第三十三話 残念
「ワルター様はバフで嵩増しされた経験値を、パーティを解消された仲間から回収していると伝えましたよね?」
「聞いたね」
ツェツィの言葉にトゥーダは顔を歪めたまま答えた。
「その経験値なのですが、新しくパーティを組んだ仲間に、どうやら割り振っているようなのです」
それは俺も初耳だった。
そもそもツェツィは、俺の能力関連についてある程度確信を持たないと俺にも教えてくれないので、俺が知らない俺の能力を色々知っているのだ。
「もしかして姫さんの動きが良かったのは……」
「はい。勇者パーティの皆さんから回収された経験値が、私に譲渡されたからですね」
「姫さん、それってズルくねーか?」
「私に関しては、確かにズルですね」
ツェツィは物凄く良い笑顔で言い切った。
「するってーと、アタイが以前の状態に戻るには、ワルターに仲間と認められなければダメなのか?」
「そうですね。ですが現状のワルター様は、トゥーダ様を仲間と認めた状態のはずですけれど、力は戻っていませんか?」
「しばらく力が落ちてたから、戦ってる時は戻ったような気がしてたんだけどよ、落ち着いてみると物たんね―気がするんだ」
「ワルター様が回収した経験値がどのように割り振られているか、まだ完全には把握できていないのです。もしかするとワルター様自身が経験値を取得した状態になり、一部を無意識に分配している可能性が高いと思っております」
俺はそんなのを意識的にやった事がないので、無意識にやっているのだろう。
「しかも、アストくんとヴェラちゃんの協力の下、パーティを組んだり解消したりと色々試しているのですが、紋章のクラスの差なのでしょうか、どうも私は能力の上昇度が高いのです。
「だったらアタイとも相性が良いってことだよな? ってか、そもそもアタイが稼いだ経験値も含まれてんだ、相性が悪いわけがねー。――そうだよな?」
だから睨むなよ! 俺はその辺を自分でも把握できてないんだから。
「ところでトゥーダ様は、力が戻ったらどうなさりたいのですか? やはり残党狩りですか?」
「いや、一の姫さんに義理立てして残党狩りに出たが、もう戻る気はねーよ。アタイはなんの
「それでしたら、私たちと一緒に開拓をしませんか?」
「あー、確か姫さんは、ガルゲンの先で開拓しなくちゃいけねーんだったな。でも悪いが、アタイは手伝う気ねーぞ」
俺だって、こんなアマゾネスみたいな女と一緒に過ごすのはまっぴらごめんだ。
「それは残念です」
残念そうではない顔でそう言ったツェツィが、何故か俺に笑顔を向けてきた。
「ワルター様、残念ながらトゥーダ様は仲間になってくださらないようです。――そうそう、一段落しましたのでもうバフは不要でしょう。トゥーダ様の仲間認定を取り消し、パッシブで与えているバフは切っていただいて結構ですよ」
「はいよ」
俺はツェツィに言われるまま、トゥーダを仲間と認めるのをやめた。
「えっ、ちょっ、また倦怠感が……」
「ご一緒に開拓をしていただければ、ワルター様の恩恵を受けて早く強くなれるというのに、トゥーダ様は四分の一の速度で、ご自身の努力のみでお強くなる道を選ぶ、ということですね。……残念ですが、それを無理に引き止める事は私にできません。――今回はご協力ありがとうございました。いずれまた、どこかでお会いできるといいですね、トゥーダ様」
ツェツィがとても良い笑顔をしている。
なのに何故だろう、彼女がとても怖い。
「ま、待ってくれ姫さん。……あぁ~、たしか姫さんが開拓する場所ってのは、凶悪な魔物の巣窟だったよな?」
「そうですが、トゥーダ様には関係ございませんよね?」
「いやいや。アタイはあれだ、そこの魔物を倒して強くなろっかなーとか思ってんだ」
「たしかにあそこは広いので、私たちの拠点以外にも戦える場所は無尽にあります。とても良い鍛錬になると思いますよ。頑張ってくださいね」
「いや、だからアタイも、姫さんと一緒に開拓しながら、鍛錬したいな―、なんて思ったりして……」
あ、これは落ちたな。
って事は、俺はこのアマゾネスとこれから一緒に生活するのか……。
なかなか素直になれないトゥーダだったが、整った顔で笑みを浮かべているだけなのに妙な威圧感を与えてくるツェツィに適うはずもなく、結局「ワルターのバフをアタイにも与えてくれ!」と頭を下げた。
俺は受け入れたくないが、ツェツィが受け入れる気なら従う他ない。
だが俺もトゥーダに思うところがある。
器が小さいと分かっているが、俺は少しだけ意趣返しをすることにした。
「トゥーダって、俺に意地悪だったよな」
「違うぞワルター。アタイにも事情があってだな、本当は仲良くしたかったのにできなかったんだ」
「事情、ね」
「本当だぞ! お前、一の姫さんの婚約者になったろ? で、一の姫さんがワルターと仲良くするな的な事を言うから仕方なく……」
「そんなん、半年もしない間になかった事にされたんだが?」
「だって、一の姫さんからその言葉が撤回されなかったし……」
大柄で筋肉質な体躯の虎人族のトゥーダが、体を丸めてケモミミを萎れさせている。
そういえば、勇者パーティ時代の俺はアメリアにしか興味がなく、なんとなくでしかトゥーダを認識していなかった。
しかも、『高圧的で嫌な女』という認識だったのだが、こんな姿もあるのだと初めて知った気がする。
ってか、『ビキニアーマーとか痴女じゃん!』とか思ってたけど、筋肉質な割に柔らかそうなデカい胸がほぼ顕になってて、よくよく見るとマジで痴女だな。
ビキニにしても、サイズは極小だし。
それはそうと、トゥーダは脳筋だけに根は素直なのか?
考えてる事がまんま言動に出るタイプっぽいし。
う~ん、すぐにすぐ受け入れられるとも思わんが、もしかすると案外いいヤツなのかも。
いやいや、コイツも女だから信用しちゃダメだな。
案外俺はちょろいのだろうか、信用してはいけないと思いつつも、なんとなくトゥーダを受け入れる気になっていた。
「ではトゥーダ様もお仲間になったので、そちらの方々ともお話ししましょう」
そちらの方々とは、トゥーダを姐御と慕う五人の囚人だ。
ツェツィはまず、五人がどんな罪状で刑務所に入れられたのか聞き出した。
するとどこまで本当か不明だが、五人とも冤罪のような形だったのだ。
「なるほど。――では改めて。今の私達のお話を聞いて、こちらのワルター様がとても素晴らしいお方だと気づいたと思います。そして貴方たちが慕うトゥーダ様は、ワルター様の庇護をお受けになると決めました」
ツェツィは囚人に向けて演説をはじめる。
俺は自分が賛美されるのは嫌だが、黙って聞いておいた。
「さて、この世ならざるものとなった貴方たちは、これからどうなさいますか?」
一応、囚人を縛る魔導具はこちらの手にある。
それをどう使うかはツェツィに一任してあるのだが、きっと上手く使うだろう。
そう思っていたら、五人とも『姐御に付いていきます』と言い出し、なんだかんだで俺の庇護下に置かれる事が決まった。
念の為、当初は魔導具で縛ることを伝えれば、五人は素直に受け入れたので問題なさそうだ。
こうして、
実のところ、トゥーダは役立たずじゃないんだろうけど……。
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