第2話:三か月後:baby
俺がこの星、“トート”に転生してから三か月が経った。何故、星の名前が分かったって? メイドが話してくれたんだよ。
そう、メイド!
貴族に転生すると言われてから考えていたが、本当にいるとは。それも見た目がオタク文化によくあるえっちぃ奴ではなく、楚々と凛としている白を基調としたヴィクトリアンタイプのメイド服を着ていたのだ!
めっちゃ感動した。最初は。
まぁ、当たり前なんだけどさ。見た目が感動モノでも中身がさ。いや、仕事が出来ていないとか粗相があるとかではなく、普通に家政婦として働いている。一人を除いて。
俺が転生した家はマキーナルト家という子爵家だ。
メイドたちの話では十年前にロイス・マキーナルトとアテナ・マキーナルト、つまり俺の父さんと母さん、それと当時の冒険者パーティの仲間二人と共にエレガント王国を襲った
その功績としてエレガント国王より子爵の爵位と領地を賜ったらしい。それと冒険者は魔物の討伐を主な仕事とする万事屋みたいな職業らしい。
ロイス父さん以外の残り三人にもその話があったらしいが、面倒という理由で爵位や領地はいらないと断ったらしい。高ランクの冒険者にはよくあることらしい。というか、ロイス父さんの方が珍しいのだとか。
あと、アテナ母さんはその時にはロイス父さんと結婚することが決まってたらしく、それで断ったとか。
また、ロイス父さんの冒険者パーティは英雄としてエレガント王国だけでなく、大陸全土に名が知れ渡っているくらいの人気者らしい。アイドル的存在なんだと。
ここら辺の話はクロノス爺に聞いた話と一致している。プラスされたところはあるが。
ロイス父さんは貴族としての優雅さはそこまで望まなかったらしく、エレガント王国内でも辺境と言われるマキーナルト領を賜ったらしい。
で、その領地はヤバかった。
メイドの話によると、ロイス父さんがマキーナルト領を賜る前までは魔境―魔物がうじゃうじゃいる土地―で、そこをロイス父さんとアテナ母さん、そして、二人の冒険者パーティの仲間であり、今はマキーナルト家の庭師兼料理長であるアランというドワーフの男によって長閑な田舎へ転変させたといっていた。
すげぇ。ちょーすげぇ。
そう、ドワーフ。嬉しい?ことに指○物語に出てくるような見た目ではなかった。先ず、大きく違うのは角が生えているのだ。額から刀のような鋭い角が生えている。また、背が低くない。普通にガタイがよくデカかった。180cm近くはあると思う。髭もじゃではなかった。女性も髭もじゃではないらしい。
普通に人間と同じで人によりけりらしい。
メイドらしくないメイドが言っていた。
マキーナルト家の使用人は少ない。一般的に貴族は最低でも十数人以上の使用人を雇っているらしい(メイド情報)がうちは五人だ。
一人目は、ロイス父さんの執務の補佐兼使用人長の執事であるバトラ爺。
どっかの戦場で首でも狩ってそうなほど強面で、執事服の上からでも判るほどの筋肉を持つ老人だ。御年七十歳だそう。全くそうは見えないのだが。
ただ、怖いのは見た目だけで中身は好々爺である。
何回かロイス父さんと一緒に俺に会いに来てくれたのだが、めっちゃデレデレだった。ちょっとバトラ爺にニコッと笑うだけで頬をだるんだるんに緩ませて、渋いダンディーな声で赤ちゃん言葉を喋っていた。
まぁ、見た目も相まってかめっちゃ不気味でシュールだったが。
因みに執事はバトラ爺ただ一人だけである。
二人目はマリーさん。
マリーさんはメイド長を務めており、また、バトラ爺の奥さんだ。バトラ爺とは二十近くも年が離れている。年の差結婚である。おしゃべりなメイドらしくないメイドによると、マリーさんがバトラ爺を射止めたらしい。ふぅー、やるーー!
マリーさんは日本人らしい美しさを持つ女性だった。腰まで届く絹のような漆黒の髪を後ろで纏めていて、どんな動作においてもシャンとしていて大和撫子だった。メイド服がとても合っていてヤバかった。語彙力が無くなるくらいにはヤバかった。そう、あれだ。世界トップの女優的な感じだ。言葉だけでは形容し難い美しさがあるのだ。マリー様と呼んでも良いくらいだ。
ただ、怖い。
マリーさんは俺たち
将来、俺もこの講義を受けるのかと恐怖してしまったのだ。勿論、泣いたのは肉体に引っ張られてだけで、俺が泣き虫なわけではない。けして、違うのだ。
ただ、一緒に見学していたライン兄さんはどうもそう思わなかったらしく、興味深々に見学していた。そして、その講義をエドガー兄さんたちより先に理解した。天才か! もしかしたらライン兄さんはギフテッドかもしれない。前世の親友の一人がギフテッドだったのだが、その親友と同じようなIQが高いだけではない知性を感じたのだ。精神成熟性も。
ただ、何か違う感覚も感じるので確かなことは言えない。
三人目はアラン。庭師兼料理長だ。ロイス父さんたちと冒険者パーティを組んで旅をしていたらしい。硬質の黒髪と黒目、そして黒色なのに何故か光っている刀のような角はとても印象的だ。
アランは冒険者時代から園芸が趣味だったらしく、ロイス父さんが爵位を賜ったときに一緒に冒険者を引退し、庭師として雇ってもらったんだと。また、冒険者時代はアランが料理担当だったとかで、その流れのまま料理長になっているとか。
ただ、この料理長。部下がいない役職だそう。
たまに、メイド達が手伝ったりするが、基本的には一人で料理の準備をするらしい。それならただの料理人でいいと思うのだが、料理長といったほうが何かと都合がいいらしい。
四人目はユナ。赤茶色のセミロングと瞳を持つ十代後半くらいの女性だ。ハキハキとした娘で元気がいい。しかもしっかりしていて、頼りがいがある。メイドの仕事を丁寧にこなしていて、マリーさんも大いに褒めていた。
五人目はレモン。問題児である。
見た目は良いのだ。
しかもだ! しかもだよ。ケモ耳と尻尾をもっているのだ。
トートには獣人という獣の特徴を一部宿した人類種がいる。レモンはその中でも森狐族という種族で狐耳と狐尻尾を持っているのだ。もふもふだ。超もふもふだ。
一回、触ったのだがめっちゃ気持ちよかった。
本当に見た目だけは良いのだ。
中身は残念であるが。
本当に残念なのである。仕事を全くやらず、しょっちゅうマリーさんに怒られている。しかも、よく寝ているのだ。いつも、眠たそうな目をしていて隙あらば寝ている。反省している様子もない。
今は俺のお守りとして俺のそばにいるのだがしょっちゅう寝ている。で、マリーさんに見つかって怒られているのだ。
ただ、不思議なことにロイス父さんが何度かその様子を見たのだが、レモンを注意しなかったのだ。むしろ、寝ていて大丈夫だと言っていた。俺はロイス父さんがケモ耳っ娘に弱いのではないかと睨んでいる。アテナ母さんにお仕置きされてしまえ!
まぁ、その駄メイドが暇潰しとして俺に色々と話をしてくれるので情報を得るのに大いに助かってはいる。にしても、生後三か月の子供に何を言っても分からないと思うのだが……。まぁ、こういうものか。
魔力操作の進捗はまぁまぁだ。
最初の方は辛かった。魔力がほとんど動かないので、やめようと思ったくらいだ。
しかし、俺は諦めなかった。一ヶ月も殆ど動かない魔力を動かそうと起きている時間のほぼ全てを費やした。ちなみにそれ以外は授乳と泣くことに時間を使った。
そして、一か月後。
俺の努力は報われた。急に魔力が抵抗なく動いたのだ。そこからはずっと体内で魔力を循環させている。日に日に魔力が滑らかに動くようになっていくのは楽しい。
が、ここで問題が一つあった。魔力を体内で循環させていたのだが、循環させているうちに魔力が減ってしまうのだ。そして、魔力の量が残り僅かになると精神的倦怠感が襲ってくるのだ。これが意外と辛い。
俺の魔力量は少なく、魔力操作の訓練をしているとすぐに魔力が減るのだ。そのおかげで、いつも倦怠感と戦っている。
だが、ここで朗報があった。魔力を使えば使うほど魔力量が微々たるものだが増えているのだ。
しかもだ。魔力を使い体内魔力を枯渇させる、つまり魔力を使い切ると魔力の増えようが上がるのだ。その代り、精神的倦怠感と虚脱感が襲ってきて辛いが、暇の苦痛の方がもっと辛いので我慢が出来た。
そういうわけで魔力操作の訓練は順調ではないがいい方ではある。
ただ、それ以外の進捗はあまりない。
ステータスの変化はない。起きた毎に確認しているのだが、全く変化はな……。いやあった。一つだけあった。“渡り人”の説明の後半部分がいつの間にか消えていたのだ。どうでもよい変化だ。
あ、そうそう。駄メイドレモンが言っていたのだが、先天的に持つ
後天的な
あっ、でも裏ワザとして
この三か月間で一番分かったのはクロノス爺の話は結構抜けていることだ。
確かに、俺が詳しく聞かなかったのが悪かったのだが、それでも一般常識くらいは教えてくれよ、と傲慢にも思ったりする。
話すことが無くなった。電波はこれくらいにして……、
「オギャー、オギャー」
泣くことにした。あと、これだけは言っておくが生理的現象であって俺は泣き虫ではないのだ。俺は泣き虫ではないのだ。大事なことだから二回言う。
俺は泣き虫ではない。
これ大事。あっ、三回だったわ。
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