専務、友情を育む。 後編
『……皆、聞こえるかい? 結界を通して、君たちに話しかけている妖精だ』
最早結界という一言では言い表せないほどの多種多様なエネルギー体を通じ、ウィルの声がコボルドたちに響く。レッドがぴくりと顔を上げ、インディゴが警戒するように口を開いた。
「……妖精?」
『そう、妖精さ。アラタ以外には見えない。……少し、話をしてもいいかな』
「話だと? そんな見え透いた罠に――」
「やめろ、インディゴ!」
レッドの声に、インディゴは大人しく口を閉ざす。相変わらずほわほわと笑顔を浮かべている氷月を見つめ、レッドは促すように頷いた。
「……それで、話っていうのは?」
『よかった、聞いてくれるんだね。……僕たち妖精族はかつて、魔物討伐に総力を挙げたことがあった。あの魔物は手当たり次第に生き物の命を奪う……たくさんの生き物の心が泣いていたよ。僕たち妖精には、それがわかるんだ』
ブルーが息を呑む音。イエローが俯く気配。言葉を失ったようなレッドに視線を向け、氷月はふわりと微笑んだ。ウィルの言葉は続く。白いカンバスを絵の具で染めていくように。
『たくさんの生き物が泣いているのを、妖精は見ていられなかった。それに植物の妖精や、土の妖精は言っていたよ……「魔物のせいで自然がおかしくなっている」ってね』
「……そんな」
「それにね、もうすぐ魔物たちの大侵攻が起こるって、王さまが言ってたの……そんなことしたら、人間も植物も動物も、みーんなダメになっちゃうかもしれないの。ねえ、コボルド戦隊さん。そうなっても、皆は魔物の肩を持つの?」
泣きそうな妖精の言葉と、淡々とした青年の声。逆に動揺したようなインディゴの息遣いに、顔を上げたのはレッドだった。真っ直ぐな視線で氷月を見つめ、堂々と口を開く。
「……それは本当なのか?」
『うん。証明はできないけれど』
……一瞬、ウィルのいるあたりが白く光り輝いた。本来彼の姿が見えないはずのコボルド戦隊にも、はっきりと見えるほどに。白い光はまるで聖堂に満ちる陽光のようで、グリーンは思わず息を呑んだ。
ふと、レッドが小さく息を吐く。その口元を笑顔の形に緩め、彼は二人を見上げる。鎖の拘束などものともせず、背筋をぴんと伸ばして口を開いた。
「……わかった。どうやら我々が間違っていたようだ……」
「レッド……?」
「止めるな、インディゴ。……償いといってはなんだが、君たちに協力しよう」
「本当なの!? 嬉しいのー!」
子供のように無邪気にはしゃぐ氷月と、感謝するように身体を回転させるウィル。レッドを冷ややかな目で眺め、インディゴもゆっくりと立ち上がる。
「……妖精の証言と人間の強さ。この面子なら、もしかすると魔物にも立ち向かえるかもしれないな」
「ああ! な、俺たちにも協力させてくれよ。その魔物って強いんだろ!?」
「僕たちにできることがあるかは、わかんないけど……その、よかったら」
「……足手まといにならなければ、ですけどね」
次々と放たれるコボルド戦隊の言葉。それはきっと、協力の申し出と取っていいのだろう。隣でウィルが静かに頷く気配に、氷月はすべての結界生成物を消滅させた。身体の自由が戻ったことを喜んだり、あるいは身体をほぐしたりするコボルドたちを眺める二人。しばしの時間ののち、レッドが氷月にそっと歩み寄った。
「我々はまだ少しやることが残っているが……決戦の時には、必ずや駆けつけよう」
「本当なのー?」
「ああ、必ずだ……では、また会おう!」
そのままどこかへと去ってゆくコボルド戦隊。それを見送り、氷月は大きく伸びをする。ふわりと彼の周囲を一周したウィルに視線を向け、春風のような笑顔を浮かべた。
「ウィル、ありがとうなの。ウィルのおかげなの」
『……大したことはしていないよ。それに僕も、アラタがいなければ彼らに言葉を届けることができなかった。感謝するのは僕の方だよ』
「いいの、いいのー! さ、ゴールは多分もうすぐな気がするの!」
『……本当にぶれないね。アラタは』
表情こそ変わらないが、ウィルの身体の光が少し暖かくなった気がした。
――サクセス時ダイスロール結果:【4】――
◇◇◇
次回予告!
止まったマスは【30】!
魔王城に辿り着いた氷月とウィル。彼らのもとに魔王が直々に現れ、彼らを仲間に加えようとするが……果たして二人の選択やいかに!?
次回「専務、選択を迫られる。」
シールドスタンバイ!
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