供なんだから気にしない」
いい笑顔でそう言われれば、強く出れない。
俺とライン兄さんは少し目線で頷き合いながら、お婆さんに頭を下げる。
「「ありがとうございます!」」
それから俺たちはお婆さんに食べたい本数を伝え、奢ってもらった。
それを
俺とライン兄さんは歩き出す。
「昨日は散々だったけど、王都にもいい人はいっぱいいるね」
「ね」
そして俺たちは分身体がとっている場所へと足を進めた。
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