第二章 モルガナイトのペンダント

宝飾師ってそういうこと?

「おいで、作業場を案内するよ」

セレスタとジェードが帰った後、マダムは私を二階に案内してくれた。


「えっ?」

案内された作業場を見て唖然としてしまう。

部屋の左側にはジュエリーショップでよく見るようなガラス張りのショーケースが置かれていて、マダムが創ったであろうアクセサリーが並んでいた。

ショーケースの下側は幅の狭い引き出しになっているので、きっとそこにもアクセサリーが保管されているんだろう。


 驚いたのは部屋の右側だ。

右側の壁には棚一面にガラス瓶が並び、様々な花や木の実、葉っぱが保管されていた。

ただガラス瓶に入っているのではない。

新鮮なまま、ガラス瓶の中で浮いているのだ。切り花や葉っぱが枯れることなく。


「これは一体……」

「宝石の材料だよ。私は主に植物を材料にするんだけど、ホタル、あんたは何を使うんだい?」

「はい?」

マダムの言葉に素っ頓狂な声をあげてしまう。

材料? アクセサリーの材料といったら宝石とか貴金属でしょ? どういうこと?


「あんた、宝飾師なんだろ? 材料がなけりゃ創れないだろうが」

私の様子にマダムが訝し気な表情になる。

まずい、私、すごい怪しまれてない?


「あっ、あの、私は宝石とか貴金属のワイヤーを使ってピアスとか作っていたんですけど……」

しどろもどろになりながらも必死に説明する。


「ピアス? なんだい、それは? 宝石をあとから加工する?……どうやら普通の宝飾師ではないみたいだね」

「みたいですね……」

ますます怪訝そうな顔をするマダムをみて、だんだん不安になってくる。

どうやら私の思っていたのと、この世界では、アクセサリーの意味が違うみたい……


「う~ん、口で説明するより見せた方が早そうだね」

そう言うとマダムは右側のガラス瓶からオレンジの花を取り出すと部屋の正面に置かれた作業台に座った。


「これはマリーゴールドだよ。これをこうして……」

あっ、花の名前は同じなのね、なんて、ちょっとホッとしていると、マダムは作業台に置かれた緑の石板の上にマリーゴールドを一輪置き両手をかざす。


 マリーゴールドが白い光に覆われ、その光が収まると……

作業台にマリーゴールドを模した金のペンダントが現れた!


「噓でしょ?」

思わず作業台に駆け寄ってペンダントを手に取る。

花びらの部分はシトリンかトパーズだろうか? 黄金色の綺麗な宝石がはまっている。

幻なんかじゃない。今まであったマリーゴールドが消えて、そこにはペンダントが現れていた。


 驚く私にマダムの視線が突き刺さる。

その視線に気づいて私は慌ててマダムに言う。

「あの、アクセサリー作って売っていたっていうのは本当なんです! 信じてください! あっ、さっきの真実の玉! あれで調べてもらっても……」

「わかってるよ。あんたが嘘つくような子じゃないことは。それにうちは嘘ついてまで入り込むような場所でもないしね。それより、とりあえずやってごらん」

そういってマダムは作業台を私に明け渡す。


「材料は……そうだね。このシロツメクサにしよう」

シロツメクサを手渡され、私は作業台に座る。

マダムの真似をしてシロツメクサに手を掲げるが……やっぱり何も起きない。

もしかしたら神様のくれたご都合主義で私にも何か創れたりするんじゃないかと思ったけれど、現実は甘くはなかった。


「……ごめんなさい。あの、私、本当に何でもしますから、ここに置いてください!」

怖くてマダムの方を振り返れない私は作業台を見つめたままで頭を下げた。


「別にアクセサリー創りは私一人で十分さ。明日から店番と家の手伝い、頼んだよ」

「いいんですか?」

驚いて振り返る私にマダムが苦笑いする。


「乗りかかった船だ。それにそのうちできるようになるさ……さぁ、夕ごはんにしよう。明日からこき使ってやるから覚悟しな」

「はい! ありがとうございます!」


私はマダムに深々と頭を下げた。

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