第7話:シロポポ講義その3:this spring
と、やる気を出したライン兄さんだが、直ぐに不穏な空気を纏い始めた。
「でもさ、セオ。シロポポの基本説明はいいよね? いらないよね? 説明すると残り時間が微妙になって、魔術とかを十分に教えて貰えなさそうなんだよね」
ぎくっ!
「ねぇ、もしかして、セオ? わざと、話を脱線させてた? ねぇ? ねぇ?」
ライン兄さんの目が鋭くなっていく。
「い、いや。ただ単純にライン兄さんの質問に答えてただけだよ。そ、そんな時間稼ぎみたいなことするわけないじゃん。ほら、俺、約束はきちんと守る子供だよ」
「ふぅーん」
懐疑の視線を炸裂させるライン兄さん。
しかしそのジト目はやばいです。何か素晴らしいものが見えそうです。と、流石にそれは冗談だが、美少年のジト目ってやっぱ似合うんだな。
「でもさ、セオ。魔術やその他諸々について、今日、全て教えてくれるって一言も言ってないよね。セオってそういうところがあるからさ。ねえ?」
「……」
「セオ。正直に……」
うむー。どうしよう。そんな気はなかったんだが。
……。いや、まぁ、少しはあったんだけどさ。
んー。
……。正直に……。
「……その、す、少しは思ってました。すいやせんでした!」
ライン兄さんって、あとでネチネチ言ってくるからな。こういう時は潔く。
「はぁ。……だから、ユリ姉はセオにあたりが強いんだよ。まぁ、いつもの癖だと思うけどさ。ユリ姉にはしない方がいいよ。セオの稽古が始まったら、絶対にさ、痛い目合うよ」
……。
「ご忠告、感謝します」
「よろしい」
ライン兄さんはにこやかな笑顔で頷く。
ほっ。許してもらえたようだ。
「だけど!」
えっ、何?
「ボクを騙そうとしたのは変わりがないので、今後一週間、シロポポの実験にボクの助手として付き合ってもらうよ。わかったね、セオ」
「……、わかりました」
まぁ、それくらいなら。ちょうど俺も知りたかったし。
俺の返事に納得したのか、ライン兄さんは満足そうに頷く。良かった。
「では改めまして、続きをお願いします」
「よろしい」
そう言うと、ライン兄さんは手に持つチョークをシロポポの受粉媒体が書かれた黒板に向ける。
「先程述べたようにシロポポはその驚異的な生存能力を有しています。しかしそれでも、シロポポは生物が生息できない地域では繁殖ができないだよね。シロポポの繁殖は生物頼りなんだよ。と言っても水や風に頼る事もできるけど、それは繁殖の戦略的にはいまいちだから今は置いとくね。
で、だけど実際にシロポポは生物が生息できない地域でも生息しているんだ。例えば、溶岩地帯や死の大地とかで、あとは魔境や魔王城とかだね。そういった所にシロポポが生息できる理由は何度も言うように“改変”が大きな役割を果たしているんだよ」
ライン兄さんはそこで一旦言葉を切り、「ふぅ」と一息つく。
「それでだよ。シロポポは“改変”を主に繁殖のために使うんだ」
すると、次にライン兄さんはシロポポの絵が描かれた黒板にチョークを向ける。
「先ず、根と葉にある小さな毛が感覚器官でね。そこから外界の情報を得るんだ。もちろん、シロポポ全体も他の植物と同様に気温などが分かるんだけど、その感覚器官の毛、
へー。じゃあそれが、俺が手伝う実験なのか。
……。嫌だな。それって危ない実験なんじゃ。
「セオは約束を守る子供なんだよね? ね?」
ライン兄さんって心が読めるんではないだろうか?
「ボクは心を読めないよ」
読めるではないか!
「……。セオが分かりやすいだけで、本当に読めないよ。セオって分かりやすい時と分かりにくい時が綺麗に分かれててさ、特にボクやユリ姉、レモンに対しては常に顔にでるんだよね。それ以外だと、浮かれている時や寝起きの時、あとは食事中の時なんかに顔によくでるんだよ」
それってリラックスしているときか? いやでも、だとしたらエドガー兄さんやユナたちが無いのはおかしいし。
んー。分からん。
「あと、実験に関してはアテナ母さんに付き添いというか、安全確保をお願いしてるから危険はそこまでないよ」
そこまで、なのか。
ん? アテナ母さん?
「ねぇ、ライン兄さん」
「ん? 何?」
「もう既にさ、課題に対して答えをアテナ母さんに言いにいったの?」
「いや、まだだよ。それは実験が終わってから言おうかなと思って。……、ああ。母さんには実験がしたいけど危険が高くてできない、て言ったら内容も聞かないで快く、引き受けてくれたんだよね。まぁたぶんだけど、母さんは聞かなくても分かっているんだと思うんだけどね」
まぁ、この課題を出したのはアテナ母さんだからな。どの実験が危険か分かって当たり前だろうな。アテナ母さんって意外と過保護だしな。
「まぁ、こんなところかな。あーでも、細かいところで違和感があると思うから、今分かってるところは明日までに出すよ」
「わかったよ。あ、でも、夜更かしまでして出さなくて大丈夫だよ。睡眠は重要だからね。睡眠を削るっていう事は命を削る事なんだからね。少なくともライン兄さんはショートスリーパーではないしさ」
「ショートスリーパー?」
ライン兄さんは聞いたことがないのか不思議そうに聞き返してくる。
「短時間の睡眠でも十分な熟睡感、つまり健康上の問題がない人のことだよ。ほぼ体質で決まる筈だよ。まぁ、
「へぇー」
ライン兄さんはキラキラした目で俺を見てくる。
よせ、やめやい。照れるではないか。大体、前世の知識をひけらかしたところで、それを発見したのは俺ではないしな。自慢できるものでもないのだよ。
「あっ!」
突然ライン兄さんが大声を上げた。
「何? どうしたの?」
俺がライン兄さんに尋ねると、ライン兄さんは申し訳なさそうに言ってきた。
「ねぇ、セオ。実物を見るの明日以降でいい? 見に行って確認したら本当に魔術を教えて貰えなさそうなんだよね」
なんだ。そんな事か。ライン兄さんは結構、気にしいだな。
しかし、
「……。ねぇ、なんで今日にこだわるの?」
明日でもいい筈でなのある。ライン兄さんが自分の趣味の時間を削ること自体、珍しいのだ。これはなんかありそうだ。
「……、いや。明日の稽古さ、エド兄と魔法対戦なんだよね。それでさ、まだ一回も勝ってないんだよ。それに明日負けたら、30連敗になってしまうんだよ。だからさ、その、明日ぐらいは勝ちたくって」
あー。そういえば、ライン兄さんって意外と負けず嫌いだからな。戦闘とか戦うのは好きではないけど、負けるのはめっちゃ嫌いなんだよな。本当、意外な事に。
「それで、魔術を使ってエドガー兄さんに一泡吹かせたいと?」
「はい」
ライン兄さんは素直に頷く。……もしかして、最初からこれ狙いだったとか。シロポポの話だって明日とかでも良かったはずだし。
まぁ、いいか。
それにしてもエドガー兄さんか。
んー。
よし、あれがいいかな。
「いいよ。今日はライン兄さんがエドガー兄さんに勝つための特訓をしてあげる。他の魔術や魔法などは紙にまとめておくよ」
「本当! ありがとう!」
ライン兄さんの今日一番の満面の笑みを見れたし、よかったかな。それに、俺も剣も魔法も強いエドガー兄さんが負けるところを見たいしな。
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