AWS

[ある日のネットニュース]

 今年の文学大賞は、峠 憂一さんの小説『夜の麓』が受賞しました。

 『夜の麓』は、峠氏の処女作でありながら多くの読者層から莫大な人気を得た作品で、まさに今年の文学界を代表する作品といえるでしょう。

 関係者によると、『夜の麓』のTVドラマ化や映画化の話も進んでいるそうです。

峠氏の今後が期待されます。




[とある高名評論家の書評]

 『夜の麓』が文学大賞を受賞した。やはりと言ったところだ。

 当作品は文学界に激震をもたらした。巧妙な伏線と洗練されたストーリーも魅力だが、特筆すべきはその表現技法であろう。既存のものどれとも当て嵌らない斬新な文章表現だが、自然に情景や心理が頭に入り、読みやすい。まさに革命だ。

 作者の峠氏には脱帽だ。このような文章が人間に書けるとは…ただただ称賛せざるを得ない。




[峠 憂一のSNS ある日の投稿]

 本日18時に重大発表があります。




[峠 憂一のSNS 同日18時の投稿]

 みなさんにお伝えすることがあります。

 『夜の麓』についてですが、実はあれを書いたのは僕ではありません。

 この作品は、N社が新しく開発した文章作成AIにより作られたものです。僕は原案を考えただけです。

 N社より、近日中にこの文章作成サービスが一般公開されるそうです!これを購入すれば、誰でも高いレベルの文章が書けるようになります。




[まとめサイト『文学大賞、AIが作成?』]

 今話題となっている『夜の麓』とAIについてのまとめです!


・『夜の麓』とは?

 『夜の麓』とは、今年の文学大賞を受賞した小説です。とても流行っていたので、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。


・AIが作った?

 先日、作者のSNSで、『夜の麓』はAIが作ったことが発表されました。本当かどうか疑う人も多かったですが、AIを作成したというN社からも公式発表があったので、まず間違いないでしょう。


・文章作成AIとは?

 N社の発表によると、文章作成AIは『Automatic Writing Service』(通称:AWS)という名前で、書きたい内容を打ち込めば自動的にすぐれた文章を作ってくれるそうです。文章のボリュームや文体なども自由に決めれるそうです。

 そして、このサービスが後日一般公開されるそうです!文章が簡単に書けるようになるのが楽しみですね!


・怒りの声も?

 ただ、この一連の流れに対して批判する声も多いそうです。


 以下はこの件に関するSNSの投稿まとめです!


「失望しました。最初から文章作成AIを作ったと発表すればいいのに、なぜそれを隠して小説にしたのでしょうか。客を馬鹿にしているとしか思えません。AWSが発売しても絶対使わないです」


「せっかく良さそうなサービス作ったのに、N社はもう終わりだな。やり方が悪どすぎる」


「『夜の麓』AIが作ったってまじかwww作家全員廃業だなwww」


「『夜の麓』前に読んでみたけど、なんか気持ち悪い文章で途中で辞めたんだよね…あれが大人気なのがまじで謎だった」


「宣伝方法に批判くるのも分かるけど、実際AWSは革命的でしょ。ワープロができて手書き文章が減ったみたいに、これからは文章を細部まで書くことは減る時代になりそう」


・まとめ

 賛否両論がありますが、AWSが社会を変えることは間違いなさそうです!発売が待ち遠しいですね!

 いかがでしたか?よければ高評価をお願いします!




[とある編集者の匿名ブログ]

 今話題のAWSを巡る騒動について、思うことがある。文章の今後についてだ。

 『夜の麓』を読む限り、悲しいがAIの文章技術が人間を超えていることは明白だろう。

 ただ、それによって作家やライターが不要な仕事になるとは思えない。例えば将棋やチェスは人間よりAIの方が遥かに強くなったが、人間どうしの対局にもまだまだ需要がある。機械ではなく人間が書いた文章を読みたいと思う人も多いだろう。

 しかし、ここで一つ懸念がある。それは人間の文章とAIの文章を区別する方法がないことだ。どんな名作を書いても、AWSを使ったんだろうと言われればそれを否定しようがない。

 何らかの対策を講じる必要がある。さもないと、文章を自分で書いたことの証明ができなくなり、人間は自己表現の手段を一つ失ってしまうだろう。




[N社 公式ホームページの発表]

 たくさんのご意見ありがとうございます。今回の件で気分を害されてしまった方には、誠に申し訳ございません。

 この度、「AWSによる文章かどうか分からないのは問題だ」というご指摘を多く頂いたので、新たな機能を追加したことをお知らせいたします。

 AWSによって作成された全ての文章を、データベースに保管する機能を追加しました。データベースから検索することによって、その文章がAWSを使用しているか確認ができます。

 また、AWSによる文章がインターネット上に掲載された場合、自動で【この文章はAWSによるものです】という脚注がつく機能も追加いたしました。

 AWSの発売は今月下旬を予定しています。ぜひお買い求めください!

※【この文章はAWSによるものです】




[新書『AWSはいかにして生まれたか』の一部]

……

 このようにして、AWSは生み出された。

発売当初は批判も大きかったが、利便性の高さにより瞬く間に人口に膾炙した。今では事業報告書や公式サイト等にAWSを使用する企業も増えている。

 なお、基本的には出版物にAWSを使用してはいけないという規則も生まれた。今の所は各出版社間の合意によるものだが、いずれ法整備もなされるだろう。この文章も当然AWSは使用していない。

 現在の争点は、学生がレポートや卒論にAWSを使用することの是非だ。AWSの使用によって学生が文章を自分で組み立てることがなくなり、論理的思考力が落ちるのではないかとの懸念が高まっている。

……




※【この文章はAWSによるものです】

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