【BOSS】焼き焦げる大地――アレアの狩場
専務、暴れる。 前編
……若干の浮遊感ののち、スニーカーが硬い地面を踏む。顔を上げると、火山地帯のような熱気が全身を包んだ。ガスのような息苦しさを感じるが、呼吸にも体調にも問題はない。バフォメロスがもたらした加護の効果だろうか。
『アラタ、平気かい?』
「うん、問題ないの」
『……奴は十時方向から来る。今のうちに警戒しておいて』
「了解――なのッ!」
片手を勢いよく伸ばし、十時方向に水色の結界を展開する――と、そこに巨大な緑色の鳥が、弾丸のように突っ込んできた。爆発的な熱が二人に近づくけれど、それは結界に阻まれて、氷月たちに触れることはできない。結界に近づき、ウィルは緑色の怪鳥――アレアに目を合わせた。
『久しぶりだね……魔物アレア』
『あぁ……? あの時のチビ妖精どもの一体か?』
長いくちばしから、はっきりとした言語が吐き出される。巨大な翼をはためかせつつ、思い出せないように首をひねる。しかし動じないまま、ウィルは口を開いた。
『そう。君を浄化しようとして、失敗した光の妖精さ』
『ハッ、だからまた挑もうってか? 何度挑もうったって無駄だよ。あらゆる生命は俺に焼き払われて当然だ。それが運命だ』
「……ふうん?」
柔らかい声が、硬く低く響く。眠そうだった瞳が、暗い意思を宿して怪鳥を睨む。興味なさそうに首を傾げるアレアに、氷月は静かに、暗く言い放った。
「それが運命なの? そんなくだらないものが運命なの?」
『くだらない……だと?』
「くだらないの。そんなもの否定してやるの。カミサマだか誰だか知らないけど、そんな奴らのおもちゃじゃ終われないの。それが僕たちMDCの在り方なの!」
堂々と言い放ち、氷月は片足を引いた。両手に結界の輝きを纏わせ、アレアを睨む。ウィルが白い光を強め、彼を視線で射抜いた。対し、アレアはひときわ派手に翼を広げ、言い放つ。
『それこそくだらない。たかが子供の
「望むところなの――!」
結界が解除され、同時に深い青の結界が彼の両腕に纏わりつく。腕にブレード上の結界が装着され、氷のような冷気を纏った。彼が地を蹴ると同時に、アレアも彼に肉薄する。
青いブレードと緑色の爪が交錯する。ひどい熱気にパーカーの裾が焦げる。アレアの爪の一撃を、氷月はブレードをクロスさせて防いだ。同時に爪が蒸発するような音を立て、アレアは勢いよく距離を取る。
『……なんだ、その力は!』
「魔王様ぱうぁーなの! 説明終わりなの!」
『――ッ!』
距離を取ったタイミングを見計らい、ウィルのすぐ前に白い光の玉が出現する。それは極限まで絞られた光線と化し、十数本がバラバラに放たれた。それらはアレアの翼に収束するが、痛痒を与えた様子は見られない。
『ハッ、やはりその程度か、小さい妖精! お前一匹の力では俺を倒せないようだな!』
『……そうだね。僕一人じゃできない。だけど、僕にはアラタがいる』
「いくのっ!」
空中に弾性のある結界を展開し、それに飛び乗っては渡っていく。自身の周囲に青い矢の形の結界を展開し――アレアを指さすと同時に、それらは次々と怪鳥に向かって放たれていった。
『ぐ、あっ……!』
『高い再生能力を持つアレアが、痛がっている……? 一体どういうことなんだい、アラタ?』
「魔王様が僕の結界に水属性の加護をくれたの。ついでに精霊特効付きなの! これで大ダメージ間違いなしなの!」
『……っ、くっ、ククッ……甘い、甘いな!』
――爆発的な熱量。衰えることのない炎。振り返ると、傷一つないままのアレアがすぐ後ろまで迫っていた。反射的に広域結界を張りつつ、氷月は彼を睨む。
『……奴は、あの巨体のどこかにある本体の羽根を壊すことで倒せる。だけど、それが残っている限り倒せない……どんな攻撃もたちまち回復されてしまうんだ』
「だからさっき攻撃を散らしてたの?」
『そう。精神浄化も本体の羽根以外には効かない……つくづく厄介な魔物だよ』
顔文字じみた瞳がアレアを睨む。ウィルの周囲でいくつもの光の玉が収束する。同様に氷月も周囲に大量の結界矢を作り出す。アレアがこちらに迫ってくるタイミングを狙い、光線と矢を射出するが――アレアの側から放たれたのは、爆発しそうなほどの炎だった。
『――火炎放射!? アラタ、大丈夫かい?』
「問題ないの! 攻撃続行なのー!」
炎と結界矢が交錯する。青い矢と白い光線がアレアを撃ち抜く。しかし、致命傷を与えた様子はない。水色に輝く結界で炎を防ぎながらも、氷月は打開策を必死に探す。空中の結界を渡り、次々と矢を放っても、怪鳥は復活を、再生を繰り返す。
――と、その脳裏に、あの重く深みのある声が響いた。
To be continued……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます