第三章の六 黄泉の国①
一方現世では、
「
いつもいつも人のことを、何よりもあずさのことを優先して考えて動いてくれていた奏。その奏にろくすっぽお礼も言えていないことにあずさは気付いていた。
「お礼も言わせないで、逝っちゃうなんて、そんなの、ずるい……」
あずさの悲鳴にも似た言葉に、結人はかける言葉を見つけられずにいた。あずさの背をさすりながらも、橋姫もまた、あずさにかける言葉が見つけられなかった。そんな中、
「黄泉の国へ行けば、あるいは、こやつの魂を返して貰えるかもしれぬぞ」
「え?」
あずさは長身の
「しかし、あそこは……」
橋姫は眉を
「どうやって、行くの……?」
あずさの言葉に、
あずさは呆然としていたが、すぐにツクヨミを呼び出した。
「
あずさが呟くと、結人の部屋がぼうっと光り、飄々としたいつものツクヨミの姿が現れる。
「呼び出してくるなんて、なんだか穏やかではないみたいだね」
ツクヨミは傍らで眠っている奏の姿を見やる。
「これ、は……?」
ツクヨミでも予想外だったようで、奏の
「ツクヨミ、黄泉の国について教えて!」
「黄泉の国……?」
そこでツクヨミの中で何かが合点が行ったようだった。
「まさかあずさ、黄泉の国へ行って奏の魂を返してもらうつもりかい?」
ツクヨミの質問に、あずさはこくりと頷く。
あずさの真剣な眼差しに、ツクヨミは黄泉の国へあずさが行くことを反対することが出来なくなっていた。
「生者が死者の国に行くということが、どういう危険があるかわからない。その覚悟があって、行く、と言うんだね、あずさ」
念を押すツクヨミの言葉に、あずさはうん、と頷く。
「分かった。黄泉の国の話だね。しかし、行くのなら早めに行った方がいい」
「どうして?」
あずさの疑問に、ツクヨミは用意をしながら話そう、と言った。
それからあずさは黄泉の国へと向かう準備を始める。その間、ツクヨミは黄泉の国のことを教えてくれていた。
黄泉の国、それは死者の国である。生者の国であるこちら側とは異なるルールの下、成り立っている世界だ。その死者の国である黄泉の国の最初のルール。それが
「この
あずさの髪をみづらに結いながら、ツクヨミが言った。
「ただ、いつ、どのタイミングでこの
だから、黄泉の国へと行くなら早めに行くことをすすめる、とツクヨミが言った。
「出来たよ」
話をしながらも準備は着々と進んでいた。
あずさはみづらを結い、指輪などの装飾品を身につけている。そして最後にツクヨミから桃を持たされた。
「桃……? どうして?」
「桃には、邪気を祓う力があるんだ。何かあったら絶対に食べるんだよ」
ツクヨミに念を押されて、あずさは分かった、と答えていた。
「結人は、どうする? これは私の問題だから、私一人でも黄泉の国に行くよ」
突然話を振られた結人は、先ほど
「俺も行こう」
「じゃあ二人とも、気をつけて。何があるのか、僕にも見当がつかない場所だからね」
ツクヨミは二人を送り出す。
ヤタガラスが舞い降り、二人を誘導する。辿り着いた場所はどこか洞窟のようなところだった。ヤタガラスはそこでかぁ、と一鳴きすると、その先を示すようにくちばしを向けた。
「この先が、黄泉の国なのね?」
あずさの問いかけに、ヤタガラスは無言で答える。あずさと結人はその暗い洞窟へと足を踏み入れた。
「何、ここ……」
洞窟をくぐると、だだっ広い荒野のような場所に出た。そこに一本の川が流れている。川原には石が積み上げられている。
「これが世に言う、
結人の呟きに、あずさは川を見つめた。
「この先に、奏がいるのよね?」
「多分」
あずさの呟きに結人も答える。
「急がないと! こうしている間にも
あずさは一歩川へと足を踏み入れる。
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