第三十五話 重要な事実

「――――ってな事があったんだが、何だと思う?」


 一日の作業が全て終わり、ツェツィとゲルの中で二人っきりになったので、俺は調理中の出来事を相談してみた。


 ちなみに、俺用にしていた一番大きなゲルは、正しく食堂として使用しているため、気に入らないが今はゲリンの使っていたゲルを俺用のゲルにしている。

 というか、ツェツィとは最初からずっとベッドを並べて寝起きしていたので、明確に言えば俺とツェツィ用のゲルだが。


 これについては、トゥーダから苦言を呈されていた。


『姫さんは王族から除籍扱いになってるが、王族の出自は変わらねーんだ。しかも未婚なのにこんなインチキ野郎と――』


『ワルター様はインチキ野郎ではございません! もしかして、まだワルター様のお力をお疑いなのですか?』


『あ、いや――』


『それでしたら、改めてトゥーダ様ご自身のお体で以て、効果をご確認した方がよろしい――』


『悪かった! 今までの癖でつい言っちまっただけで、インチキだとか思ってねーから、バフ解除はしねーでくれ……じゃなくて、しないでください姫さん』


『でしたら、その変な癖を直してくださいね』


『努力、します……』


 なんと言うか、ツェツィとトゥーダの関係が、いつの間にか飼い主とペットのようになっている。

 そして、トゥーダの手綱は俺が握っていると思ったら、いつの間にかツェツィが握っていた。


 俺は面倒事をツェツィに丸投げにしているが、だからといって俺の存在を便利に使われるのには少々思うところがある。

 だが『彼女は上司だから』ということで丸投げし、俺が甘えきっているのも事実。

 ある意味では、俺もツェツィを便利に使っているのだ、お互い様と思って我慢すべきなのかもしれない。


『でも姫さん、相手がワルターだとか関係なく、未婚の若い男女が同衾すんのはよくねーよ』


 俺がなんとなく心の葛藤をしていると、トゥーダが変な事を言い出した。


『同衾ではありませんよ? 個々のベッドで寝ていますもの』


『いや、でも、ベッドをピッタリくっつけて、男女が二人だけの空間で寝るってのはよくねーって。ワルターも若い男だし、破廉恥はれんちな行いとかするかもしんねーし、間違いがあってからじゃ遅いんだぜ』


『ワルター様は破廉恥はれんちではございません。ですが、求められるのであればやぶさかではありませんけど、私はあくまで補佐ですし……。――そ、そんな事より、トゥーダ様の格好の方が破廉恥はれんちですよ。そんな破廉恥はれんちな格好したトゥーダ様だけには言われたくありません』


『え? アタイのビキニアーマーは破廉恥はれんちなのか?』


破廉恥はれんちです。お姉さま以上に扇情的です。物凄く誘っています。ですが、時期がくればそれもあり……ですね』


 トゥーダはどう見ても破廉恥はれんちだ。

 むしろ、トゥーダの存在そのものがわいせつ罪と言っても過言じゃない。

 ってか、ツェツィの言う”時期がくればあり”の意味がわからん。


『でもこれは、虎人族の女戦士の戦闘着で――』


 何故かトゥーダが言い訳をする状況になり、最終的に彼女は当然のように言い包められていた。

 元王女と脳筋が口で勝負すれば、こうなるのは分かりきっているので、俺からすると茶番だ。


 そんな茶番が終わり、ゲルを出ていく寸前のトゥーダは俺を睨み、小声で「お前、絶対に姫さんに手を出すなよ」と凄んできた。

 だが言われなくてもそんな事はしない。

 俺はもう女は懲り懲りなのだ。

 状況的に仕方ないからツェツィと行動しているだけで、そんな気はさらさらない。

 なにせツェツィは、母性の象徴である膨らみがとぼしく、根本的に劣情を催す要素がないのだ。

 やはりこう、バインっとしていないと――


 ん、待てよ?

 俺って、莉愛やアメリアにしか興味がなかったけど、ヤツラの体つきがどうこうとか気にした事がなかったよな?

 それこそ他の女なんて、存在そのものを意識してなかった。

 なのにどうして俺は、膨らみがとぼしいだとか、バインっとしていないと、なんて発想に至ったんだ?

 自分の事なのに全然わからん。

 ただ一つだけわかった。


 ツェツィに対し、俺が劣情を催す心配がロリコンじゃない、ということだ。



「ワルター様、何か失礼な事を考えていませんか?」


「――――え? あ、いえ、何も考えてません……」


 今の俺は、いつかのようにツェツィと向き合って座り、至近距離で見つめ合っている。

 もしかしたら俺のスキルに変化があったかもしれないとの事で、ツェツィに鑑定してもらっている最中に、気を逸らす意味で意識を別方向に向けていたのだが、丁度ツェツィ関連の事を考えていたタイミングで声をかけられ、言葉がしどろもどろになっていた。

 しかも、思わず逸した視線がツェツィの胸元に……。


「むっ、やはり失礼な事を考えていましたね」


「すみません……」


 俺は素直に謝ってしまった。


「なるほど。ワルター様はバインバインな方がお好きということですね。今後の参考にいたします」


「いや、そういう訳では……。ってか、今後の参考って何?」


「そんな事より、重要な事実が判明しました」


 話をはぐらかされてしまったが、俺としても助かったので蒸し返すような事はしない。

 それより――


「重要な事実って?」


「紋章の『そうせい・・・・の先導者』が『創生・・の先導者』に変化しています」


「え、マジで?」


「マジです」


 俺の言葉をトレースしただけなのだろうが、ツェツィが『マジ』という言葉を使った事に、何故かほっこりした気持ちになった。


 いやいや、ほっこりしてる場合じゃねーし。


「それで、『創生』についての詳しい情報はどんな感じ?」


「申し訳ございません。名称に変化があったのですが、何故か詳細が表示されておらず、詳しい事はわかっていないのです」


「そんな事があるんだ?」


「私自身も、この鑑定能力を全て把握する前に放逐されてしまい、まだ十全に使いこなせておりませんので……」


「そういえば、前にもそんな事を言ってたな。でもまぁ、『そうせい』が『創生』だとわかっただけでも、俺としてはありがたいよ。だからツェツィが気に病む必要はないから」


 実際、最初は『槍聖』だと思われてたように、『そうせい』についての情報があやふやだったのだ。

 しかし、『創生』とわかった以上、なとなく方向性が見えたきた。

 ただ、『地方創生』などで聞きはしても、明確に『創生』の意味するところはわからない。

 それでも『創世』のような、世界を創り出す的な壮大なものでないのはわかる。

 どちらかと言えば、『創成』や『創製』のように、ものを作り出すような意味合いに近いと思う。

 言葉通りに捉えれば、つくって生み出す何らかの生産系のように思えるが……。


「ツェツィは『創生』をどう解釈してる?」


 自分なりの考えはあるものの、ツェツィの意見も聞く。


「女神レーツェル様のお言葉通りであれば…………ハッ! もしや、子作りスキル?!」


「すまん、ツェツィが何を言ってるのかサッパリわからんのだが」


 子作りスキルとか一切役に立たないし、そもそもそんなスキルに『創生』は壮大すぎるだろ。


 今回は珍しくツェツィが役に立たないので、俺が推測した生産系の方向で可能性を探ることにした。

 それと並行して、俺に異変がないか観察していく感じになる。


「とりあえず、開拓民の中から生産系の技能を持った人をピックアップしてみるか」


 深刻な女性不足です、困りましたとか言ってるツェツィを無視し、俺は明日からすべき事を決めたのだった。

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