リシアの道具屋①

「いらっしゃいませ……って、セレスタさんにジェードさんじゃん。珍しいっすね。何かお探しっすか? ってか、そちらはどなた? 町の人じゃないっすよね? 俺、リシアっす。あなたは? はっ、まさか、お二人のどちらかの彼女っすか? あっ、新居のための道具探しっすか? だったら、こっちに新生活セットが……」

道具屋さんに入った瞬間、怒涛のように話かけられた。

今、リシアって名乗っていたけれど、本当にこの子がリシアさん?

ふわふわツンツンの黄緑色の髪と深緑の瞳、まだあどけなさの残る顔はどう見ても十代にしか見えない。


「相変わらずうるせーな」

隣でぼそりとジェードが呟く。

確かに、どこから口を挟んでいいのか、全くわからない。


 ボスッ

鈍い音がしたかと思うとリシアさんがカウンターに沈んでいた。

「リシア、少し落ち着こうか。彼女はホタルさん。マダムの店で働くことになったんだ」

セレスタが笑顔で話しかける。

……ああ、セレスタの鉄拳が飛んだのね。相変わらず銀髪って恐ろしい。


「いてて。セレスタさん、加減してくださいよ。いつも言ってるでしょ」

いつもなのか……なんか面倒くさそうな子だな。

「ついて来てよかっただろ?」

ジェードの言葉に素直に頷いた。


「始めまして。ホタルです。よろしくお願いします」

改めて自己紹介をすると、リシアさんも慌てて頭を下げる。

「リシアっす。道具屋をやってます。……ってか、敬語じゃなくていいよ。タメくらいっしょ?」

「……」

「そうだな。ちょっとおしゃべりだが悪い奴じゃない。ホタルも同世代の知り合いがいた方が気が楽だろ」

「……」

二人の言葉に思わず固まる。

日本人って海外に行くと年下にみられるって良く言うけれど、それか? それなのか?


「何言ってんの? ホタルさん、俺たちより年上だよ」

どう答えたものかと悩んでいたら、セレスタが何を言ってるんだといった顔で二人につっこみを入れる。

「はぁ? セレスタさん、何言ってるんすか?」

「セレスタ、どうした?」

セレスタの言葉に驚く二人。

ここは言うしかない流れよね。まぁ、隠すつもりもないんだけどさ。


「あのさ、二人とも何歳?」

「俺? 十八。意外と上でしょ? 年下にみられること多いんだよね」

ちょっとドヤ顔で答えるリシアさん。確かにもう少し下かと思った。でも想定内かな。

「俺とセレスタは二十三歳だ。セレスタはともかく、俺は年より上に見られることの方が多いんだが」

続いて答えるジェード。こちらはまさに想像通り。

「だよね。三人とも年相応だよ。……私、三十歳だよ」


「「はぁ?」」

「やっぱり。モルガさんと同じくらいかな~って思ってたんだよね」

驚く二人と納得顔の一人。


「噓でしょ? どう見ても同世代だって」

「ホタルが年上? 冗談だろ」

「何言ってるの。確かにホタルさんは童顔だけど、肌のつやとかみれば……ゴフッ」

あっ、しまった。つい手がでてしまった。


「本当なのか?」

店の端までふっとんだセレスタを無視して、ジェードが驚愕の表情で私を見つめる。

「さすがに年上にはサバ読まないよ」

私もセレスタは無視。女性にむかってなんて失礼なことをいうんだ。全く。


「マジっすか? すんません。俺、タメ口なんてきいちゃって」

「いえいえ、気にしないで」

「……俺も……いや、私も失礼いたしました。年上とは……」

「やめてよ。ジェード、今更、気持ち悪いよ」

急に丁寧に話し出すジェードを慌てて止める。

「……そうか。それにしても年上かよ。驚いたな。セレスタも気づいていたら言ってくれればいいのに」

「いつ気付くかな~と思ってさ」

シレッと復活してニヤニヤと笑うセレスタ。……もう一度どついたろうか。


「ところで、ホタルさん、何しにきたんすか?」

そうそう、本来の目的をすっかり忘れていたわ。

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