第6話:シロポポ講義その2:this spring

「先ずだけどね、“改変”という特性は有機物の変質、つまり性質や構成の変化を行う、という性質を持っているんだ」

「それが魔法薬と何の関係が?」

「それはね、魔法薬は回復魔法の様に即効に治癒が行われる。これが一般的な薬の治癒薬との大きな違いだ。そして、魔法薬を作るときシロポポを入れなければ、全て治癒薬になってしまう」

「まぁ、そうだね」


 何となく、言いたいことが分かってきた。


「と、ここで回復魔法は何故、即効で治癒が行われると考える? セオ」

「それ、俺に聞く? まぁ、いいや。回復魔法の根本的な魔法概念は“魔力による有機物質の創造”、分かりやすく言うと、回復魔法をある対象に使うと、その対象が記憶している健康・・を創造するんだ。それに付随して肉体の活性化をし、自己治癒を促す。後は、浄化や異物の排除とかもある。

 まぁ、回復魔法は幻想魔法の搾りカスみたいなものだから、“魔力による有機物質の創造”なんて、大それたことはできないんだが」


 俺がそう言うとライン兄さんが驚いたように目を開く。


「何で聞いてきたライン兄さんが驚いてるの?」


 問われたライン兄さんは、あはは、と頬を掻く。


「いや、ボクはそこまで知らなくてさ。回復魔法が幻想魔法を源流として持っている事も知らなかったし、何より魔法概念っていう言葉を初めて聞いたんだよね」

「じゃあ、どんな答えが出てくると思ったの?」

「いやー、ボクが知っていたのは回復魔法によって魔力が、一時的に怪我した部分を肩代わりしたり、病原を浄化するとしか知らなくさ。それが出てくると思ったんだよ」


 ライン兄さんは苦笑する。


 俺はその様子を見ながら納得する。それを知ってたら、俺に教えて貰わなくとも、独力で魔術を使えるだろうしな。


「まぁ、そこの詳しい事は魔術と一緒に教えるよ」

「! ありがとう、セオ!」


 ライン兄さんは歓喜する。ライン兄さんの周りにキラキラした光のエフェクトが踊り散る。


「じゃあ、続けて。まぁ、言いたいことは大体解ったけど」

「おっ、流石。では、お言葉に甘えて続けるよ」


 頷く。


「お察しの通り、ボクはシロポポの“改変”が回復魔法の、そのセオが言う“健康の創造”と同等の働きをすると考えている。具体的にはシロポポを含んだ魔法薬が肉体に取り込まれると、魔法薬自体を構成している有機物を肉体の有機物へと性質や構成を変えて、怪我や病気を治す感じ。

 あと、魔法薬に使われている“治癒”などが“改変”の方向性を定めていると、ボクは考えている」


 ……。まぁ、納得できる。細かいところが気になるが、今日は要約だからこの程度だろう。


「細かいところや実験データを見てないから断言できないけど、たぶんそれで合ってると思うよ」

「まぁ、そうだよね。細かいデータとかは明日とかにまとめて出すよ。と言ってもいくつかの実験は終わってないから、来週くらいまでかかりそうなんだけどね」


 まだ実験が終わってない? 


 ……。ああ、“緑霊眼”か。あれで、直接解析したのか。


「解析系のアーティファクトってこういう時、使い勝手悪いよね。何故が分からないからさ」

「そう? 結果だけでも分かっていると、実験も定めやすいから便利だと思うんだけど。というか、解析系のアーティファクトと能力スキルを共に持っているセオには言われたくないんだけど」


 まぁ、それもそうか。


「ごめん。話を脱線させた。じゃあ、今、分かっている限りで良いから、シロポポが何故、“改変”を持っているかという根拠を教えて下さい」

「では、説明するよ」


 そう言って、ライン兄さんはシロポポが描かれた黒板に目を向けた。


「先ずだけど、植物が持つ特性はその植物が必要とするから獲得したものでしょ」

「そうだね。鉱物とかはまた別だけど」


 俺の一言に相槌を打ちながら、ライン兄さんは手に持っているチョークを文字列が並ぶ黒板へと指す。


「セオ。これを見て、何か思わない?」


 ライン兄さんって質問形式好きだよな。ここはキチンと乗るべきだよな。


「生息地域が多種多様」


 答えがお気に召したのか、大いに頷くライン兄さん。

 

「そう! そして、ここが一番重要なんだけどね。どこの地域に存在するシロポポも全て同一種なんだ! と、ここで疑問がある。あらゆる環境に存在する万能な能力をもった草木など存在するのか? という事だ」

「だからこその“改変”だと?」

「そうだよ。シロポポはあらゆる環境で生存できるように、各環境に適した耐性と繁殖をその時獲得できるように、“改変”が備わったんだ」


 と、声を張り上げたせいで疲れたのか、ライン兄さんはウエストポーチから金属製の水筒を取り出し、キャップを外して口をつけ、一息つく。


「ふぅ。中断してごめん、セオ」

「問題ないよ」

「ありがとう。じゃあ、続けるよ」


 俺は頷く。


「でね、そもそもだけどね、シロポポは“改変”が無くても魔境とか生物が生きるのに適していない場所以外はどこにでも生存できるんだ」


 そう言って、ライン兄さんはチョークをシロポポが描かれている黒板に向ける。


「先ずは根」


 次に、チョークで根の絵を指し、そこに線を引っ張る。


「根は岩などといった堅い土壌や、逆に脆過ぎる土壌になどに対して、十分に土台としての役割が果たせるように強く逞しい性質を持っている。また、水や栄養を多量に吸収するために根には細かな毛やその他諸々がたくさんある。それに、いざとなったら根から消化液みたいなものを出して周りの土壌を溶かし、それを栄養分とするんだ」


 黒板に根の能力を軽くまとめたのを書きながら、目をキラキラさせて語るライン兄さんに、少し変態性を感じた。


「次に茎」


 茎の絵にチョークを向け、線を引っ張る。


「茎はとても頑丈で柔らかいんだよ。どんなに踏まれて潰れても、折られたりしても一日も経たずに元通り。それにもし欠損しても修復能力が高いから問題がない。また、もしシロポポの上に障害物があれば、それを突き破る勢いで伸びたり、日照によっては、茎の長さが短くもなるし長くもなる」


 ライン兄さんはカツカツと音を立てながら、黒板に書き込んでいく。


「次は葉」


 同様に葉を指す。


「葉はそこまで特別な構造をしていない。しいて言えば、葉っぱ同士が重ならないように生えていることぐらいだね。それと、乾燥に強く、また葉が腐りにくいことぐらいだね」


 それって特殊な構造なんじゃ……。


 ライン兄さんは俺の内心をよそに、同様に書いていく。


「次に花」


 同様に(以下略)


「花も大して他の植物と変わらないね。普通に特殊な構造をしているだけだよ。なので省略するね。セオも分かっていると思うから」


 特殊な匂いと光の反射で動物や虫を吸引する花の構造を省略か。


 ……。


「……ねぇ、ライン兄さん疲れてきたの?」

「あはは」


 ライン兄さんは頬を掻く。


「だって、セオはこれくらい分かっているだろうしなぁ、と思って」

「でも、確認は大事でしょ?」

「まぁ、そうなんだけどね」


 やれやれ、まだまだ子供だな。飽きやすい。


「ほら、残り少しでしょ。頑張って」


 ライン兄さんはその言葉でやる気を取り戻したのか、頬をパシンと叩く。


「よし。頑張るよ!」

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