噓をついたり、つかなかったり

ぺんなす

第1話 噓をついたり、つかなかったり

私はいつも──


「ねぇ…」

「ん?どうした?」

「……なんでもない…」


嘘をつく。

噓なんてない世界だったらいいいのに。

あっ、でもそうしたら私、何もしゃべれなくなちゃうのかな…。

それは──やっぱ嫌だ。


どうしていつも、『なんでもない』なんて言っちゃうんだろう…。本当は、伝えたいことあるのに…。


なんで、なんでいつも私は、嘘をついてしまうんだろう──。



はぁ…。

昨日も今日も…ううん、ずっと前からなんで本当のこと言えないんだろう。

毎日こんなこと考えて…大事な時間、無駄にしてる気がする。

全部言えちゃえばきっと…ううん絶対楽しくて幸せな時間が待ってるかもしれないのに…。



何でもないなんて言葉…消えちゃえばいいのに──。



放課後、そんな途方もないよなことを考えながら図書室で本を探す。


あっ、読みたい本あった。

うーん…ちょっと高い位置にあるけど…ギリギリ届くかな。

精一杯背伸びをして本に手を伸ばす。

届きそうで届かない。そんな状況はまるで私の心みたいだった。



「これ?」

「えっ…」

「取りたい本、これで合ってる?」


私は、届きそうで届かないのに──。


彼はいつも、私が困っていると颯爽と現れて助けてくれる。

私がいつも嘘をつく相手。


「うん。合ってる」

「よっ、と。はい」

軽々しく本を取り私に渡してくれた。

「ありがとう」

その後、彼にしては珍しく、ほんの少しの沈黙。

そして──


「あのさ、千歌。俺、千歌のこと好きなんだけど千歌は俺のことどう思ってる?」


それは、それはあまりにも突然で不意打ちで。

うまく状況が呑み込めない私は

「えっ…」

そんな咄嗟に出た、言葉とも言えない音とともに本を落としてしまう。

そして、頭がパンクして何も考えられなくなって。

真っ白で──。

その場から逃げてしまった。




「ってことがあったんだけどさ、やっぱ俺、嫌われたのかな。急に告白して、キモって思われたのかな」

「んーまぁ学校来てないのが答えじゃね?」

二人して千歌の席を見る。

「やっぱそうなのかな」

「連絡は?」

「一応したけど、既読ついてない」

「うーん…じゃあ嫌われたんじゃね?知らんけどさー」

相も変わらず適当な友人の言葉に初めて真に受けかけている。


俺は今日、初めて学校に対して早く終われと思った。

一人で考えたり、適当な友人に相談するより、本人に聞くのが一番だ。

人生で一番早歩きをした日になった。

いつもはあっという間に着いてしまう千歌の家に、今日は早歩きもしたのに何故か遠く感じて、いつもとは真逆のことを思う。いつもなら早く着くなって思うのにな…。


千歌、出るかな。

とりあえずインターホンを押してみる。

…出ない、か。

もう一回。


その後も嫌われてるのかや寝てるのかとか色々考えながら二回ほど押してみる。

一回一回手が震える…。こんなの初めてだ。

早く…早く出てくれ、千歌。


すると、

「何か用…?」

インターホンから千歌の声。

「あ、えーっと…様子、見に来た」

「……ドア、開いてるから入れば……」

「あぁ…うん」


やっぱ俺嫌われてる?

なんかすげー冷たい気がする…。とりあえず千歌と話してみないと。


ドアを開けて千歌の家に入る。

多分、リビングだな。

リビングのドアを開ける。そこには予想通り千歌がいる。

ソファの上に体育座り…。なんか拗ねてるみたいだ。



「あー、千歌?具合悪いのか?」

「……」


無反応。なんだこれ。俺はいったいどうすれば…。


「えーっと…千歌?なんか怒ってたり…」

「なんでっ…」

「えっ」

「なんであんなところで告白するのよっ!!」

「えっ…あ、えっと……」

「あんな、あんなたくさん声も出せない場所で普通する⁈もっと…雰囲気というか、シチュエーションとか、色々あるじゃん!!ていうか、そもそもなんであのタイミングなのよ!!もう…!!急に、急にあんなこと言うから……びっくり…したじゃない……」

「えっと…とにかくすまん」

泣きそうになりながら怒っている。

でも、可愛いな。って言ったら怒るな確実に。


少しの沈黙が続き、とりあえず言葉を発してみる。

「あー、えっと…告白したのはさ、何ていうか…最近、千歌がなんか悩んでるみたいでさ、でも俺…幼馴染なのになんで悩んでるかとか全然分かんなくてさ、ずっと前から言おうと思ってたことではあるし、急に言ったら千歌が驚いて悩んでることとか全部忘れないかなって思ってさ。まぁでも、言うにしてももっとタイミングとかシチュエーションと考えるべきだよな…。すまん」

ひとまず、俺の思ってること言ってみたけど…。

千歌は何を思っているのだろうか。

ていうか俺、幼馴染のくせに千歌が悩んでること分かんないとか酷い奴だな…。

としみじみ考えていると

「……悩んでたのは……亮のこと…」

「俺…?」

「うん…。だって私、亮のこと好きっ…。でも、いつ言ったらいいか分かんないし…いざ言おうとすると言葉が出なくて、いっつも何でもないって言っちゃって…言いたいこと、ちゃんと言えない自分が嫌で……それでっ……」

ダメ……。このまま話してたら、亮に嫌われる…。

こんな弱い私、見せたくなかった……。


「そっか」

亮は泣きそうになってる私を抱きしめた。

「……!」

彼の優しい声がとっても近くで聞こえて落ち着く。


「気づいてやれなくてごめんな千歌。これからは、なんでもないって言わなくていいから。だって俺達両想いなんだぜ?もう隠さなくていいよ。思ってること全部言って、今まで俺に見せてない千歌も全部見せてほしい。どんな千歌でも俺は大好きだ」

「ほんとに……?ほんとに、どんな私でも…泣いてる私でも…弱い私でもいいの…?」

「もちろん。……実は昔からさ、千歌が無理してるんじゃないかって思ってたんだ。ずっと俺の前では笑顔見せてくれるからさ。そんな千歌が大好きだけど、俺に嫌われたくないって思って無理させてたら嫌だなって…」

「亮には……何でもお見通しだね……」


本当は泣いてる姿、見られたくないだろうに顔を上げて、笑顔で千歌は俺を見つめた。

その姿があまりにも愛おしくて…思わず頭を撫でてしまった。

「もう…何よ、急に……」

「いや…。無理させて…悪かったな…」

「無理なんてしてないわ。私が勝手に嫌われたくなくてそうしてただけ。でも…もうしないわ。だって…どんな私でも受け入れてくれるんでしょう?」

「あぁ。これからは、無理したり強がったりしなくていいから。俺が全部受け止める」

「じゃあ…私の傍に一生居てね」

「それ、俺のセリフ」



こうして、ちょぴり強がりで素直になれなかった少女と、幼馴染想いの優しい少年は笑いあいながら生涯を共に過ごすのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

噓をついたり、つかなかったり ぺんなす @feka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ