第3話 cattalk その一
一方。こちらは地獄。
どこにあるかは誰も知らない。行き方も分からない。
でもそいつは確かに存在しており、『悪魔』と言われる存在が生を営んでいた。
彼らは人間のように手先が器用でないため、あまり機械技術は発達していなかったが、その代わり魔法技術が大開化し、文明レベルは同等かむしろそれ以上。住人たちは魔術の力で発展した巨大な都市にて豊かな生活を送っていた。
そんな巨大都市のひとつ『キッテンブルグ』には『オセ城』と言われる巨大な建造物があった。
赤いレンガで出来た外壁にツンと尖った屋根が三本。派手なアーチ状の門。目に痛いくらいにキラキラ光る照明。よくいえばシンデレラ城、別の言い方をすればラブホテルのような佇まいである。
中に入ってみるとやはり内部もラブホ……いやファンタジーなお城のような内装であった。特にこの天蓋つきのベッドはお姫様が寝るような豪華さだ。そこに寝転がってあくびをしているのは。
『ナアァァァァァ……』
気品に溢れた深い青色の瞳。真っ白なカラダにつややかなボディライン。顔や手足の先のみ黒くなったいわゆるポイントカラーも大変チャーミング。
なんとも美しい女性――ってゆうか雌の猫であった。
『人間界』のシャムネコによく似ている。
彼女はなにやら葉っぱのようなものを咥えて口をもごもごさせていた。
そこに。『コンコン』とノックする音。
『入っていいナー』
部屋に入ってきたのはこれまた美しい雌猫。ツヤのある藍色の被毛がエレガントなロシアンブルーだ。
『オセ様。お加減はいかがでしょうか?』
『いいわけナいでしょ』
彼女は不機嫌そうに吐き捨てた。
『『あのクソ犬』のせいでロクな『ギガ・ワタタビ』が手に入らないんだから。見てよこのくたくたの粗悪品』
どうやら『オセ』と呼ばれた彼女が口に咥えているのが『ギガ・ワタタビ』であるらしい。
『申し訳御座いません』
ロシアンブルーの方の猫は、座った体勢から深々とアタマを下げた。
『別に『フラウロス』が悪いわけじゃないナ。それより。なんの用事で来たの?』
『はっ。その『クソ犬』に関する情報をお持ちしました』
『ナナナ! それは!?』
ベッドから身を乗り出してフラウロスに尋ねる。
『どうやら彼は地獄から姿を消したらしいのです』
『ナ、ナんだって!?』
オセは驚きのあまりベッドから転げ落ちた。
『どうして!?』
『まだはっきりとはわかりませんが。人間界に召喚されたのではないかという説が有力となっております』
『ナナナナナナナナナ!』
オセは素晴らしい身のこなしで立ち上がり叫んだ!
『ちゃんす! これはちゃんすナ! あのクソ犬を打ち倒して我らの野望『大巨大ワタタビハイパープランテーション農場』を築き上げるチャンス!』
『はっ! 僭越ながら私も同じように考えます』
『そうと決まれば遊んでる暇はないナ。まずは情報収集』
『仰せのままに』
オセは満足げに頷いたのち一旦咳払いをして――。
『では。作戦の開始の前に御唱和するナ! せーの!』
『『すべてはワタタビ天国のために!』』
――なにやら不穏なムーブメントがこのオセ城を起点として開始されたようだ。
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