第17話

私はヒロシからのリクエストを受け、研究室にいる女性たちに声を掛けた。

「もし気になっている人から食事に誘われたとしたら、どんなお店だとガッカリする?」

「サトシさん気になっている人いるんですか?」


突然の色恋相談が珍しかったのか、からかっているのか分からないが研究室の女性たちは私のことを囲むと、キャッキャと騒ぎ出した。


「いや、私じゃなくて相方のヒロシがね、公園で会った女性を好きになったらしくて。」

「えー、公園での出会いなんてドラマか漫画みたいじゃないですか。相手の女性の雰囲気とか色々と情報が分からないとアドバイス出来ないんですけど、写真とかありますか?」


相手の女性の顔が見たいという気持ちが満々だったのは私でも分かった。ワイワイしていると男性陣も集まってきてしまい、まるで記者会見をしている芸能人のような光景になった。


「写真はないんだけど、昨日ヒロシが私のために描いてくれた絵の写真ならあるよ。」

そう言うと私は今朝、リビングの椅子に立てかけてあった絵を撮った写真をみんなに見せた。


「え?なんで泣き顔なんだろ?」

「でも泣き顔の中にも、暖かい表情というか雰囲気を纏っているような気がする。」

「ヒロシさんの絵ってなんだか分からないけど、人の深層心理を表現するのが抜群だよね。」

「なんか、この絵の感じ、私がフォローしている画家さんの画風に凄い似てる気がする。」

「私もそれ思った!このアカウントだよね?」


なぜか興味関心が色恋からとあるSNSアカウントに移ってしまった。

「どのアカウント?」

私もそのアカウントを見せてもらった。そのアカウントのタイムラインに流れている絵の数々は私がヒロシのアトリエを片付けている時に見たことあるモノばかりだった。


「この絵、ヒロシが描いている絵にそっくりなものばっかりだな。」

「え?」

私の何気ない独り言に、全員が反応した。


「もしかして、このアカウントの中の人ってヒロシさんだったりして?」

「どうだろう?でも、この女性の絵を見ると確かに現実味増してくるかも。」

「サトシさんは、知らないんですか?」

「うん。これまでお互いのことはあまり干渉してこなかったから分からないな。」

「じゃあ、明日先生を通して聞いてみてもらおうよ。」


私は全く研究室に顔を出さないヒロシのことばかりが注目されることに、なんとも言えない気持ちになっていた。そんな雰囲気を感じたのか、先生の助手を長年やっているエリカさんが私に声を掛けてきた。


「最初の質問の答えですけど、私は自分のことを一生懸命考えくれた末のお店だったら、どこでも嬉しいですよ。ただ、お店によって洋服を考えたりしたいから、事前にどんなお店に行くかくらいは教えておいてもらいたいかな。」

「エリカさん、ありがとう。なるほどね。確かに、煙が充満するようなお店だったらお気に入りの洋服が臭くなったりしちゃって嫌だよね。」


「そういうこともあるけど、少し高級な所だった時、周りがおしゃれしているのに、私だけが普通の服装だとみっともないって感じちゃったりして、折角の料理とか雰囲気を楽しめないから、もったいなって思っちゃうんだよね、私の場合は。」

「そういうもんなんですね。いやー、参考になります。」


「そう?なら良かった。あと、私としてはトイレが汚かったり、男女兼用になっているようなお店だと少し嫌かも。水回りが汚いってだけで、テンションが下がっちゃうんだ。」

「そういう視点も女性ならではですね。そういうことは絶対にヒロシや私だけの頭では出てこない視点です。」

「ヒロシさん、うまくいくと良いですね。」

「そうですね!」


私はエリカさんの優しさのおかげで、ここにいないヒロシに注目が集まっていることに対する嫉妬心が消え去っていることに気付いた。と同時に、エリカさんのことをもっと知りたいと思っている自分がいることに気付いた。

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