ネク・ビエンテ 黒霧の館2


フォールスは臆せず館の玄関を開ける。錆び付いて建付けの悪い扉からはギギギと低い音が響く。周りで、物音1つ無いから余計に耳に残る。


「……物音1つ、無い。いくら奥まった場所とはいえ、音が無いなんておかしくないか」


「えっ、……だから気を付けろと………」


こ、コイツ……自分が気づいてる事が周りも当然気付いてると思ってやがるのか。


「フォールス、全て終わったら再教育します」


フォールスは私の言葉を飲み込んでから首を傾げる。


「……何故」


「そーゆーとこ。ほら、今はこっちに集中しよう」


「……ああ」




玄関を潜ればそこは街が広がっていた。


「な、何だこれは…」


私は言葉を失った。それは、フォールスも同じ様で立ち竦んでいる。フォールスにしては珍しい事で、不安が立ちこめる。


左右にやたら尖った屋根の家が複数建ち並び、そのどれもが歪に歪んでいる。黒の魔力が溢れんばかりに篭ってる。放置は出来ないな。


ここは、家の中の筈なのに空もある。ここの空は赤黒く、この世のものでは無いように見える。


「魔除のルーンを使う。手を」


フォールスは腰の袋から手のひらサイズの石を取り出して私の手に乗せる。


「これは?」


「魔除のルーン、限界はあるが悪意に対して護りの加護を受ける物だ。ポッケにでも閉まっておいてくれ」


フォールスは説明しつつ、別の魔術を展開するが、魔術が砕け散る。それに眉根を顰た。


「捜索の魔術が打ち消された。ここは…」


「ああ、明らかに人為的だな。厄介だ、本気で行くぞ」


フォールスは頷き、杖を顕現する。


「我が心の刃とし、姿を変えよ」


フォールスの杖はロングソードに形を変える。


私は少々長い、身の丈程の杖を顕現させる。


「精霊よ、力を貸してくれ。対価は魔力だ」


私は杖に宿す光の精霊を召喚し、周りに三体程纏わせる。


視線を上げれば、禍々しい建物の数々。虱潰しで更なる手がかりを掴まなければならない。多分時間もそうないだろう。




『アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』




嫌な悲鳴だ。


「慎重に行こう。ネクはバックアップだ」


「頼りにしてるぜナイト」

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