第18話 cattalk その四

 タカユキたちが住む万城目町から見て西の隣には朝松町という町があった。

 のどかな万城目町とは違い、子供お断わりの繁華街として知られており、とくに煌々と輝くラブホテルが立ち並ぶ『スパーキングストリート』は大変有名である。

 そんなラブホテル群のひとつ『ポプリクラブ』の一室に二匹の仔猫が住みついていた。

 住みついたといってもこっそり忍び込んだのではない。料金を払って堂々と居座りを決め込んでいるのだ。ちなみに絵本の『手袋を買いに』のごとく、猫ちゃんが人間のお金をラブホテルの受付にニャニャンと提出したわけでもない。彼女らは姿を人間のものに完全に変化させ、堂々となんの問題もなく宿泊料金の一三〇〇〇円を支払った。

 現在、二匹は猫の姿に戻り、回転ベッドの上で気持ち良さそうに寝っ転がっている。

『うーん。なんかここは落ち着くナー。ちょっとウチに似てるかも』

『はい。恋人がいない人間の高校生に取っては完全に行動範囲外でしょうし、隠れ家としてベストかと思います』

『いいとこ見つけてくれたナ! ほめほめ~』

 そういってオセはフラウロスの首辺りをペロペロと舐めた。

 フラウは「ナァ……」などと少々悩まし気な声を出す。

『ともかく。ここを拠点にして戦争の準備を開始するナ! ワタタビを使って出来る限りたくさんの「仲間」を集めること!』

『承知致しました』

『向こうの様子はどうだったナ? なにか懸念材料は?』

『は。奴らはアモン、マルコシアス、ナベリウスらのクズ犬連中、それから裏切りもののアイムらを巻き込んで対抗する構えのようです』

 オセは小さく舌打ちをした。

『そろいもそろって「悪魔のクズ」みたい連中ばっかりかき集めたもんだナー。とはいえ警戒には当たらない。仲間の猫ちゃんたちで十分ナ』

『はい。そのクソ共は警戒にはあたりません。警戒すべきは二点』

『言って見ろナ』

『ひとつはオセ様もお気に入りの召喚士の少年。彼はドンドン力を上げています。シトリーを派遣した時点でケルベロストライデントでヤツを倒すくらいの魔力があったのにそこからさらに伸びている』

『なるほど……』

『それから。その彼の魔力のアップに伴って。グラシオ・ラボラスが「進化」する可能性があります。元々少年の魔力が不十分なためにヤツはあんな可愛い状態であるわけで、彼の魔力がアップすればヤツがあの身の毛もよだつ姿を取り戻さないとも限りません』

 オセは尻尾で頭を掻きつつ考え込む。

『そうなると……あまりだらだら仲間集めをしているのも得策じゃないナ』

 フラウロスは深く頷く。

『よし! じゃあ期限を切るナ! 襲撃の予定日はちょうど一か月後の八月十九日! それまでに仲間を集めること! 目標は千匹!』

『御意……』

『そして。わたしのほうも。当日までにオセ流ワタタビ魔術の禁「ハピ・ワタタビ・ブライダル」の術を完成させるナ!』

 フラウロスが驚きに目を見開いた。

『あれを完成させればグラシオ・ラボラスを倒すことはもちろん。あの少年を完全に支配することもたやすい。そうだナ?』

『仰せの通りです』

『よし。それじゃあ早速今晩から作戦を開始する!』

『御意……!』

『では御唱和するナ! せーの!』

『『すべてはワタタビ天国のために!』』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る