第16話

家に帰るなり、俺は今の気持ちを忘れないようにするため、ヒカルさんをモチーフにした絵を描き始めた。

満開の桜をバックに、大粒の涙をこぼしながら頬を赤く染めている。俺の中で強烈に印象に残っているヒカルさんの第一印象だ。


悲しい涙ではなく、嬉しい涙。でも、その様子を悟られまいとする表情のせいで、悲しみを堪えきれずに泣いているように見えてしまう。そんな少し素直ではない感じがまた俺の中でヒカルさんを忘れられない女性にしていた。


出来上がった絵をリビングに置いている椅子に立てかけ、サトシに向けたメッセージを書いた。

『この女性が俺が今、気になっているヒカルさんです。今度、一緒にご飯を食べに行く約束を取り付けたんだけど、どうやって誘えば良いかな?もし、今日時間があるようなら研究室にいる女性に聞いてもらえると嬉しいです。』


「これで良いかな。もしかしたら、サトシもこの情報収集がキッカケになって好きな人が出来たりして」

ぐーっというお腹の音が鳴り、時計を見るとすでに23時を回っていた。


「ヤバ。俺、何時間くらい集中して絵描いちゃってたんだろう。お腹減ったけど、さすがに夜更かしするわけにも行かないし、もう今日は寝るか。」

俺たちは24時までには必ず寝ることを先生から義務化されており、これまで一度もこのルールを破ったことが無かった。


『もし、ヒカルさんとお付き合いが出来たとしても、俺は夜更かしできないのか。』

そんなことを漠然と思いながら、俺は眠りについた。

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