予想外だったけれどまぁいいか

 リシア君のお店から戻り、早速、モルガさんのペンダントの修理に取り掛かる。

と言っても、切れたチェーンをアジャスターに繋ぎ直すだけ。作業としてはものの数分だ。

ただ、予想していたとおり丸カンに切れ目がなかったので、爪切りを買っておいてよかった。

普通なら切れ目のない丸カンなんてありえない話なんだけれど、宝飾合成で創っているこの世界なら切れ目は必要ないし、もしかしたらって思ったんだよね。


「見事なもんだね」 

修理の間、ずっと私の手元を見ていたマダムが出来上がったペンダントと見て驚きの声をあげる。

……そんなに驚かれるほどの作業じゃないんだけれどね。


「ありがとう! 嘘みたい! ホタルさんが直してくれたの?」

この時間ならお店も空いているだろうと言われて、早速モルガさんのお店に修理したペンダントを届けにきたのだけれど、ペンダントを見た瞬間、モルガさんは目に涙を浮かべて喜んでくれた。

「えっ、まぁ」

大したことをしたわけではないのにこんなに喜んでもらえて、なんだか照れてしまう。


「ありがとうございました」

と、お店の奥から出てきた男性の声にびっくりする。

「あっ! ゴシェ君、こちらはホタルさん。マダムのお弟子さんなんだけど、ほら、ペンダント直してくださったの!」

モルガさんの言葉に微笑みながら、よかったですね、と答える男性。……どう見ても幽霊には見えない。

えっ? ゴシェ君? どういう事? 形見なんだよね?


「えっ? ゴシェさんって亡くなったんじゃ……」

「えぇ~、ゴシェ君、死んじゃったの?」

「はい?」

私の言葉にびっくりするモルガさんとゴシェさん……って、一体どういう事?


「だって、マダムが、ゴシェさんがいないくてもこのペンダントがあれば一緒にいる気がする、ってよくモルガさんが言っていたって……」

困惑したまま言う私にモルガさんが赤面する。

「もう、マダムったら、やだ~」

「モルガさん、マダムにそんなこと言っていたの?」

「やだ! ゴシェ君まで揶揄わないで!」

くねくねと恥ずかしがるモルガさんとそれを揶揄うゴシェさん。

……私、何見せられているんだろう。


 当然、ゴシェさんは死んでなんかいなかった。

ただ、お二人の店のパンはとても評判が良く、王都のいくつかのレストランでも使われているそうだ。

その関係でゴシェさんはお店を空けることが多く(といっても王都に行って帰るだけだから日帰りだ)、その間、モルガさんはペンダントをゴシェさんと思って留守を預かっている……と。


「……それは、直ってよかったですね」

なんじゃそりゃ、とお客様に言う訳にもいかないので、とりあえずは言ってみたものの、私の目は死んだ魚のようになっているに違いない。


「ところでお代は?」

「へっ?」

モルガさんに聞かれて、素っ頓狂な声がでてしまう。

お代って……あぁ、修理代。

「聞いてませんでした……」

形見だと思っていたから、早く届けようって、それしか考えてなかった。


 お代については後で改めて伝えにくることにして、とりあえずモルガさんの店を後にする。

ゴシェさんが生きていると知った時にはちょっとがっかりしたけれど、嬉しそうなモルガさんの顔を思い出したら、やっぱり直して良かったとマダムの店までの帰り道、一人でニヤニヤしてしまった。


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