黒霧の少女14


伊勢神宮。ここには表に出せない事が複数存在する。そのひとつに本殿の中の地下に続く階段。


その階段は照明の類は設置されておらずただ真っ直ぐに下へ下へ下るしかない。しかし光が届かないその闇はある種類の人々は見ることができる。魔力、妖力、磁力、気。そういった特殊な力を持ち合わせた人間だ。


無論、一般人は、存在すら知らずに生涯を終える。


空とくうはそんな場所に2人で来ていた。


あの騒動の後、空は約束通りに、くうに杖を見繕うために案内役をしていた。


空は慣れた様子で観光客の合間を縫って奥え奥えと、進んで行く。その顔は明らかに考え事をしている顔であった。威厳ある建物には目もくれない。一般人が見てるもの、私達がみてるもの、その違いに改めて思い知る。


初見のくうを配慮することも無く歩き続けていた。くうも何も言わなかった。俯き、ただ歩く。


時折、顔を上げ、周りを見ると何も知らない楽しげな顔を人達。恨めしさと、羨ましさが心臓を締め付ける。いつから私の心は弱くなった。……考えるまでもない。


あの時私はあの場にいて、あの場にいなかった。咲は黒霧と対面して生存率を上げるために杖を私に握らせるつもりだろう。決して勝つ為ではなく。それが、腹立たしくて、でも、正しくて、涙も出なかった。私は弱い。


ただレベルの違いを見せつけられていた。奢り。確実にあったそのプライドは今は形すらなくなった。




「ねぇ、ねぇって!」


「んん、なに」


まるで、居たのかと言わんばかり。無性に腹立たしい。此奴とは馬が会いそうにない。それでも頼らざる得ない自分がいて余計に腹立たしい。


「なんも見えないんだけど」


「えっ、ああそうか」


慌てて、この暗闇に対しての対処法を伝えてくる。


「魔力のを目に通して」


ムスッと喧嘩腰になる。余りにも雑な説明すぎる!


「どうやってよ!」


くうの文句に一拍遅れて反応する。


「えっ、ああ、何?」


その顔はポカンとして虚ろな瞳になっていた。


くうは眉をひそめ本気で心配になる。


「ちょっと、アンタ大丈夫?さっきから上の空なんだけど」


この時点で既に空の顔を薄らとはいえ、認識出来ているから、魔力のコントロールは出来ているのだか、くうは気づかない。


「あー、愚痴になるんだが、前の咲が使った『緑の魔法』を見た時思ったんだよ。俺は必要かってな。いや、まあ、俺達みたいな未熟者が遠い未来に咲みたいな色の魔法使いの後釜にならなきゃ行かん事も頭では理解してる。だけど、俺が目指すのは強さなのか?それとも知識なのか?それとも別の物なのかってね。そんな考えばかりが頭を過ぎるんだ。つまり、目標が無くなったからどうしようかって悩んでるんだ」


「分かるよ、一緒。私は奢ってたんだよ。何も知らないくせにさ。強くもなくて、アンタみたいに知識もない。辛うじてあるのは歌の魔法だけ、それも不完全な魔法。オマケに杖すら持ってないときた。そんな私は必要か?不必要じゃなければいいのか?アンタと一緒だよ、圧倒的な力はさ、全てを抑え込んじゃうんだ」


そう、無力だ。空も痛感したのだろう。知識だけなら上位の魔法使いを凌ぐ彼が無気力になるくらいにはショックだったのだろう。目標がいざ目の前で見れるとして、それが今いる自分の場所から霞むほど遠くて、差を感じてどうしたらいいか分かんないんだろう。きっと、空にとって初めての挫折なのかもしれない。


「元々目標なんて無いし、普通も知らないって気付いたし、もうどうすればいいのやら」


弱気なムードは心の弱さをドバドバ流すようでお互い暗い表情で、ネガティブで意気投合したようだった。


残念な仲の良くなり方だった。




愚痴りあっていた2人は階段を降りきり、石造りの大きな両開きの扉の前に着いた。


空が杖を取り出し、魔力を杖に蓄える。それを扉に突きつける。


すると、扉は青白い光を放ちゆっくりと重々しくでも、音を1つも立てないで開いた。


開いた先に拡がっていたのは、ひたすら広い空間だった。

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