第15話 大森ふ頭公園の惨劇

 そうしていよいよ迎えた当日の朝。

 珍しく髪の毛をワックスで整えて、昨日買ったちょっと値の張るシャツに袖を通した。

 待ち合わせ場所は駅前。

 いつもよりは多少オシャレをした状態で彼女がやってくるのを待つ。

 傍らにはブラッシングをほどこして、こちらもいつもよりは少々イケメンなグラ。

「どうしたグラ。キョロキョロして」

『ちょっとヒトを探しててな』

「人を? おまえが?」

「キャンキャン!」

 と、グラは二本足で立ち上がり。吠え声を上げる。

「どうし――ゲッ!」

 グラの視線の先には、

「沌――!?」

 彼女は俺とグラの姿を認めるや、こちらにつかつかとやや不機嫌な様子で歩み寄ってくる。白の麦わら帽子に空色のミニスカートワンピースという可愛らしい格好をしていた。

「ど、どうしてここに!?」

「グラちゃんが言葉わかるって本当なんだね。昨日これをもらうまでちょっとハンシンハンギだった」

 そういうとカバンから一枚の画用紙を取り出す。それにはこうかかれていた。

『タカユキ うわき なながつじゅうはちにちのじゅういちじ えきまえでまて なるべく おしゃれして』

 犬の足跡が点々といくつも繋がったような文字。恐らくグラがてのひら(前足のひら?)に絵の具でもつけてポンポンと判子をおすようにして書いたのであろう。

「グラ! てめえなにを!」

 やつはそしらぬ顔で首を足でぽりぽり掻いている。

「ねえ。うわきってどういうこと!?」

 沌が頬をパンパンに膨らませながら俺に詰め寄ってくる。

 すると。

「こんにちは!」

 後ろから俺を呼ぶ声がした。振り返るとそこにいたのはもちろん。

(うわ……やっぱりかわいいな)

 オレンジ色のノースリーブパーカーにデニムのショートパンツ、ニーソックスというスポーティーなスタイルはドンぴしゃに俺に刺さるし、髪に編み込みをいれてアレンジしているのも非常にポイントが高い。

「あれ? こちらは?」

 小鳥遊さんは俺の真ん前に立つ沌をじっと見つめる。

 沌は脅えた様子で俺の背後にさっと隠れた。

「ええと……その……今たまたまここで会った友達で」

「へえ~かわいい~! 私イヌナシと申します。あなたは?」

「こ、こんのとん」

 俺の後ろに隠れたまま無愛想な返事を返す。

「あの。私たちこれから大森ふ頭に行くつもりだったんですけど。一緒に行きませんか?」

 むむむ。なんだかややこしいことに……。

「デート……」

 沌が虫が鳴くような声で呟いた。

「え?」

「デートする感じだったの!?」

 そして急に大声で叫ぶ。

 小鳥遊さんは一瞬キョトンとした顔、それから少し照れたように笑った。

「まあそういうことになるのかなあ? でも全然そういう関係ではないので! この間出会ったばかりですもんねえ」

「ほんとー?」

 沌が睨みを効かせる。小鳥遊さんは涼しい顔。

「じゃあ……。行く」

「タカユキさんもよろしいですか?」

「い、いいんですか小鳥遊さん」

「ええ。女の子の友達も欲しいですし。それに――実はこちらも一人連れて来ていて」

「えっ!?」

 彼女はさっと身を横に移動して後ろに立つ人をこちらに紹介した。

「妹の阿奈です。どうしても来たいってきかなくて」

 彼女が紹介してきたのは。黒い髪をポニーテールに纏め、クリアブルーのメガネをかけた大人しそうな女の子だった。整った顔立ちの美人だが、姉とは全然似ていない。

「阿奈です。よろしくお願いします」

 紹介にあずかると彼女は丁寧にお辞儀をした。

「四人で行きましょう! ぜったい楽しい!」

 俺はうなずくしかなかった。

 沌が後ろから万力のような力で俺のケツをつねり、

「あのコかわいいね。美人だね。好きそうだね」

 などとちいーさな声でボヤく。

『大丈夫だ沌。妹を連れてくるなんて男として意識してない証拠だ』

「うるせーぞグラ!」

『それに沌のほうがずっと美人だ。あの女はなんかネコっぽい顔で気に食わん。名前も』

「グラちゃんなんて言ってるの?」

「いや……それは」

 その会話を聞いて、小鳥遊さんは目を剥いて俺に尋ねた。

「もしかして! ホントにそのワンちゃんの言葉がわかるんですか!?」

 まさかそんなわけねー! と慌てて否定する。


 チャリをこぐこと十五分、目的地に到着した。

 俺の腰に掴まっていた沌がゆっくりと後部座席から降りる。

 グラも買い物カゴの中から飛び出し、無駄にアクロバティックに着地した。

 小鳥遊姉妹の方は妹がこいで姉が後ろに座っていたようだった。

「じゃあ入りましょうか。入口からして気持ちのよいところですねー」

 大森ふ頭公園は大森湾沿いに広がる、都内有数の規模の海浜公園だ。テニスコート、バーベキュー広場、ドッグランなど様々な施設が存在しているがやはり有名なのは――。

「わー! かわいいい! ホントにいっぱいいるー」

「すごい。こんなに」

 野良猫が山ほど住みついていることだ。

 緑葉の桜並木道には色とりどりの猫たちが雨後のタケノコのように群生していた。

 寝転がっているもの、スタスタと闊歩しているもの、じゃれあってニャーニャー騒いでいるもの。いずれも非常にリラックスした様子である。

「これだけを目当てにわざわざ遠方から来るヤツもいるらしいぜ」

 小猫遊さんは早速、道路の真ん中に寝っ転がっていた三毛猫の背中をさすさすと撫で始める。実になれた手付きで、ミケは大変気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしていた。妹の阿奈ちゃんもその隣にしゃがみ、青っぽい体毛の子をヒザにのせた。

(絵になるなあ……この二人と猫……)

 沌も引き寄せられるがごとく黒猫が集団でひなたぼっこをしているところに駆け寄り、その中で一番小っちゃい子を抱き上げた。

「かわいい」

「おまえ、なんか黒猫似合うな」

 むかしから魔女といえば黒猫がつきものだ。しかしこのイメージはなにが元になっているのだろうか?

『むうううう……なんとムナクソの悪い場所だ……』

 一方、グラは犬のクセに昭和のおっさんのごとくカーッペとツバを吐いていた。

『こんなところにいては病気になる。早くドッグランというヤツに連れていってくれ』

 とジーンズの裾にかみついて引っ張る。

「まあまあいいじゃねえか。もう少しこの辺りでゆっくりしてからでも。ねこまみれを満喫する三人を置いて行くわけにも――」

『だったら吾輩一人でいってくる!』

 と駆け出してしまった。

「あっちょっと待てよ!」

「私たちも行きましょうか」

 小猫遊さんは苦笑しながら立ち上がった。するとその周りに猫がワラワラと集まってきて、あっというまに数十匹にとりかこまれるような形になってしまう。

「あららー?」

「こないだといい、随分と猫に好かれる体質なんだな」

『体質、というよりも――』

 グラがワンワンと口を挟む。

『原因は香水だろうな。ヤツがつけている香水からはバカ猫どもが好む匂いがする』

 なるほど。猫が好む匂いかどうかは俺にはわからないが、たしかに彼女からは独特の甘酸っぱいような香りがする。

『まったくこいつといい、オマエの母親といい、アリサちゃんといい。人間の女というヤツはなぜ香水のような異臭物質を身にふりかけるのか……その点、沌やセイヤはよい』

 小鳥遊さんの首から下を全て埋め尽くさん勢いで猫が飛びつき、もはや猫の塔のような状態になっていた。

 沌は「いいなぁ」などとそれを(比喩ではなく本当に)指をくわえて見ている。

 俺はその猫タワーの様子を動画に納めた。アリサちゃんじゃないがこれはバズりそうだ。


 ――それから。


「申し訳ございません。ドッグランへの入場には狂犬病予防注射済証明書と、混合ワクチン五種以上の摂取が必要になっております」

『なにぃ!?』

「そっかーそりゃあそういうのあるよなあ。残念だったなグラ」

『ぬう! この吾輩を締め出すとは……』

「今度はクスリ打ってから来ような」

『地獄の大魔犬が人間界の犬のクスリなんて打てるか!』

「お二人って本当に仲がよろしいんですねえ。ずっとお話されてます」

「あっいやこれは……」

「私もお話できるかな? グラくん。今度また一緒に来ようねー。――あっ返事してくれました!」

「ははは。そうみたいですね」

「むう……なんかやだ……」


「この『大森スタジアム』では甲子園大会の予選が行われているそうですよ」

「ほー」

『タカユキ。甲子園とはなんだ?』

「野球は知ってるよな。アレの学生大会だよ」

『ほう! 吾輩も『ヘルボール』の全地獄大会に出たことがあるぞ』

「ヘルボールって?」

『こっちのスポーツで言えばサッカーだな』

「あー。言われてみればおまえたまにサッカーっぽい動きしてるな。オーバーヘッドキックで俺に蹴りを入れたりとか」

「ふふふ。グラくんは今度はなんと?」

「えーっと。俺も犬サッカーの全国大会に出たことがあるって」

「ハハハ! 私そういうの好きです! タカユキさんって面白いですねえ」

「そ、そうかな?」

「むう……むうう!」


「もうすぐ焼けますよ!」

『タカユキ。バーベキューとはなんだ?』

「見りゃわかるだろ。肉とか野菜とかを屋外で焼いて食べるヤツだよ」

『そうじゃなくて「BBQ」とはなんの略かと聞いている』

「……沌。BBQとはなんの略か教えてくれ」

「BBQとは。もともとは西インド諸島の先住民であるタイノ族が使用した『肉の丸焼き用の木枠』を示す言葉で、それがスペイン語で『丸焼き』をイミする『barbaccal』に転化した。英語圏ではBBQと言われる」

「すごーい! 沌さんは物知りなんですね!」

「そ、そんなんじゃないし。ふんだ」

「あらららら……」

「す、すまん。沌が……。あいつ人見知りで」

「いえ。大丈夫ですよ。なんか小っちゃい動物みたいでかわいいですね」

「気にいってくれたならよかった」

「はい! 楽しいです!」

「お、俺も楽しいよ」

「むうむうむうむうむうむうむうむうむうむう!」


 そうこうしているうちに時刻はもう十七時。

 今日は夏にしては日が短く、もう夕陽が顔を出しいる。

「あの二人元気だなァ」

「ええホントに。まあ私たちより若いですからね」

「沌は同い年なんだけどな。見えないけど」

 俺と小猫遊さんは、沌と阿奈ちゃんがテニスコートでシングルマッチをしているところをベンチに座ってみていた。グラもそのとなりに鎮座している。

「二人とも上手ですねえ」

 阿奈ちゃんのプレイは素人目にみても見事に洗練されたものであった。恐らく経験があるのだろう。

「あいつ昔から意外と運動神経はいいんだよなー」

 しかし沌も負けてはいない。めちゃくちゃなフォームながらショットはなかなか正確で、そして恐るべき運動量でがむしゃらにボールを追いかけている。ワンピース姿であそこまでの全力プレイをする姿はなにが浮世離れしていて沌らしいと言える。

「いつも引きこもってるのにどこにあんな体力があるんだか」

「あの……沌さんはタカユキさんの彼女なんですか?」

「えっ!? ち、違うよ! 幼馴染みってヤツだよ!」

「そうなんですか……」

 彼女はにっこりと微笑みそれから、

「良かった」

 聞こえるか聞こえないかという小さな声でそう呟いた。

 ――ギャルゲーの主人公なら聞き逃すところかもしれないが俺は聞き逃さなかった。

 しかし。

「えーっと……」

 などと聞こえない振りをするほかはない。もしかするとギャルゲーの主人公もそうなのかもしれない。

 しばらくのきまずい沈黙。そして。

「あの!」彼女は意を決したように声を張った。

「今日はすっごく楽しかったです」

「あ、ああ。俺も楽しかった」

 顔が熱くなっているのが自分で分かる。

「また今度遊んでください」

「も、も、も、もちろん。いいに決まっている」

「その。今度は二人で……」

 さすがに実行はしなかったが、ほっぺたを思いきりツネって夢ではないかを確認したい衝動に駆られる。

(やっぱりおかしいよ……絶対俺の人生じゃなくなってるってこの人生……この俺が女の子、しかもこんなかわいい女の子にモテるなんざ……)

「ふふふ。どうしたんですか? 黙っちゃって」

「えっ!? 別に……」

 どうやらかなり長いこと沈黙してしまっていたらしい。

「顔真っ赤。タカユキさんってかわいいですね」

 肩をポンと叩いてくる。

(ううむ。女子のスキンシップに深いイミはないというが……)

「そういう人好きですよ」

 彼女はそういって肩にコツンと頭を乗せてきた。

 ――その瞬間。

 甘いようなすっぱいような。不思議な匂いがした。

 胸が恍惚となる不思議な感覚。目の前がピンク色に変化した。

 恐ろしいことに。あまりのここちよさに俺は意識を失いかけた。

 かけた。が。

 ――ガブッ!

 次の瞬間。なにか固いものが柔らかい肉に突き刺さる音がした。

 これはミシャンドラがまだ子犬で噛み癖があったころによく聞いた音だ。

「グラぁ! なにしてるんだおまえええ!」

 グラが小猫遊さんの喉元に嚙み付いていた。彼女の首からは潜血。

 沌も驚愕の目でこちらを振り返る。

 だが。小猫遊さんはそんな状況にも関わらずまったく表情を変えない。さわやかにほほ笑んだままだ。

「――グフッ!」

 そして笑顔のまま、かみつき首にブラ下がるグラの腹に強烈なブローを放った。

 グラは地面に叩きつけられる。

「アハ! アハハハハハハハハハ!」

 小猫遊さんは先決する首をおさえながら甲高い笑い声をあげる。。

「小猫遊さん……あんた……一体……?」

 するとグラが立ち上がって吠えた。

『そいつはイヌナシなどという名前ではない! 真の名は! 邪猫皇女オセ!』

「なに!?」

「なんでわかっちゃったのー?」

『見えたんだよ。貴様が『ギガ・ワタタビ』の茎をその男にブッ刺したのが』

「うそー! 慎重にやったつもりだったのになあ。あーん! 作戦しっぱいー!」

 コケティッシュな声を発しながら、手の内に隠した緑色の鋭く尖った針のようなものを晒した。

(……ギガ・ワタタビ??)

『その臭いも香水なんかでなくワタタビの臭いだな』

 小猫遊……いやオセはグラを無視して、俺を上目遣いで見つめた。

「あーあ。楽しかったのになー。タカユキくんも楽しかったでしょう? ねえねえ。私のことどれくらい好き? 何回ぐらいわたしのこと考えながら一人でシた?」

 俺はなにも答えることができず、ただただ口をポカンと開いていた。

『タカユキ。一応言っておくが、あの人間のメスの姿はヤツの実像ではないぞ。オセの特技は『メタモルフォーゼ』。元の姿はみっともない化け猫だが、人間だろうがなんだろうが変身することが可能』

「化け猫じゃないよ。かわいい子猫さんだニャン」

 そういって手をマネキネコのように動かして見せる。

「ごめんね。タカユキくん。これからもっともっとあなたと仲良くなっていろいろサセてあげようと思っていたのに」

 沌はこちらを振り返りあんぐりと口を開けていた。彼女の妹? はまったくの無表情でこちらに近づいてきている。

『あの女は。妹なんかでなく、貴様の腰巾着のフラウロスであろう?』

「そーそー。でも腰巾着とは違うよ。もっと性的な――」

「おい!」

 ――俺は地面を踏みつけて二人の会話を遮り、そして叫んだ。

「あんたの目的はなんだ! なんのために俺に近づいた!」

「キミを仲間にしようと思ってさ。人間の行動原理って性欲が九十九パーセントなんでしょ? だから、あなたのちんちんに媚びる感じにいけば簡単に仲間にできると思って」

 絶句。ただ背中から冷たい汗が流れた。

「ゆっくりとオトすのを楽しもうと思ってたんだけど、その沌って子がなんだかんだジャマになりそうで面倒になっちゃったからさあ」

 彼女との思い出が俺の中でガラガラと崩れ去っていく。

「でもそれが失敗だったなあ。残念残念。あっ、誤解しないでね。キミのことはホントに結構スキだよ!」

 と俺に向かって投げキッスをしてくる。

「そっちの小汚いボロ布みたいな駄犬は大嫌いだけどね! 殺そうと思ってるの!」

 また背筋に悪寒が走る。そんな邪悪な言葉を発しながら彼女が天使のような無邪気な笑顔を浮かべたからだ。

『そうか……キサマ。ギガ・ワタタビの件で私を逆恨みして。わざわざ殺しに来やがったのか……?』

「おいグラ……さっきから言ってるギガ・ワタタビってなんだ……?」

 なにかうっすらと聞き覚えがあるような気はする。

『地獄で生産される違法薬物のひとつだ。奴はそいつを使った魔術を得意としている』

 オセはすっと目を細めると、

「なにが違法薬物だよおおぉぉぉ! てめえが勝手に禁止にしやがったんだろ!」

 と喉を引き裂くような声で叫んだ。

「ごほん♪ ねえタカユキくん。そいつはさ。私が大好きなギガ・ワタタビを勝手に法律で禁止にしたあげくに、持っているヤツを押収してきたんだよ? ひどくない? やってることめちゃくちゃだよねえ」

 俺はなんとも答えることができない。

『どっちがめちゃくちゃだまったく……』

「めちゃくちゃはそっちだもん! ……まあどっちでもいいけどね。悪魔同士の争いに正しいも正しくないもないよ。あるのはどっちが殺してどっちが殺されるかだけ」

『吾輩を殺せるとでも?』

「キホン的にはムリだよねー。殺れるならとっくに殺ってるし。ふふふ。でもでも。あなた大分可愛くなっちゃったからなあ。今のあなたならイケるかも」

『ぐっ……』

 グラはやや前傾姿勢で牙を剥き、戦闘の構えを見せる。

 オセはそれを見るやイタズラっぽく歯を見せて笑った。

「フフフ。慌てないでよ。まだ闘う準備が十分じゃないからさあ。ここはトンズラさせてもらおうかな。猫だけど脱兎のごとくね♪」

 などと右手を挙げて指をパチンと弾いた。すると。フラウロスがポケットからなにか葉っぱの束のようなものを取り出しオセに投げ渡した。

『ギガ・ワタタビ……! キサマ! まだ隠し持ってやがったのか!』

「もちのろん♪ さあ行くよー。レム・ワタタビ・アスリープ」

 そういうとオセはライターを取り出し葉っぱに火をつけた。

 すさまじい量の赤い煙が発生する。そいつからはさっき彼女が肩に頭を乗せてくれたときと同じ匂いがした。

 ……意識がまたぶっとんでいく。

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