モルガナイトのペンダント①
「やっぱり何もおきないかぁ……」
店番の合間にマダムから貸してもらった白い石板にシロツメクサを置いて宝飾合成を試みるが、当然のことながら何も起きない。
そうそう、宝飾合成っていうのは、宝飾師が素材からアクセサリーを創る作業のことね。
私が作業場で宝飾合成に失敗した後、マダムは私にガラス瓶に入ったシロツメクサと練習用の白い石板を貸してくれた。
お店が暇なときはこれで練習しろと。
マダムから教えてもらってびっくりしたのだけれど、宝飾師というのは特殊能力ではなかった!
この世界では一般的な職業で、それこそ大工さんとかパン屋さんとかと一緒で修行してなるものなんだそうだ。
もちろん出来上がるアクセサリーに才能の有無はでるから、そういう意味じゃ才能も必要なんだけどさ。
というわけで、私も絶賛宝飾師の修行中なわけだけれど、多分、無理なんだろうな、とは思っている。
確かにこの世界の人たちは努力すればできるようになるのかもしれないけれど、私はこの世界の住人じゃない。
じゃあ、なんで練習しているのかって話なんだけれど、マダムの手前、練習しないわけにはいかないっていうのが半分。
もう半分は……自分でもよくわからない。
「こんにちは」
そんなこんなでシロツメクサと格闘しているとお店の入り口から声がして私は顔を上げる。
そこには少し不安そうな顔で一人の女性が立っていた。
「いらっしゃいませ」
「あの? あなたは?」
怪訝そうな顔をする彼女に慌てて自己紹介をする。
「あっ、ホタルです。今日からマダムのお店で働かせていただいてまして」
「あら、マダム、とうとうお弟子さんをとったんですね。私はモルガ。近所でパン屋をやってます。よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします」
にっこりと笑うモルガさんに私も慌てて頭を下げる。
「ところでマダムは?」
「マダムなら作業場です。呼びますんで、ちょっと待っていてくださいね」
そう言って私はマダムを呼びに二階に上がった。
う~ん、それにしても可愛い人だ。
多分、年齢は私と同い年くらいなんだろうけれど、可愛さが段違いだ。
小柄ながらも出るところはでて、引っ込むところは引っ込んだナイスバディ。
色白小顔で淡くピンクがかった大きな薄茶の目。
栗色の長髪は緩くパーマしているが天然だろうか。
セレスタもジェードもそうだけれど、この世界、なんか美形が多いよな。
マダムもなんだかんだ言って美人だし。
それに比べて私ってば……ってやめよう。容姿はどうにもならん。
なんて余計なことを考えていたら作業場の入り口で突っ立っていたらしく、マダムの冷たい目に気づいて慌ててモルガさんが来ていることを告げる。
「おや、モルガ、いらっしゃい……って、どうしたんだい? そんな顔して」
「マダム、無理を承知でお願いしたいんだけど……」
お店に降りてきたマダムにモルガさんはそう言うと、手提げからアクセサリーケースを取り出しお店のカウンターに置いた。
「前にゴシェがうちで買っていったものじゃないか。これがどうしたんだい?」
箱だけを見てそう言い当てるマダムにモルガさんは目を伏せたまま黙って箱を開ける。
「これは……」
「あらら」
驚いたようなマダムの声と、私の軽い声がちぐはぐに重なる。
箱の中にはモルガナイトのペンダントが大切に入れられていた。
柔らかなピンクのモルガナイトを花のつぼみに見立てたペンダントトップと華奢なゴールドのチェーンが、可愛らしいモルガさんのイメージにぴったりだ。
でも、華奢なチェーンが裏目にでたのだろう、アジャスターの部分でプツリと切れてしまっている。
「マダム、お願い。直してもらえないかしら……初めてゴシェ君から貰った大切なものなの」
泣きそうな顔で言うモルガさんにマダムは眉間の皺を深くしてペンダントを見つめる。
……って、えっ? チェーンが切れただけでしょ? そんなに深刻な雰囲気になる必要ある?
「これくらいすぐに直りますよね?」
思わずでてしまった私の言葉に二人がバッとこちらを見る。
「えっ? 何、何?」
「直せるの?」
「直すだって?」
私は知らなかったのだ。
この世界の宝飾師のことも、アクセサリーのことも。
そして、この後、苦労する羽目になることも。
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