閑話:baby
「ふぅ、やっと寝たわ」
「ようやくかい」
「えぇ」
男女が話している。窓から零れる月明かりが幻想的な美しさをその場に
女性は優しい手つきで傍にいる赤ん坊の頭を撫でる。
「アテナ、少しは寝たらどうだい。僕らは一ヶ月くらい寝なくても平気だけど、それでも寝た方が良い。セオを産んでから寝てないだろう?」
男が女性、アテナに心配そうな声をかける。
「ええ、でもとても不安なのよ。この子は産まれる前から生命力が弱くて、無事に産まれたかと思えば気配がとても薄い。たぶん、
「なら
男性は優しく、けれどハッキリとした口調でアテナに睡眠を促す。ティーカップをアテナに差し出す。
「けれど……」
それでもアテナは心配そうに声を上げる。
「大丈夫。大丈夫だよ。それとも、僕を信頼できないのかい」
男性はアテナにそっと寄り添う。
「……。ずるいわよ、ロイス。そんなことを言われたら寝るしかないじゃない」
アテナは観念したように呟く。アテナが纏っていた張り詰めた空気が弛緩していく。
スッ。アテナはそっと受け取ったティーカップを口に運ぶ。
「ふぅ」
アテナは
アテナの目がトロンとしてきた。彼女が本来纏っていたであろうおっとりとした雰囲気が彼女を覆う。
うつらうつらとアテナが船を漕ぎ始める。
そして……
「おっと。ようやく寝たか」
倒れこむように寝たアテナを男性、ロイスがそっと受け止め、穏やかに「お疲れさま」と
「レモン」
小さく、けれど、聞こえぬことなどない静謐な声がその場を満たす。
「はい」
スッっと何処からともなく女性が現れた。白を基調とした上品な服―メイド服―を着ており、艶やかな小麦色の狐尻尾をゆらりゆらりと揺らしている。
「僕はこれからアテナを寝室へ運ぶ。セオを頼んだよ」
ロイスは何故自分は二人いないのかと悔さをにじませた声で、レモンと呼ばれた女性に命令する。
「かしこまりました」
レモンは恭しくロイスに礼をする。
ロイスがアテナを胸元に抱える。お姫様抱っこだ。
そして、その部屋の扉の前へ歩く。すると、スッと扉が勝手に開いた。ロイスはそんなことなどお構いなしに毅然とした態度でアテナを揺らさないように抱えながら出て行った。
ファタン。扉が静かに、そして独りでに閉まる。
「さてと」
レモンは呟く。
「仕事を果たしますかね」
レモンは静かな闘気を漲らせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます