紫外線はやっぱり怖い

 智昭は、はっとしたように顔を上げた。

「タイトル覚えてたんだ」

「あれだけ何度も聞かされたらね」

 あたしはズズッと音を立てて、最後のアイス珈琲を飲み干した。そうして目を合わせないうちに、立ち上がる。

「待ってくれ」

 店員さんは、ふたりの伝票を分けてくれていた。確認して、自分のぶんだけ拾い上げる。

「明子ちゃん、おれは本気だ」

「じゃあ、」

 あたしは鞄から財布を取り出しながら、焦った声を出す智昭を見下ろす。

「その珈琲を飲み終えたら、見せてよ。本気」

 返事は待たなかった。そのまま店の入り口で会計を済ませて、智昭を置いたままさっさと店を出る。


 色とりどりの煉瓦が敷き詰められた、小さな広場をゆっくりと歩きながら、あたしはぼんやり考える。

 智昭はどうするだろうか。追いかけてくるか、それとも諦めるか。

 あたしは別に、ヨリを戻そうなんて思ってない。でもあたしの耳には、さっきからずっとあの曲が流れている。大好きな声で流れてくる。

 追いかけてくるだろうか。ホット珈琲を一気飲みして。猫舌の甘党は、いつもあたしに合わせて珈琲を頼んでいた。

 気づけばあたしはあのバラードを口ずさんでいる。


 melody of "remember me", I always with you, I want . . .


 仕方がない、一度くらいは、振り返ってやるか。

 くるりと反転すると、店の窓ガラスのなかに智昭が見える。こっちを見ながら珈琲カップを必死に口に運んでいる。


 紫外線が怖いから、早くその珈琲を飲み干してちょうだい。そしてあたしに日傘を買ってほしい。

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