リシアの道具屋③
「これは?」
でも、カウンター脇の一番目立つところに置かれていた物だけはどうしても気になって思わず声がでてしまった。
「え? 魔鉱石でしょ」
私の言葉にセレスタが驚いたように答える。
「魔鉱石?」
「噓だろ? 魔鉱石を知らないって、どんだけ田舎育ちなんだよ」
どうやらすごく初歩的なことを聞いてしまったらしいことに気づいたが、後の祭り。
二人に珍しいものを見るような目で見られてしまった。
お店の奥から戻ってきたリシア君に説明してもらったのだけれど……
『魔鉱石』
手のひらサイズで、高さ2cmくらいの円柱のそれは、魔力をためておく乾電池とかバッテリーの類のものらしい。
赤色の魔鉱石には炎、青色は氷、黄色は電気の魔力が込められていて、それぞれコンロ、冷蔵庫、ランプなどにセットして使うそうだ。
生活必需品な上に、消耗品なので購入される頻度も多く、なのでカウンター脇に置かれていたというわけだ。
ファンタジーだ。
リシア君の説明を受けての最初の感想はそれだった。
魔法だよ。魔法。
聞けば、この世界の人は力の大小はあれど、みんな何かしらの魔力を持っているそうで、魔鉱石の魔力込めは学生たちの代表的なアルバイトなんだそうだ。
やっぱりねぇ。宝飾合成とか努力すればできるなんておかしな話だと思ったんだよね。
ますます私には宝飾合成なんてできるわけなくなってきたけれど、どうしよう。修行、止めるわけにもいかないよねぇ……
なんて考えていたら、何を勘違いされたのか。
「ホタルさん、魔道具が普及していない地域もまだまだあるし、そんなに気にすることないよ」
「悪い、そんなつもりで言ったんじゃなかったんだ」
「誰でも初めてはあるっす。気にすることないっすよ。この店にあるものなら、なんでも聞いてくださいっす」
……三人に慰められてしまった。
とりあえず三人にお礼を言いつつ、ヤットコの代わり探しを再開する。
小さめのペンチとピンセット、それとちょっと大きめの爪切りを発見したので、その三つを買うことにする。
本当はニッパーが欲しかったんだけれど、これまた、太いワイヤーを切るような工具の方しかなかったんだよね。
代わりになりそうなものはないかと探していて目についたのが爪切りだったのだ。
「毎度ありっす。それとさっきの小さいヤットコのメモ、もらってもいいっすか? 少し時間もらえれば作れると思うっす」
「えっ? 本当?」
「リシアは自分でも道具を作っているんだよ。この店のオリジナルの道具も多いって言ったでしょ」
驚く私にセレスタが答える。
「今回は小さくするだけなんでオリジナルって言うほどのものじゃないっすけどね」
「本当? いろいろ作れたりする?」
ちょっと照れたように笑うリシア君に思わず食い気味で問いかける。
「えっ、あっ、まぁ。ものによるっすけど……」
引き気味のリシア君に平ヤットコ、丸ヤットコ、ニッパーを説明する。
とりあえずこの三つがあれば修理がかなり楽になる。
「このくらいなら問題ないっすよ」
「あっ、でも作る前にどのくらいかかるか教えてくれる?」
そうだ。お金、稼がないと。
「いいっすよ。アクセサリーの修理なんて、なんか面白そうだし、サービスするっす」
「ダメ! ちゃんと払う! プロの仕事は安売りしちゃダメだよ!」
食い気味に答える私にリシア君が一瞬目を丸くした後でフッと笑う。
「わかったっす。見積りができたらマダムの店に連絡するっすね」
「うん、よろしくお願いします」
そう言って私たちはリシア君の店を後にした。
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