灰色の閃光

「ここは?」

てっきり領主様のお屋敷に連行されるのかと思いきや、辿り着いたのは小ぢんまりとした一軒の店だった。


「マダム~、いる~?」

そんな私の声を無視してセレスタが店の奥に声を掛ける。


「セレスタのおばさんの店。あっ、おばさんって言うなよ。命がねーぞ」

セレスタの代わりにジェードがコソッと私に耳打ちしてくれる。

やっぱりいい子だわ。この子。


「おばさ~ん……フゴッ!」

えっ、今の何?

灰色の閃光がセレスタを一撃で仕留めた。


「誰が、おばさん、だ! 誰が!」

灰色の軌跡の先に黒いロングワンピースを着た長身の女性が立っていた。

輝く銀髪をすっきりとまとめ上げ、その耳には大振りのオパールのイヤリングが輝いている。


「この人がセレスタのおばさ……」

「馬鹿! 黙れ!」

じろりとこちらを睨む灰色の瞳にジェードが慌てて私の口をふさぐ。


「とうとう人間まで拾ってきたのかい? 馬鹿甥め」

私を睨む目は逸らさないままに銀髪の彼女は地面に倒れるセレスタに声を掛ける。

馬鹿甥って何? 馬鹿息子の派生形?

……っていうか、銀髪には怖い人しかいないの? やめてよ。


「ひどいなぁ。彼女はホタルさん。ホタルさん、叔母のオパールです。みんなからはマダムって呼ばれているんだ」

何事もなかったかのように地面から立ち上がり、セレスタは銀髪の彼女に私を紹介し、私にも銀髪の彼女を紹介してくれる。

その間も彼女の目は私をロックオンしたままだ。

……セレスタ、あんたメンタル最強かよ。


「帰んな。厄介ごとはごめんだよ」

ですよねぇ。

とてもじゃないが歓迎ムードとは言えないし、ここは一旦引くべきとジェードと私はさっさと馬へ向かおうとしたが……


「ねぇ、ホタルさんをマダムのところで預かってくれない?」

おい待て!

今の流れでどこをどうしたらそのセリフがでてくる?

しかも、私の意見は? ここはどこ? この状況は何? 一体私はどうなるの?


「もう嫌……」

頭のどこかでプツリと何かが切れる音がした気がした。


「えっ、何?」

のほほんとした顔のままセレスタがこちらを振り返る。

いち早く私の様子がおかしいことを察したジェードがじりじりと後ずさる。

ジェード、あんたは正しいよ。


「もう嫌! 一体何なの! ここはどこ? この状況は何? 勝手に話を進めるな! 説明しろ! 説明!」

急に叫びだした私にセレスタが目を丸くしている。


「領主様のお庭だか何だか知らんけど、気づいたらそこにいただけなの! そっちからしたら私は不審者だろうけど、私にとってもあんた達は不審者なのよ! 何者なのよ。馬にボウガンとかありえないでしょ? ここは日本なの? なんで私はここにいるの!」

一度開いてしまった口は留まることを知らない。

私だって訳わかんなくて結構いっぱいいっぱいなんだからね!


「あのねぇ! 私はごくごく平凡な人間なの! 私が何したって言うのよ! なんでこんな目に合わないといけないのよ! だいたい……」 

ぺしっ

一気にまくしたて始めた私の頭からなんとも間抜けな音がした。


「ちょっと落ち着け。わかったから。悪かったから」

間抜けな音の原因はジェードが私の頭を叩いた音だった。

びっくりして一瞬黙った私の頭をそのままぐりぐりと撫でる。

犬じゃないんですが……

「こっちも説明が足りなかった。とりあえず悪いようにはしねぇから、少し俺たちに付き合ってくれ」

ジェードはそう言うと、今度はマダムに向かって。

「マダム、急に邪魔してすまない。例のものを使わせて欲しいんだ。頼む」

そう言って頭を下げた。


「入んな。お茶くらい入れるよ」

そんなジェードを見てマダムはそう言うとさっさと店に戻っていった。

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