第21話
飲み物が運ばれて来て、各自がグラスを持ち上げた。
「じゃあ、明日のヒロシのデートがうまく行くことを願って乾杯!」
先生の乾杯の音頭に合わせて、各自のグラスが心地よい音を奏でた。
それから約2時間、俺は様々なダメ出しや注意点、トークのポイントなどを叩き込まれた。ただ、初めて飲んだお酒のせいと2時間という長尺で話された内容の多さのせいもあり、正直ほとんど覚えられなかった。
そして、飲み会も終わり学生二人を返したあと、先生から『もう一軒、行かないか?』と真剣な顔で誘われた俺は何かを察し、人生初のはしごを経験した。
「ヒロシ、一つだけ大事なことを伝えておく。」
「はい、なんでしょうか?」
「先走りすぎなことは百も承知だが、万が一ということを考えて備えておく必要があると思って。」
少しの沈黙を挟み、
「仮に相手の女性から朝まで一緒にいたいと誘われたとしても、必ず断って帰るんだぞ。」
「なんでですか?」
と反論した瞬間、自分でも断る理由がはっきり分かった。
「そうなんだよ、ヒロシ。君は普通の人とは違って、1日置きにしか存在していない。実際、何時を境に入れ替わるのかは分かっていないが、それでも朝まで一緒に過ごすことになれば、次目覚めた時、この身体はヒロシではなくサトシのものになっている。
また、万が一朝まで一緒に起きて過ごすということをした場合、身体にどんな影響が出るか予想が出来ない。君たちはこれまでの数年間、私の言う通り、必ず0時前には就寝してくれていたから、全くデータがないんだ。
朝まで一緒にいたいと好きな人から言われたのに断らないとならないのが辛いのは分かる。だが、どんなに楽しい気持ちになっていても、1軒目で必ず帰ることをここで約束してくれ。
この約束が守れないようであれば、君たちの担当医として明後日のデートを許すことは出来ない。」
ヒロシは小さく、
「分かりました。」
とだけ答えた。
そして、2軒目を15分程度で退店した俺たちは、家路に着いた。
帰り道、普段は歩かない時間帯ということもあり、すれ違う人たちの中にはカップルも多くいた。
すれ違うカップルを見るたびに、『もし俺が二重人格者じゃなければ』と心の中で叫び続けていた。
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