第3話:気ままな子:this spring
「相変わらず凄いよね」
ライン兄さんは眼前に広がる光景に呆れとも似つかない感情を漏らす。シロポポが目測数百メートルにも広がる光景は、普通ならどう考えてもあり得ないからだ。
薬草庭園は、俺が住んでいる屋敷から数分歩いたところにある。そして、そこは開けた場所ではあるが、数百メートルにわたって花が咲き誇るほどの広さはない。薬草庭園の外見は百メートル四方の草木の壁に覆われた場所なのである。
中に、シロポポが数百メートルも広がる。ましてや、世界中のあらゆる植物が、あらゆる気候条件――森、山、砂漠、荒野、雪、氷山――が存在できる空間の大きさではないのだ。
それを可能にしているのは、
「本当に凄いんだよ! ホント、どんだけの空間魔法の技量があれば、こんな馬鹿みたいな空間拡張できるんだろな!?」
空間魔法である。
俺は地団駄を踏む。ぶっちゃけ、この光景は常識を疑うレベルを余裕でぶち抜き、世界を疑うレベルなのである。まぁ、つまり、明日世界は滅亡しますって言われた感じだ。そんなのあり得ないと思うレベルなのだ。
「父さんが言ってたけど、ちょっとした異空間が創れれば、これくらいは簡単なんだって」
俺の様子を苦笑しながら見ていたライン兄さんは、少し茶化すように言った。
それによって俺の心はさらにヒートアップ。
「それは俺も聞いたから分かってる! けれどこの世界に空間魔法を習得している人がどれだけいる!? 少なくとも両手で数えられる! そしてそんなかで、異空間を創れる人なんて一人いるかどうか! 神様レベルなんだよ! そもそも、空間魔法は幻想魔法! お伽噺にしか出てこない魔法! 適性
「ハイハイ落ち着いて」
ライン兄さんが俺の頭に手を置き、落ち着かせる。頭を撫でられる。
「空間魔法の魔術化が上手くいってないからだろうけど、熱くなりすぎだよ。今日はボクが語るんだよ。その愚痴はまた、今度聞くからさ。ね?」
ゆっくりとあやす様に言うライン兄さん。
恥じる俺。
「……ごめん。ありがとう。ライン兄さん」
ああ、もう。情けない。年下(精神年齢)に慰められるとか。穴に入りたい。
「いや、大丈夫だよ。にしても、恥ずかしがっているセオって可愛いよね。普段、大人びている感があるから余計だよね。ぼんやりして達観している顔が、真っ赤に染まるのは見ていてなごむよ」
ライン兄さんは生温かい目で俺を見てくる。
くそぅ。頭をなでなでされてて、めっちゃ恥ずかしい。しかも、肉体に精神が引っ張られているせいで、俺の反応も年相応な感じだし。自制心が利かない。
はぁ。恥ずかしい。
けど、まぁ、ありがたいんだよな。こうして接してくれるのは。
ライン兄さんは俺が転生者だってことを知ってる。俺が二歳になった時らへんに、アテナ母さんから聞いたらしい。なんでも、知らないことを良く知っているから気になったとか。
まぁ、使用人も含めて全員が知っているのだが、それは置いておく。
ライン兄さんは俺が精神的に年上だと理解できている。それだけの理解力があるのだが、その上で俺を弟扱いして、見守ってくれるってのは嬉しいもんである。
本当。家族や使用人たちには感謝しかない。普通はつまはじき、下手したら殺されていたかもしれないんだから。
この世界の常識としても、転生者はお伽噺の存在で、しかも異世界からというのはある意味の爆弾だから、家族以外には言ってはいけないとロイス父さんとアテナ母さんから言われている。
はぁ、だがなー。精神年齢では俺がライン兄さんを見守らなきゃいけないので、頭を撫でられるのはちょっと複雑だ。
少し
向かうは、シロポポエリアの中心である。今俺たちがいる場所はシロポポエリアの高原ゾーンで、薬草庭園の入り口からだと、シロポポエリア内で一番近いのだ。
だが今回は高原だけではなく、全環境を見る必要があるので、全環境へと繋がっているシロポポ中央広場へと向かう。そこなら、話に合わせて各環境に行けるし、また、話し合うにはちょうど良い環境がそろっているからだ。
にしても、良い匂いだ。清涼な風に、淡い花の甘さが乗っていて、心を洗われる。
この空間は外の環境とは隔絶されている。それ故か、早春特有の寒さではなく、涼しさという言葉が良く似合う風が踊り舞っている。
いやー。この白に染まった草原の上で寝たら、なんと気持ち良い事か。
ふぁー。何か眠くなってきた。スヤーって感じになっている。俺は姫でもないが、でもそんな気分になってきた。
だが、そんな俺を目敏く見つける者がいる。
「もう、セオ。眠くなるのは分かるけど、寝るために来たんじゃないからね」
ちっ。よく見ている。流石だ。何が流石かは分からないが。
「分かるなら少しは寝させてよ。どうせ今日は要点だけだから、時間は余るじゃん。魔術に関しても、ライン兄さんは無属性魔法に適性あるっぽいし、基礎も分かっているから、例の部分を教えるのにも時間はかからないよ」
「だとして駄目。どうしても寝たいなら、全て終わってからにして」
「はぁーい」
俺がそう返事をすると、ライン兄さんは「まったくもう」と呟く。呆れ顔を頂戴しました。
そうして高原ゾーンを歩いているうちに、小さなアーチ状の扉が見えてきた。
「やっと見えてきたよ。はぁ、意外と距離があるよね」
「歩き以外の移動手段が欲しい」
「まぁ、確かに」
そんな事を話しながら、ライン兄さんは扉を開けた。
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