修理屋、始めました
「戻りました」
マダムの店に戻り、モルガさんがすごく喜んでくれたこと、修理代を後でもう一度伝えにいかないといけないことを伝えた。
「それと、マダム、ちょっといいですか?」
お客さんがいないことを確認してマダムに声をかける。
「なんだい?」
「お店が終わった後にアルバイトをしたいんです。今日の道具代とか家賃とか……」
「道具代なら構わないよ。店番してくれれば家賃はいらないし、少しだけど給料ももちろんだすよ」
マダムの言葉に慌てて首を振る。
「ダメです。置いてもらっているだけでもありがたいのにお給料なんてもらえません。宝飾合成だって私できないし」
宝飾合成は多分一生できない。
それなのにそんな図々しい真似はできない。
「と言っても、店が終わった後って言ったら飲み屋くらいしかないけど、未成年は雇っちゃくれないよ。あとは魔鉱石の魔力込めでもやるかい?」
うぅ、魔力込めは無理です。
未成年は無理って、そうか、マダムもそう思っていたか。
とっくに成人していることを伝えるとマダムがびっくりした顔になる。
「ホタルが三十歳とはねぇ。でもねぇ……」
そういってマダムが口籠るので思わず首を傾げてしまう。
珍しい、なんでもはっきり言うマダムなのに。
「私はホタルみたいなのもいいと思うよ。素朴でね。ただ、ほら、飲み屋ってのはお客はおっさんが多いからさ」
なおも言いずらそうに続けるマダムの言葉で察した。
そうだ、この世界美形揃いだなって思ったところじゃないか。
飲み屋さんだもんね。そう言うお店ってことじゃないんだろうけれど、店員さんは可愛い方がいいに決まっている。
……う~ん。容姿はどうにもならん。この世界、コンビニはさすがにないよねぇ。
「そういや、修理代って言っていたね」
「えっ? あぁ、はい。お店が終わったら伝えに行ってきます。いくらですか?」
急に話が変わるから何かと思った。
「あんたが決めていいよ」
「はい?」
言葉の意味が分からずポカンとした顔をする私にマダムが続ける。
「だから、修理代。ホタルが決めな。それと、これからも修理代はあんたの取り分にしていいよ」
「えっ? どういう……」
「私の創るアクセサリーは材料が植物だからどうしても華奢になっちまうって話はしただろ? モルガ以外にも壊しちまったって話はよくあるんだ。修理できるっていったらきっと喜ぶよ」
「いいんですか?」
「あぁ、いいよ。後で店に張り紙でもしておきな。みんなアクセサリーが修理できるなんて思いもしないだろうからね」
「ありがとうございます!」
早速お店に、アクセサリーの修理承ります、の張り紙をさせてもらう。
白い紙にペンで書いただけのそっけない張り紙は、ちょっとお店の雰囲気にはそぐわない。
余裕ができたら、もう少し見栄えのよい掲示を作らせてもらおう。
こうして、私は異世界でアクセサリーの修理屋を始めることになったのだった。
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