第二十三話 勇者パーティの噂

「そういえば、素材の交換前に冒険者ギルドに併設されてる食堂で情報収集していたら、勇者パーティが活躍してるって話を耳にしました」


 アストに冒険者ギルドの受付嬢と合ってほしい、そう言われた後に別の情報を告げられた。

 俺としてはあまり興味がないというか、もう関わり合いたくない連中の事なので、別にどうでもいい情報だ。


「アストくん、その情報を詳しく教えてくれますか」


「はい」


 俺は要らない報告だと思っているのに、ツェツィは勇者パーティに興味津々のご様子。

 そしてアストは、仕入れてきた情報を誇らしげに語りはじめた。


 まず時期的な話からすると、まだ俺が王城の地下牢に幽閉されていた頃に戦勝の祝賀パレードなどが行われたが、一段落した後は魔物の残党狩りの出陣式が盛大に行われていたようだ。

 俺からすると、随分と長い期間お祭り騒ぎしやがって、という感じだったのだが、さすがに一ヶ月以上も騒いでいた訳ではなく、勇者パーティはしっかり休養した後に新たな戦いへ向かったらしい。


 それはそうと、今回の残党狩りは過去にない広範囲で行われる。

 というのも、過去の勇者は魔王を討伐したら異世界に戻ってしまう、つまり、早々に魔王を倒してしまうと、現地人だけで残党狩りをしなければならない。

 そうなると四天王や十二魔将といった、魔王ほどではないがなかなか厄介な相手が残ってしまうので、魔王を倒す前にそういった厄介な相手も勇者がいる間に倒していたようだ。


 だが今回は、魔王討伐後も勇者がこの世界に残る転生で顕現する事を、王国はツェツィの前の神託の巫女から事前に情報を得ていた。

 となると、魔王の存在により強化されている四天王などと戦うより、魔王討伐後に弱体化する四天王たちを相手にする方がはるかにリスクが下がる。

 なので、最短で魔王を討伐してその後に残党を狩る、という方針で固まっていた。

 結局、勇者である俺は雑魚だったが、方針の転換はなく予定通りの行動となる。

 そして予定通り魔王は討伐された。――実際は封印だが。


 そんな裏事情があるのだが、勇者パーティは予定通り残党狩りに出たらしい。

 現状は予定と違い、魔王降臨前の徐々に魔物が強化されている期間だというのに。


 あれ?

 魔王が倒されると、魔物は十年くらいかけて徐々に弱体化する、って話を聞いたような。

 で、魔王が現れる十年くらい前から、魔物は徐々に強化されるはず。

 ん、もしかして今の魔物って、弱体化せずに強化されはじめてるのか?


 そんな考えが頭をよぎったが、勇者パーティが活躍しているとの事なので、きっと俺が無駄に考えすぎなのだろう。

 そもそもアイツラがきっちり残党狩りをし、その後に再降臨する魔王もやっつけてくれなければ、俺の幸せはやってこないのだ。


 悪い方に考えるのは俺の悪い癖だな、直さないと……。


 さて、肝心な勇者パーティの活躍についてだ。

 魔王が顕現する地――便宜上”魔王領”と呼ぶ――は、王国の北にある。

 そして、強力な魔物ほど王国の北部に現れるので、基本的に残党狩りは王都より北だけが対象となっているとのこと。

 なので、まずは王都の西へ向かい、それから時計回りに東まで行ったら一度王都に戻り、再度北上して魔王領に入るらしい。


 で、今回の初陣は王都の西だったらしいが、いきなり十二魔将の一人を討ち取ったようだ。

 一応俺も、自分が同行していた魔王討伐の旅の最中に十二魔将戦は経験しているが、そこそこ戦闘の経験を積んでからだったので、まさに圧勝と言える勝利だった。――俺は戦ってないけど……。

 しかし今思えば、あれは俺のバフが効いた上での圧勝だったと思えなくもない。

 とはいえ、俺がいなくても勇者パーティは活躍している、というのが現状だ。


 アストとヴェラの兄妹が短期間で目まぐるしい成長をし、ツェツィに至っては『お前は本当に巫女か?』と言いたくなるくらい、回復職らしくない戦闘力を持つに至っているのだから、『俺のバフは凄い』と思ってしまうのも仕方ないだろう。

 だが実際は、アンデッド戦で色々試した結果が良かった事による、俺の自惚れだったのかもしれない。

 まだ試行回数も少ないのだ、もっと現実を見て生きなければ。


 そんな反省をしていると、アストが少々気になる話をしてくれた。

 なんでも、魔王討伐の旅で十二魔将戦に参加した事があり、今回の残党狩り戦にも参加していた者、という人物が語っていたという話だ。


 謎の参加者は、『魔王戦ではバックアップ要員だった青銀ミスリル紋章持ちを、今回から大幅に勇者パーティメンバーへ加え、十二魔将戦では増員されてパーティが強化されていたはずなのに、圧勝だった以前とは違って辛勝だった』と言っていたらしい。

 それを聞いて、やはり俺のバフが……などと思ってしまったが、さっき反省したばかりだ、俺は思い違いをしないよう内心で自分を叱責した。


 それはそうと、気になるのはどちらの戦闘にも参加している、という部分だ。

 俺が参加していた十二魔将戦は、対魔王戦を想定して勇者パーティのみで戦闘を行なった。

 バックアップ要員などはその場から少し離れた場所におり、戦闘自体は見ていても参戦はしていない。

 そこだけを考えると、謎の参加者は勇者パーティの誰か、ということになるがそれはないだろう。

 あくまで、その場にいたバックアップ要員の誰かがどちらの十二魔将戦も目視している、という話なのかもしれない。


 なんにしても、十二魔将ごときに手こずっているというのは、由々しき事態だと言えよう。

 

 そんなどこから目線だよ、とお叱りを受けそうな事を考えていると――


「その噂話は、どのくらい信憑性があるのですか?」


 ツェツィがアストに問いかけた。


「あくまでそのような噂話を耳にしただけで、信憑性まではちょっと……」


 自信満々に話しをしていたアストだが、ツェツィの問に上手く答えられず、妙に縮こまってしまう。


「まぁ、バックアップ要員だった青銀ミスリル紋章持ちの人たちとの連携とか、そういうのを試しながら戦ったんじゃないの? それか、青銀ミスリル紋章持ちがメインで戦って、元来の勇者パーティがサポートに回った……とか?」


「その可能性もありますね。(いいえ、そうであってくれないと困ります)」


 俺は『勇者パーティが働いてくれないと俺の幸せが遠のく』という自己中心的な考えから、そうであってほしいという願望を口にしたのだが、ツェツィも賛同する言葉を口にした。

 最後にぼそっと零した言葉は上手く聞き取れなかったが、彼女は悩ましげな表情を浮かべているので、俺と違って王国の未来など深く考えているのだろう。


 なんにせよ、数年後に復活する魔王の討伐に俺は極力関わりたくないし、実際に関わらない方向で考えている。

 そして、自分の能力を活かすためであっても、現状は無闇に仲間を増やす予定もない。

 であれば、現勇者パーティには是非頑張っていただきたいところだ。


 そんなこんなで、初めは要らないと思っていた勇者パーティ情報だったが、良い悪いは別にして、なかなか有用な情報を得られたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る