一章:異世界生活:赤ん坊
第1話:I was born:baby
「オギャー。オンギャー。ギャー、ギャー」
泣き声が聞こえる。とても近くで泣いている。
「オギャー。オギャー」
浮遊感を感じる。
世界が眩しい。
音がとてもくぐもっている。
体が縛られているように動かない。
「オギャー。オギャ」
っていうかさっきからうるさいな!
「オギャー。オギャー」
ん? というか、この泣き声、俺から出てないか?
「オギャー。オギャー」
ああ、やっぱりそうだ。この泣き声、俺から出てる。ということは俺は転生したんだな。
そうか、転生したのか。全く実感を得られないけど。
視界はめっちゃぼやけてて、そのくせとても明るい。
音はほとんど聞こえない。というより、音自体は聞こえているのだが、雑音っぽくて頭に入らないのだ。
赤ちゃんが感じる世界ってこんな感じなのかな。
体は動かない。体を動かされているのはわかる。
たぶん、両親が……? 両親?
なんかしっくりくるな。両親がしっくりくる。
転生するときの唯一の不安点が転生先の家族のことだった。いや、家族というより家族に対する自分の感覚が心配だったのだ。
前世があるから、両親が二組いる感じになってしまうし、どんな感覚なのかとても不安だったのだ。
だが、しっくりくる。今世の両親がいるであろうが、彼らを両親として考えるのがしっくりくるのだ。肉体に精神が引っ張られているのか。まぁ、考えても仕方ないか。
そんな事を考えていたら、何か聞こえた。今回ははっきりと言葉として聞こえた。
――名:セオドラー・マキーナルトを授かりました。――
ん。名前を授かった。今世の俺の名前だろう。
どっちが性でどっちが名なんだろう?
確か、セオドラー・マキーナルトと言っていたよな。
セオドラー。セオドラー。うん。たぶん、こっちが名だろう。
そういえば、ステータス。
ブオォーン。
≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣
ステータス
名:セオドラー・マキーナルト
天職:細工師
能力:細工術・分身・宝物袋・健康・魔力操作・隠者
≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣
お、埋まってる。埋まってる。
えー、何何。
うん。名前はセオドラー・マキーナルトか。いい名前だ。うん。めっちゃ気に入った。
あれ? 見覚えのない
ああ、そういえばクロノス爺が
まぁ、クロノス爺のことだから変なのは選ばないと思うけど……、少し心配だな。
確認するか。
あっ、でもどうやって触るんだろう。というか、今、俺は視界がぼやけている筈だからこんなはっきりとステータスが見えないと思うんだが。
ということは、このステータスは俺の心象風景とかそんな所で見ているのか。
だとしたら……。
むむむ。
ブオォーン。
≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣
隠者:隠れること、隠すことを補助をする。また、存在感が薄くなる。
≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣
よし、思った通りだ。
さてさて、何々。ふむふむ。
名前の通りか。にしても存在感が薄くなるか。良いのか悪いのか。たぶん、クロノス爺は俺が言った、「目立ちたくない」の一言を気にしてくれたんだろうが……。ま、ありがたいことだし良いか。
暇になった。急にやることが無くなった。
やることがない。赤ちゃんってやることがない。体動かせないし。
暇って感じたら眠くなってきた。
ふぁーーぁ。
眠い。寝よ。
Φ
ん? もう朝か。
眩しい。けれど、まだはっきりと見えない。明暗と多少の色の区別が出来るようになった。
体は……まだ、動かない。少しは動くが、本当に少ししか動かない。
音は聞こえる。ただ、エコー的な感じに聞こえ、音が聞き取り辛い。
そして、暇だ。
体がゆらりゆらりと揺れているのがわかる。感触からして女性だろうか。母親かもしれない。視界は相変わらず色を認識できない。明日にはわかるといいんだけど。
あれ? 口になんか当たる。
自然とそれを咥える。
乳だった。何か複雑な気分。精神的には大人の筈なのに、やはり肉体に精神が引っ張られているのか。まぁ、思考は脳で行っているから引っ張られるのは当たり前なのだが。
ん? というか、俺の記憶が正しければ、今回が初めての授乳だよな。ということは、俺が生まれてから数時間も経っていないのか。確か、姉が子供を産んだときは産んだ一時間以内に授乳していたし、何かそれをしなきゃならないとか言ってたしな。
じゃぁ、俺は寝て、直ぐに起きたのか。朝なのかはわからなくなったな。
そういえば、新生児は1時間から2時間のサイクルで寝たり起きたりするんだっけ?
んーーー。わからん。
まぁ、今大事なのはめっちゃ泣きたい。超泣きたいのだ。
だから泣く。
「オギャー。ギャー」
それから少ししたら泣きたいという衝動が無くなった。誰かが俺の体をゆらりゆらりと心地よく揺らしてくれたおかげかとても心地いい。
にしても、また眠くなった。
俺は衝動に逆らわず寝る。
Φ
そんな生活をたぶん一週間ほど繰り返した。一週間と判断したのは顔が見えたからだ。
この一週間本当に暇だったので必死になって赤ちゃんに関する知識を呼び起こしていたのだ。思い出せた知識は多くなかったが有用なものを幾つか思い出せた。
その一つに新生児は産まれてから約一週間で両親の顔の認識を始めるらしい。なので、それをもとに一週間と判断した。
それはそうとして、パパンとママンがめっちゃ美形だった。
ママン(たぶん)はおっとりした感じの白人美人だった。腰まである緑がかった金髪と翡翠が輝く瞳をもっていて、深窓の令嬢的な雰囲気がある。あと授乳の時に気が付いたのだが、それはもう素晴らしい
パパン(たぶん)は爽やか系のイケメンで、金の御髪と蒼穹の瞳の持ち主だった。しかも、一回抱きかかえられた時にわかったのだがこっちも素晴らしい
わかったのはそのくらい。あと、ママンが四六時中俺の傍にいるのだ。これに関してはとても気になる。ママンが心配だ。
なので、必要最低限以外は泣かないようにしている。あと、ママンの顔の動きや音などには出来るだけ反応している。気休めにしかならないだろうが。
ただ、やっぱり暇だった。
ステータスを無駄に眺めているくらいには暇だった。
そんなにステータスを眺めていたからか、この日、ステータスに変な文字が見えるようになった。
≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣
ステータス
名:セオドラー・マキーナルト
天職:細工師
能力:細工術・分身・宝物袋・健康・魔力操作・隠者
称号:渡り人
≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣
称号という項目が増えていたのだ。
称号というところを念じてみる。
≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣
称号:個が星を経由して授けられた加護。個が為した行動や人類種からの特定の想いによって定まる。
≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣
ゲームにある称号とあまり変わらないような気がした。
次に“渡り人”を念じる。
≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣
渡り人:世界の隔たりを超えたものを指す。わー、すごいですねー。
≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣
んん?
何かおかしいのが後半にくっついているのだが。
ん。ま、いっか。
最近、自覚したのだが深く物事を考えなくなっている傾向がある。精神が肉体に引っ張られているせいだろうか。
眠くなってきたな。また寝る。
Φ
気持ちのいい寝起き。
清々しいほどやることがない。
ふと思った。
早速、試してみる。
先ずは“細工術”。
……。手が動かない。使えない。
はいっ。次、次。
“分身”。
むむむ。
念じても出来ない。イメージが足りないのか。いやでも“分身”の説明では発動時間に差はあれど、念じれば発動可能と書いてあった筈なんだが。
あっ、そういえば“分身”を発動させるのに魔力を使うんだっけ。もしかして魔力操作の繊細さがここでも必要とか?
まてまてまて。つまり、なんだ。魔力を使う
ふざけんな!!
クロノス爺! マジふざけんな! そこの説明をきちんとしろよ!
“魔力操作”を取ってなかったら詰んでたんじゃねえか。というか、“魔力操作”を持ってても使えないのかよ。
ということは、“宝物袋”も発動時に魔力を使うから……、マジか、“分身”と“宝物袋”は当分使えないのか。
早急に魔力操作の技術を鍛えなきゃな。マジで早急にだ。
じゃぁ、“魔力操作”は後回しで、先に“隠者”を使うか。
むむむ。
おっ。何か自分の気配っていうか何というかそういうものが薄くなった感じがする。
ん!? 何、どうした!
何か、急に大きく揺れた。パニックしているよな声が響く。
あっ、やべっ。そりゃそうか。傍にいた我が子の気配が急に薄くなったのだ。体調が悪くなったのかと思ったわけだ。
あぁ、悪いことをしたな。
当分“隠者”も使えないのか。
つまり、“魔力操作”を鍛えろと神はおっしゃっているのか。実際、神がきちんと話をしておけばよかったわけだし。クロノス爺、少し恨むぜ。
では、“魔力操作”を使ってみるか。
むむむ。ん? むむむ。
えっ! むむむ。むむむ。
あーあーあー。まじか。全く動かんのだが。
魔力というものは感知できた。感覚的なもので説明し辛いが血管みたいに体中に張り巡らされている感じだ。感じなのだが、ピクリとも動かない。
一応、動かせないという感触が伝わってくるので、手ごたえがないというわけではない。が、やはり、動かない。大きな
正直、諦めそうだ。だが、やらなければならない。やらなければ何もできないのだ。
根気よく、根気よく、頑張る。
Φ
一週間近く経った。
この一週間の成果として、魔力が少し動いたのだ。ほんの少しだが。
ほんの少しでも、大きな快挙である。
あの
希望が見えてきた。都合のよいことに俺はめっちゃ暇なのだ。赤ちゃんってホント暇。
なので、その暇を全力で費やす。早く、“分身”を使って、働かなくて済むようにしたいから。
それはそれとして、この一週間で分かったことが幾つかある。
音声言語が日本語だったのだ。
聞こえる音は間延びして、うるさいのだが、それでも音を聞き取ることが出来るようになってきた。
それによって分かったのだが、――もう一度言おう――、音声言語、つまり聞こえてくる言語が日本語だったのだ。
文字は日本語か分からないが、パパンとママンが出す音が規則を持っていて、そしてその聞こえてくる音と規則が日本語と同じだったのだ。
これはめっちゃうれしい。一から言葉を覚えるのは大変なのだ。特に、英語みたいな言語法則だったら、詰んでた可能性があるほどだ。
それが、話し言葉は日本語。書き言葉は日本語かどうかは確認できていないが、話すのに困らないのはでかい。
そして、それからパパンとママンの名前が分かった。
パパンはロイス・マキーナルト。ママンはアテナ・マキーナルトという名前らしい。
二人とも名前が似合っていてかっこいい。
あと、兄姉の名前も分かった。
長男はエドガー・マキーナルト。長女はユリシア・マキーナルト。二人とも六つ上だ。
次男の名前はラインヴァント・マキーナルト。二つ上だ。それにしても名前がかっこいい。
そして、みんな美形だった。
エドガー兄さんは父親譲りの金色の短髪で紺色の瞳を持ってた。顔つきは子供なのにも関わらず、野性味溢れていて、ワイルド系のイケメンだった。だが、雰囲気は意外と落ち着いた感じを持っている。めっちゃ頼りになりそう。
ユリシア姉さんも父親譲りの蒼穹の瞳と艶やかな髪を持っていた。晴天の青空の髪は見ていて元気が貰えそうなほど美しく、瞳は吸い込まれそうなほど
ラインヴァント兄さん、略してライン兄さんはそれはもう、王子様だった。二歳でありながら、儚さを強調する優しい緑がかった白髪で、純粋無垢を映し出す翡翠の瞳。華奢で無垢さを象徴するような顔立ち。可愛かった。めちゃ可愛かった。ショタコンに目覚めそうな程にはヤバい破壊力を秘めていた。
目覚めたらヤバいが。
そして、俺は今、めっちゃ期待をしている。前世では冴えない容姿だったのだ。冴えないおっさんだったのだ。それが今世では。何か充実感がある。
俺も美形だ。そう思っているのだ。そう思っているのだが……。
うん。そうだと良いな。
何か、いやな予感がするのだ。こう、今までの状況からいやな考えが脳裏に浮かぶのだ。
俺はそれを振りかぶる。今考えてもしょうがない。あと、もう二年ぐらい成長すれば結果がわかる。
それまでの間、この充実感を堪能しよう。そうしよう。
そんな、阿呆みたいなことを考えながら俺は少しづつ成長していった。
勿論、魔力操作の練習は欠かした日がないくらいには頑張ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます