第三章の四 牛鬼再び②
そもそも
しかし奏は普通の人間なのだ。守護霊がついているとは言え、その守護にも限界がある。
「この馬鹿は、それを知ってか知らずか、最初の聖水をコイツにぶっかけた」
最初の聖水には毒を中和する力があったのに、だ。
そのため、体内に溜まっていた毒素が今まさに、爆発しようとしているのだと、守護霊は言う。
「そんな……! どうにか出来ないのですか?」
あずさの必死の訴えに、守護霊は悔しげに言う。
「私には、どうすることも出来ない」
奏に迫っている絶対的な死は、回避出来ないものなのか。
「
あずさは悲痛にも似た思いで、橋姫を呼ぶ。橋姫は分かっていたかのようにすっと姿を現した。
「橋姫! お願い! 奏を助けて!」
あずさの願いを、橋姫は首を振ることで答えた。
「どうして……っ!」
あずさの悲鳴に橋姫は答える。
「奏さんには……、死相が出ています……」
「死相……?」
あずさは呆然と繰り返す。
「神様でも、どうにも出来ない、の……?」
あずさの声に、橋姫は悲痛な表情で頷くしか出来なかった。
「結人は知ってたの、死相のこと」
あずさは隣に立つ結人に尋ねる。結人は、小さくあぁ、と答えるだけだった。
「ダメっ! 絶対にイヤっ! 奏が死ぬなんて嘘だよ!」
あずさは叫ぶ。
奏はそんなあずさを見つめ、ごめんね、と呟いた。
「どうして、奏が謝るの……?」
「ちょっと、ダメかもしれない」
奏は最早立っているのもようやくの様子だった。
「でもね……」
奏はゆっくりと
「ただで殺されるつもりも、ないわ」
そう言うと、奏は一気に走りだす。
「なっ……!」
それに驚いたのは
「奏っ?」
あずさは何が起きたのか分からず、奏の名を呼ぶしか出来なかった。天狗の
「殺してやる……!」
「させないよ!」
そう言ったのは守護霊の老婆だった。老婆は何事かを呟くと気合いと共に
「
奏がこちらへ戻ったのを確認したあずさは叫んだ。すると雷と共に赤毛を逆立てた青年の姿が現れた。
「呼んだか?」
青年は言う。
「
あずさは叫んだ。
「
「ぎゃっ!」
「この水は……!」
「許しませんよ、
橋姫の声と共に四方の水柱が狭まっていく。
「や、やめろ……!」
じゅうぅぅぅ……!
辺りに肉が焼けるような匂いが漂う。
「やめろぉぉぉぉぉ!」
絶叫しながら
「橋姫、今のは……?」
あずさは呆然と橋姫に尋ねる。橋姫は、聖水で作った水柱だと答えた。
「そうだ! 奏っ!」
あずさは弾かれたように傍に寝転んでいる奏に駆け寄る。
「大丈夫? 奏」
あずさが奏の顔を覗き込んだ時、もう奏は目を開けることも出来ないようだった。かすれた声で言う。
「ごめんなさいね、あずさちゃん……。楽しかったわ……」
ふっ、と緩く笑う奏に、あずさはポロポロと涙を流す。
「そんなこと、言わないでよ……!」
「ごめんなさいね……」
奏はそれだけ言うと、動かなくなった。
「奏……?」
あずさは目に涙を溜めて呟く。
「奏?」
ゆっくりと奏の身体を揺さぶってみる。しかし、奏はぴくりとも動かなかった。
「やだよ……、やだよ、奏!」
叫ぶあずさに、しかしその場にいる誰もが声をかけることが出来なかった。
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