チートはないのに異世界転生?
テスラコイル、改め、真実の玉に恐る恐る手を乗せ、セレスタ達の質問攻めに耐えること一時間弱。
出身地や職業、家族構成に始まり、果ては趣味や好きな食べ物まで聞かれたけれど……
「わかんな~い。ホタルさん、あなたは何者なの?」
最初に音を上げたのはセレスタだった。
「わかったのはこの子がどこから来たのかも、何者かも、わからないってことだけのようだね」
マダムがさして興味もなさそうに言う。
「とりあえずホタルが領主様に害をなすことだけはないみたいだけどな」
ジェードもため息をつく。
でも、私だけは気づいてしまった。
嘘でしょ? だって、アレって、ブラック企業で疲れた人が、目が覚めたら神様の前にいて、嘘みたいなご都合主義な能力貰うやつでしょ。
私のいた会社は、そりゃやりがいがあるかって言われたら微妙だったけれど、真っ白なホワイト企業だし、神様からすごい能力も貰ってない……はず。
えっ? もしかして何か貰ってたりする?
「開けステータス!」
し~ん。
「いでよ。ドラゴン!」
し~ん
「集まれ、大地の精霊!」
し~ん
何も起きない。
……でしょうね。って、なんかすごい視線を感じる!
「ホタル……」
ジェードの憐れむような眼が痛い。
「ごめん。ホタルさん、疲れたよね。今日は休もう」
セレスタが優しく私の肩を叩く。
若干、マダムの目も優しいような……
「ちっ、違う! 違うから! 生暖かい目で見るな~」
「まぁ、とりあえず無害なことはわかったし」
「あとは明日からの生活だよねぇ」
気を取り直したようにセレスタとジェードはそう言ってマダムをじっと見つめる……が、マダムは知らん顔。
「まさか警備隊に女性を連れ込むわけにもな」
「無理だよ。そんなの。誰かいないかなぁ~」
今度は二人は私にチラチラと目配せをする。
あっ、そういう事か!
「私、なんでもやります! 体力もあります!」
「おっ、マダム、最近、腰痛いとか言ってなかったっけ?」
「それに、お店に可愛い売り子さんがいれば売り上げアップ間違いなしだよ!」
マダムが少しだけこっちを見てくれる。あと一押し!
そう言えば、さっき見たマダムのお店にアクセサリーが置いてあった!
「お願いします! 私、アクセサリーのデザインもできます!」
「えっ? そうなのか?」
「ホタルさん、宝飾師なの?」
二人が驚いたように私を見るけれど、宝飾師って何?
「えっと、独学だけど。うん、前にいた場所では少しだけど自分で作って売ったりもしていたよ」
うん。嘘はついていない。
「マダム、よかったじゃん。そろそろ歳だし、この店も跡取りが……フゴッ!」
再び、灰色の閃光が目の前を走る。
……セレスタ、そろそろ学ぼうよ。
「馬鹿甥、私はまだまだ現役だよ。……まぁ仕方ない。でも、使えなければすぐに追い出すからね」
こうして、どうやら異世界にきてしまったらしい私の生活が始まった。
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