第5話 万城目高校 黒魔術部
特に大きなトラブルもなく放課後を迎えた。
「さーて部活に行くか。沌。部室のカギ持ってる?」
「んん」
「……どっちだ」
「う・ん」
万城目高校は部活動が非常に盛んだ。それも野球部やサッカー部といったメジャーな部活動よりも『インディー系部活動』の立ち上げが盛んであることで有名で、生徒数四〇〇人に対して一五〇もの部活が立ち上げられている。
我らが黒魔術部(学校に申請した名称は『西洋文化研究部』)もそんなインディー系部活動のひとつだ。部員数は二人。発足してからまだ二ヶ月弱。今期獲得した部費は五〇〇〇円。部室は旧校舎の隣にある部室連Cの一番端っこだ。
『ふむ。なかなか禍々しい雰囲気のある場所だ。気にいった』
「こんな校舎の端っこの密室でいつも二人っきりでいるんですの……? 不浄としか申し上げようがありませんわ」
部員は俺と沌の二人のみであるはずだが、今日はゲストが二人。いや一人と一匹。
『ふうむ。やはりおまえたち二人はそういった関係だったのか。生殖活動をするのはいいことだな。種の保全は大事だ』
ひとりは沌が抱えているわんわん。
「ってゆーか、なんでついてきてるんだ?」
「当たり前です! あなたがたみたいな邪悪なるカラミティから目を離すわけにいきますか」
もうひとりは白魔術師のセイヤ。
「いいよ。来ていいよ。セイヤちゃんなんか好き」
カギを開けドアを開く。中の広さは大体六畳くらい。部屋の壁は全面真っ黒に塗られ、その上から白いペンキで魔術の呪文がビッシリ。窓には一切光が入らないくらいの厚みの暗幕が張られ、床には親の顔より見たとも思われる魔法円と魔三角陣が描いてある。
あまりの光景にセイヤは立ちくらみを起こした。
「だいじょうぶ? いっかい寝る?」
心配する沌に対して「寝ますか! こんなところで!」と突っ込みが入る。
「あなたがた……これは私でなくても正気を失うレベルですわよ……」
「そうかな? じゃあ沌、始めるか」
「うん」
「人の話聞いてます……?」
俺と沌は床にあぐらを掻き本棚に収められた大量の魔導書、黒魔術教本に目を通し始める。グラも本を取り出して肉球でぺろぺろとページをめくる。読めるのだろうか。
「今日は本を読むだけなの……? ねえ無視しないでよ……」
セイヤも溜息をつきつつ床に行儀よく正座して『フールフールでも分かる! 黒魔術入門』に目を通し始めた。
――一時間後。
「うーむ。わからんなァ」
『そんなことでは困るぞ。ちゃんと調べてくれ』
「わか……らない」
「全然わからんなァ。なにがわからないかすらよくわからん」
なんだかダレてきたので手を止める二人と一匹。そこに部外者がつっこみを入れる。
「ねえ。さっきからアナタ達なにをわからんわからんと唸っているのかしら?」
「いや。この悪魔野郎を地獄に送り返す方法を探しててな」
するとセイヤは驚きに目を見開く。
「そうだったの!? なんだそんな正しい行いをしようとしていたんじゃない! 初めからそういってくれればもっと協力したのに。あなたたちもようやく正しき道に足を踏み入れてくれたのね! それじゃあいっしょにこの悪魔を退治しましょう!」
……あまりにもよい笑顔で俺と沌の手を握るので、つい罪悪感にかられ、
「まあ呼び出したのも俺なんだけどな」
と正直に告白してしまった。
それを聞いたセイヤの、この美少女を台無しにするエゲつないヘンガオ。
なんとも憎めないヤツである。
「なんで送り返す方法も調べずに無計画に呼び出すのよ!」
「いや……沌が送り返す方法知ってると思って気軽に呼び出したんだけどさ。その方法が召喚して一時間以内じゃないとできない方法で」
セイヤは呆れと怒りの深い溜息をついた。
「ま、ともかくさ。おまえもなにか方法を考えてくれよ」
「私がそんなこと知るわけないでしょ! でもまあ一般論としては――」
呆れつつも一応アイディアを提供してくれる。こういう所が沌や他のクラスメイトたちにも好かれるのだろうか。
「自分たちだけで調べていてもラチがあかないなら、有識者に聞いてみてはどう?」
俺と沌はポンと手を打つ。
「なるほど! でも有識者って言ってもな」
「わたしたち以上なんて日本にはほぼいないよ」
三人で首を捻っていると。
「ワンワンワンワン!」
グラが突然くるくる回転しながら吠え始めた。
「どうしたグラ」
『有識者ならいるぞ』
「ん? どこにだ?」
『地獄にだ』
「?? どういうこと?」
『おまえたちは地獄からわれわれ悪魔を召喚することができる。そして一時間以内であれば戻すことができる。従って。地獄から吾輩の仲間を一時的に呼び出して情報収集をすればいい』
「なるほど! その手があったか」
俺は思わずドラマに出てくるガイジンのごとく指をパチンと弾いた。
沌とセイヤはキョトンと顔を見合わせている。
「ああ。すまん。グラの声はおまえらには聞こえないのか」
グラが提案したやりかたを説明してやると、沌は前髪の下の瞳を好奇心にキランと輝かせた。一方セイヤは苦虫を五・六匹噛み潰したような顔。
「でもうまくできるかな?」
『不完全とはいえこの吾輩を召喚できたんだ。大抵の悪魔なら大丈夫なはず』
「そうなのかなあ? で誰を召喚すればいい?」
『そうだな……とりあえず『ナベリウス』を呼んでくれ』
「ナベリウスか。沌。印章はあったっけな」
そういうと沌は無言で立ち上がり、ロッカーからナベリウスの印章を取り出した。
「ナベリウスはそんなに情報通なのか?」
『彼は地獄からこの『人間界』を覗いてレポートする『観測手』だからな』
「ははあ。おまえがなんか結構こっちのことを知っているのはそういうわけか」
などと会話しているとセイヤが割り込んでくる。
「ちょっ、今から呼び出すカンジなんですの!? とりついたりしない?」
「ナベリウス、別名ケルベロス。ソロモン七十二柱の悪魔のひとつで十九の軍団を率いる地獄の大公爵である。人間界に召喚した際に表す姿は黒い鶴であるとも三頭を持つ魔犬であるとも言われており、人間にありとあらゆる技芸や学問をもたらし、特に修辞学にたけているという」
沌が一切抑揚のない芸術的棒読みでそのように説明した。
「な、なんでしょう……つらつらとしすぎていて全然アタマに入ってこないですわ」
「そんなに危険な悪魔ではないよなあ。グラ」
『うむ。彼は吾輩の部下であるし危険は一切ない』
とグラはセイヤのヒザにポンと前足を置いた。
「ほらグラもこう言ってるし」
「いやワンワンとしか聞こえないですけど……まあ危険がないというなら。でもイザとなったら天使様を呼んで成敗させて頂きますからね」
グラはそれを受けてペロっと舌を出し「ヘッヘッヘ!」と笑うような呼吸をしながら、
『ははは。なにを下らない。天使なんてものがいるわけがない。おまえがさっき呼んだのはただのハトだし』
などとホザいた。俺は今人生で一番「お前が言うな」とツッコミたい。
「なんか感じ悪いですわねぇこの悪魔。今バカにされたような……」
「まあともかく。さっさと始めよう! 沌と俺は儀式の準備。セイヤはスーパー行って鶏の胸肉買ってきてくれ!」
「なんで私がそんなパシリみたいなこと!」
「金はちゃんと部費から出すよ」
「そういうことじゃなくて!」
といいつつも、彼女は俺から千円札を受け取るとささーと部室を出た。
セイヤが帰ってくるころにはすでに準備は完了。
部屋にはロウソクが灯り、俺と沌も黒いローブを羽織って準備万端であった。
「セイヤちゃん。これ鶏肉は鶏肉だけどささみだよ」
「えっ? 鶏肉って種類があるんですの?」
「どれくらい世間知らずなんだよ」
「ベジタリアンだからスーパーでお肉なんて買いませんもの! 仕方ない。買いなおして来ますわ」
「いやいいよ。たぶん別にささみでも大丈夫だろ。さっさと始めよう」
「そんなんでいいんですの……?」
使用したささみはあとで棒棒鶏サラダにしておいしく頂きました。
「われは、汝、聖霊【ナベリウス】を呼び起こさん。至高の名にかけて、われ汝に命ず。あらゆるものの造り主、その下にあらゆる生がひざまずくかたの名にかけて、万物の主の威光にかけて! いと高きかたのに姿によって産まれし、わが命に応じよ。神によって生まれ、神の意思をなすわが命に従い現れよ。アドニー、エル、エルオーヒム。エーヘイエー、イーヘイエー、アーシャアー、エーヘイエー、ツアパオト、エルオーン、テトラグラマトン、シャダイ、いと高き、万能の主にかけて、汝、【ナベリウス】よ、しかるべき姿で、いかなる悪臭も音響もなく、すみやかに現れよ!」
すると――グラシオ・ラボラスを呼び出した際と同様、魔三角陣の中で爆発が起こり、黄色い煙と硫黄の匂いが部室に充満する。
「おお! 本当にできた!」
『なにをそんなに驚いておる。初めてでもあるまい』
「だっておまえを呼び出すまでに俺は一五一回失敗してるんだぜ」
『技術とはそういうものだ。一回できるまでの壁が一番大きい』
「すごい……ホントだったんだ……ちょっとハンシンハンギだった……」
沌は珍しいことに口をポカンと開けて驚きを露わにしている。セイヤは煙と硫黄の臭いに涙を流しながら咳込んでいた。
「さーてどんな姿かな。ナベリウスってやつは」
やがて煙が晴れるとそこにいたのは。
「キャンキャン!」
チョコレート色の体毛に長い胴体と短い四本の足。それにペローンと垂れた大きな耳。
つぶらな瞳でこちらを見つめるこの生き物は――
「これはダックス! ミニチュアダックスフンドだ!」
思わず叫んだ。沌とセイヤも顔を見合わせて驚愕している。
「キャンキャンキャンキャンキャン!」
そしてグラのときと同様に彼の意志が俺の脳内に直接流れ込んでくる。それに曰く。
『い、一体どこでやんすかここは!?』
……やんす?
『この不思議な空間は一体……これはたしかロウソクとかっていう……あれ? それにこの三匹いるツルツルの生き物は。もしかしてトロールでゲス? ――いや違うでやんすね。あっしの記憶じゃあヤツらはもっとでかいはず。もしかして人間!? いやそんなはずは! きゃつらは地獄では一秒と生きられないはず……いや待つでやんすよ! この場所がもしかして地獄ではないとしたら! あわわわわ! 大変でゲス! ゲスゲスゲス!』
なにをどういう変換が行われると俺の耳にこのようなしゃべり方で伝わってくるのか分からないが、とにかく彼は非常によくしゃべるタイプらしい。
『ん!? その澄んだ瞳! まるっこい耳! そしてなによりその強者のオーラ! あなたはまさか! グラシオ・ラボラスのダンナでやんすか!?』
グラはゆっくりを首をたてに振る。
『よくこの姿で吾輩だとわかったな。さすがだ』
『ひえええ! どういうことでやんすか!? 今地獄じゃあダンナが失踪したっていって大騒ぎでやんすよ!』
『だろうな』
傍目にはかわいい小型犬がじゃれ合いながらワンワン吠えているようにしか見えない。
『一体なにがあったでやんすか!?』
グラがことの経緯をかいつまんで説明する。
『なるほどでやんすね……』
ナベリウスは大きな耳をパタパタと羽ばたかせながら相槌を打つ。これまた反則的に愛くるしい仕草である。変なしゃべり方とのギャップがまたよい。
『こちらの人間さんがその召喚士でゲスね? どうもこんにちは。ナベリウスってケチな魔犬でやんす。旦那がいつも世話になっております。後ろのご婦人方にもよろしくです。しかし。二人とも上玉じゃなんじゃねーですか? アニキもスミにおけねえでゲスね。ともかく宜しく!』
「お、おお。宜しく」
なるほど。一口に魔犬と言ってもいろんな性格のヤツがいる。
『地獄一の情報通であるキミの知恵を拝借したい』
グラの問いに対してナベリウスは前足をアゴに当てつつ、
『一応方法はあることにはあるでやんす』
と自信なさげに答えた。
『それは?』
『ガープ様を呼び出すこと』
グラは驚きのあまり二本足で立ち上がった。
『なるほど……あの方であれば吾輩を地獄に戻すことなどたやすいであろうが……』
「とん……とん……」
沌が肩をつつきながら「なんて言ってるの?」と問う。
「ガープを呼び出したらいいじゃないかって。沌。ガープってどんなヤツだっけ?」
「堕天使ガープ。地獄の西方を魔王パイモンと二分する強力な悪魔。召喚を行うのは非常に困難で一年の内七月二十日から八月二十日までしか召喚士のよびかけに応じないと言われている。しかしその魔力は強力で、ありとあらゆる魔術を使いこなす」
便利だ……沌ペディア。
『コラ貴様ら! ガープ様を呼び捨てにするなど許されぬぞ!』
どうやらグラですらビビるほどの大物らしい。
「そ、そんなヤバイヤツを呼び出して地球を滅ぼす気ですの!?」
『ハト女。安心しろ。ガープ様は無駄な殺生をするような方ではない。しかし――』
グラとナベリウスは二人して前足を組んで首を捻る。
「なにか問題があるのか?」
俺の問いにナベリウスが答える。
『ガープ様を呼び出すには凄まじい魔力が必要でやんす。アナタもグラの旦那を呼び出すことができる辺り、抜群の才能がありますでしょうが、さすがにガープ様を呼び出せるほどとは』
『ふむ』
グラは興奮した様子で尻尾を振りながら、
『そうなると。こやつの魔力を鍛え上げるしかあるまい』
などと俺に近づき、頬っぺたをペロリと舐めた。
「き、鍛える!?」
『まあガープ様が呼び出せる期間まで一ヶ月強あるから、あるイミちょうどよいかもしれん』
『そうなると。あの二人の出番でやんすね!』
なぜかナベリウスも俺の頬を舐める。沌がちょっと羨ましそうにこちらを見ているのを察したらしく、そちらにもじゃれつきに行った。
『うむ。あの鬼教官どものな』
二頭はなにやら楽しそうにお互いのおしりの臭いを嗅ぎ合い始める。
「どうしようってんだ?」
『タカユキよ。今度は『アモン』と『マルコシアス』を呼び出せ』
「なんだあ? 偉そうに――」
『いいからさっさとやれ。魂を抜かれたいのか?』
「ぐっ……この野郎」
仕方がないので沌に印章を用意してもらい再び召喚の儀を行う。
すると。
「おお! また成功だ!」
あっけなく成功し、爆発と硫黄煙が発生する。
「お、恐ろしいわ……。アナタはそんな息を吸うように悪魔を召喚して……」
魔三角陣から現れたのは。
「キャンキャンキャンキャンキャン!」
「ウウウウゥゥゥゥ! ワンワンワンワン!」
一匹は小さな体に短い手足、でっかいアタマとピンと立った耳、それに意思の強そうな瞳、茶色くふわふわした体毛で全身を覆っていた。
二匹目は前者よりもさらに二回りほど小さくまるでぬいぐるみのよう。可愛らしいぱっちりとした瞳をしているが、そのふかふかの黒い毛皮からはなんとなく高貴な印象を受ける。
俺は思わず立ち上がり叫んだ。
「コーギーとチワワじゃねえか! なんでてめえらみんな可愛いんだ!」
狭い部屋にポメラニアン、ミニチュアダックス、コーギー、チワワ。小型犬のオールスター軍団が出そろう。
俺はとりあえずその様子を写真に納めた。あとでアリサちゃんに送ってやろう。SNSにアップしていいよの文言を添えて。
グラは困惑する二匹に事情を説明した。
『なるほどっスねー』とコーギーみたいな見た目のマルコシアス。
『御意にて候』とチワワみたいな見た目のアモン。
これまたなぜかやけにクセのある口調で俺の脳に直接語りかけてくる。
『というわけで二人にはこの男を――』
とグラのセリフの途中で、
『この男が諸悪の根源と悟ったり! 悪・即・斬を持ってこれを制す!』
チワワ――いやアモンが俺に跳びかかってきた。
「なっ!」
『死を喰らうがよい!』
彼は俺の胸に飛び込み顔面に強烈なパンチを放った。
(う……これは……)
柔らかい肉球がぷにぷにと当たり、全く痛くない。むしろ気持ちいい。そしてたいへんに可愛い。
俺は思わず彼を抱きあげてオデコにチューをしてやった。
『なっ!』
アモンは大暴れして俺の腕から逃れた。
『コラ! アモンちゃんは女の子っスよ! そんなことを軽々しくするなー!』
コーギー……じゃなくてマルコシアスがそのように抗議する。
アモンはキャインキャインと鳴きながらマルコシアスの後ろに隠れた。
『落ち着けアモン。おまえの悪いクセだ。さっき説明したであろう。吾輩が地獄に戻るためには、この男の力が必要であると』
『そうっスよーアモンちゃん』
『……汗顔至極の極み。切腹致します』
と、部屋に置いてあったボールペンをおなかにつきたてようとするが、グラが呆れた様子でそれをはたき落とした。
『二人にやって欲しいことはな。この男の魔力を鍛え上げること』
『なるほど! 了解っス!』
『御意。汚名返上のため全力を持って挑み候』
『うむ。こちらで毎日二人を召喚するから――』
「ちょ! 勝手に決めるな!」
と立ち上がりながら叫んだ。
「第一鍛えるったって具体的にどうするつもりなんだよ」
『うむ。魔力とはすなわち強い精神力。それを作るにはまず精神を破壊することだ』
「精神を破壊!?」
『人間がやる筋力トレーニングと同じようなもんっスよ! 一度破壊したものは元より強くなって復活するもんッス!』
マルコシアスくんが実に明るい声でそのように俺に微笑みかける。
「じょ、冗談じゃない! 精神が崩壊して立ち直れなくなったらどうする! やらないからな俺は!」
『ふふふ。タカユキよ。いいのかこんな機会を逃して』
「はあ?」
『おまえの目的、黒魔術をやる理由は世界征服なのであろう? それには言うまでもなく膨大な魔力が必要だ。普通にしていたらそんな魔力を手に入れることは不可能だ。だがこの訓練を乗り越えればあるいは可能かもしれんな。ちなみにアモンとマルコの二人は魔力トレーニングのエキスパートで地獄でもトップクラスの腕前だぞ』
「むう。確かに。世界征服のためには必要試練なのか……?」
――すると。
「とん……とん……!」
沌がややふくれっ面で強めに俺の背中をツンツンしてきた。
「さっきからなにしゃべってるかわかんないよ」
「なにか凄まじく不穏な単語がいろいろと聞こえたようですが……」
セイヤも青い顔で問うてくる。
俺はありのままを説明した。
「こいつら、俺の魔力を鍛えるために毎日のように精神をボッコボコにするつもりなんだって。まあ俺的にあんまりやりたくないんだけどさ、俺たちには『黒魔術による世界征服』という子供の頃からの目的があるだろう? そのためならちょっとやってみようと思ってるんだけど。沌はどう思う?」
「いいんじゃない?」
「!?そ、そんなことはさせないわ! 大天使ミカエル様―――!」
しっちゃかめっちゃかの大騒ぎの末、既に時刻は夕陽が出る頃合いとなっていた。
『じゃあ朝、学校行く前と放課後にボクとアモンちゃんのどっちかを呼び出してもらうってことでいいッスか?』
俺の『トレーニング』の予定が決定した。なんだか普通の部活動の練習のようなタイムスケジュールである。
『できればガープ様の召喚可能期間の七月二十日に間に合うように、みっちり鍛えてやってくれ』
『あいあいさー!』
決定事項を沌に通訳してやると。
「じゃあこれからもこのコたちに毎日会えるの?」と目を輝かせる。
『そうっスよ! 仲良くやりましょう! そっちの金髪の子も!』
『宜しく頼む。同性の仲間など殆どいないので……その……嬉しい』
二匹は沌とセイヤに駆け寄ってじゃれついた。
言葉はわからずとも二人に気持ちは伝わったようだ。
沌はマルコシアスをしっかりと抱きしめ、セイヤも苦笑しつつアモンの頭を撫でる。
大変幸せな光景である。やっぱり犬っていいなあなどと考えていると。
『随分と幸せそうな笑顔じゃないか。しかし。おまえの顔に笑顔が浮かぶのは今日で最後かもしれんな』
バカ犬は俺の肩に飛び乗ると、耳元でそのようにつぶやいた。
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