第12話 保健室にて
目を覚ますとそこは学校の保健室。
窓の外からは夕陽が差し込んでいた。
しゃっきり目が覚めて気分爽快。ぐぐっとノビをする。
(お。ジャージを着てる。やけにピチピチだがやっぱり服を着られるってのはいい)
部屋を見まわすと。
(沌とグラもいるじゃん)
隣のベッド。沌がアグラを掻いた状態でかっくんかっくんとフネをこいでいた。そしてそのアグラを掻いた足にすっぽりとはまり込むようにして、かわいいポメラニアンがこれまた寝息を立てている。
なんとも微笑ましい光景だ。これぞまさにインスタ映えである。俺は写真を撮りアリサちゃんに送ってやった。それから。
「起きろーーーーーーーーー!」
とヤツらの耳元で叫ぶ。
すると両者目をパチクリとさせたのち、ガバっと顔を上げた。
「授業さぼって看病してくれたのか? ありがとな。グラも治療してもらったみたいでよかった」
沌は保健室をキョロキョロと見まわす。
「もう変なヤツ中に入ってないよな?」
それから俺の絆創膏だらけの顔をじっと見つめる。
「いつもよりはワイルドでかっこよかろう?」
沌の目にはドンドン涙が溜まってゆき、
「うわああああああああああ!」
嗚咽の声を上げながら抱きついてきた。
ドキドキしたり、変なイミで興奮したりはしない。むしろ安らぎを感じる。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「謝るこたあねえよ!」
「だって! いっぱいケガ!」
俺は沌の頭にそっと手を乗せる。
それから自分が思っていることを正直に彼女に伝えた。
「おまえさ。たぶん。焦ってたんだろう。俺に置いていかれる感じがして」
沌は俺からパッと手を離すと気まずそうに俯いた。
「俺たちは共に世界征服を目指す仲間だろう? なにも対抗意識を燃やす必要はねえ」
「でも。なんにもできないとわたしはいらなくなっちゃう……」
「バカ野郎! 俺がおまえを必要としなくなるわけねえだろ! なにがあったって!」
沌の目を真剣に見つめた。
すると。しばらくの沈黙ののち。
「ありがとう」
とほんのわずか口元を緩ませ、また俺に抱きついてきた。
「友達っていうのはそういうもんだ」
「トモダチ……トモダチかあ……」
沌はなぜだかぷくっと頬をふくらませる。
「オトコノコとオンナノコなのに?」
夕陽を浴びて少し顔が赤く染まっている。その顔がなぜだかちょっと色っぽく感じられた。それにこの柔らかい感触。俺は少しだけ顔を逸らす。
「べ、別にいいだろう……男と女でも」
「ふんだ」
沌は抱きついていた腕を離した。ほっとしたような寂しいような。
「それにさ。おまえは呪術の才能があるだろう。さっきも俺を助けてくれたじゃないか。だから。オレにその、劣等感みたいなものを持つ必要はなんにもないよ」
「うん」
「それにシトリーを召喚することにも一応成功したんだしさ。召喚魔法の方も才能が――」
『いや。それはどうかな?』
グラが俺の言葉を遮るように呟いた。
「ん? どういうイミだ?」
『あ、いやすまん。もうすこし考えがまとまってから話す』
「あっそ。まあとにかく。帰ろうぜ。ハラ減った。まだ授業やってるのか知らないが知ったこっちゃない」
グラはそれを聞いてワンと吠え、それから俺の足に身を擦りつけてくる。
お返しにってわけでもないがグラのアタマをわしゃわしゃと撫でてやった。
沌がそんな俺たちを見て、
「あれ? 仲良しになったの?」
などとつぶやいた。
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