第十六話 先導者

「それにつきましては、現状視える情報には『無い』と断言いたします」


「そ、そうか……」


 俺の中に眠っている戦闘スキルがある……そんな事に、俺は微かな期待を抱いたいたのだが、残念ながら『無い』と断言されてしまった。

 所詮俺は、役立たずの雑魚だったのだ。


「ですが、『先導者』関係だと思われるスキルは素晴らしいと思います」


 肩を落とす俺を気遣っているのか、ツェツィは明るい声で伝えてくれた。


「まず、索敵系のスキルはワルター様ご自身がご存知ですよね?」


「ある程度は」


「ではこれらは如何しょう? どうやらパッシブスキルのようですが、『成長速度促進』『習得力促進』『取得経験値倍化』『必要経験値半減』『地力強化』、それからですね――」


「ちょちょ、ちょっと待って!」


 ツェツィの口から聞き慣れない名称が次々と出てくるので、俺は一旦遮った。


「まだ他にもございますけれど」


「少し落ち着こう」


「わかりました。――それでしたら、私の考察を述べてもいいですか?」


 意味不明なスキル名を垂れ流されるより、考察を聞く方がマシだと思う。


「聞かせて」


「かしこまりました」


 そしてツェツィの独演会がはじまる。

 まず、『そうせいの先導者』の『先導者』が作用している、というのを前提としているとのこと。


 今まで知られていた盗賊シーフ系の能力である索敵スキルなども、パーティを先導するのに向いたスキルばかりだった。

 そして今回判明したスキル。

 俺自身に作用しているか不明だが、どれも強くなるのに有利なスキル群だ。


 何故”俺自身に作用しているか不明”なのかと言えば、所謂『バフ』と呼ばれる周囲を強化する効果が、これらの持つスキルの本質。

 であれば、『先導者』は魔王への道案内というものもありそうだが、そうではない気がする。


 言葉としての『先導』には、”先頭に立つ”という意味もあるが、”集団を率いる”や”指導する”といった意味もある。

 導くという言葉自体にも、”案内人”という意味もあれば、”手引”や”指導する”といった意味があるのだ。


 更に、ツェツィと『ヌッツロース』パーティを組んだ際、彼女は”急に力がみなぎった”と感じており、その事が腑に落ちる内容である。

 そして更に、アストに対して俺の紋章が光ったことと、彼が急に斧を扱えるようになった事実。

 それらを踏まえると――


「ワルターさん自身が勇者として戦うのではなく、勇者パーティ全体の能力を引き上げる、今までとは違う勇者だったのではないか、そう愚考いたします」


 愚考ではないツェツィの素晴らしい考察は、俺の中にストンと入り込んだ。

 そして女神の言っていた事の意味がなんとなく分かる。


 現地人だけでは魔王を倒せない。それでも止めは現地人に刺させる。

 これは、勇者である俺の力で現地人――勇者パーティの底力を上げて、彼らの手によって魔王討伐を成し遂げたかったのだ。


 あのクソ女神め、それなら最初から俺は裏方だと教えてくれればいいものを……。


 要所要所で説明足らずな女神だ、言い忘れたとも思えるが、これはあえて言わなかったような気がする。


 それはそうと、もしこの仮説が本当であれば、意図的に新たな勇者パーティを育てられるのではないか? そんな考えが思い浮かぶ。


 そもそも、数年後に復活する魔王の討伐を現勇者パーティに任せ、俺は自分の事だけを考えて生きていこうと思っていた。

 しかし、アイツラに倒せるかと問われれば、甚だ疑問に思う……いや、あの様では無理だろう。


 では、魔王から逃げ回りつつ幸せを手に入れられるか?


 可能かもしれないが、不可能かもしれない。

 それであれば、能力を自覚した俺が意識的に勇者パーティを育て、その者たちに魔王を倒してもらうのはありな気がする。

 だがそれは、俺のわがままでありエゴだ。

 俺のエゴで、誰かを魔王討伐という死地に送り込むのは気が引ける。


 だったら、もう一度あの勇者パーティに戻り、アイツラを強化するか?


 それはない。

 第一王女を含め、アイツラは俺とツェツィを見下して切り捨てた。

 しかも、いくらツェツィが俺のスキルが判明したと言っても、きっと聞く耳を持たないだろう。

 それに対し、また俺が頭を下げて懇願する……というのは納得できない。


 だったら俺のすべき事はなんだ?


 俺はツェツィと離れられない。

 それなら俺の庇護下に置かれる事を良しとする仲間を作り、ツェツィと一緒に開拓をし、その地を強固なものにして万全の体制で迎え撃つ。

 ただ逃げ回るより、よほど良い案な気がする。

 とはいえ、魔王復活後の強化された魔物の猛攻をしのげる自信はない。


 結局このところ、何が正解か分からないのだ。

 だったらまずは、俺の能力の効果を知る。

 それをしないで考えても無駄だろう。


「――ワルター様?」


「……ぬぉっ?!」


 自分でもどこを見ていたのか定かではないが、気づくと眼前にツェツィの顔があった。

 それもかなり近距離に。


 やっぱツェツィは美少女だよな……惚れる事はないけど。


 どうやら俺が動かなくなったので、ツェツィは心配して何度も声をかけてくれていたようだ。


「きょ、今日はアレだ、もう寝よう」


「でしたら、『浄化』をしますね」


 さすがに今日は疲れすぎた。

 色々考えたくもあるが、さすがにその気力はない。


 疲労困憊な俺は、現実逃避気味に寝る事を選択したのであったが、速攻で深い眠りに就いた俺は、寝た感覚もないまま朝を迎えていた。




「ワルターさん、次は何をすればいいですか?」


「一旦休憩してくれ。その後も基本の動きを繰り返す。まずは何事も基本だ」


「うぅ~、わかりました……」


 やる気にみなぎるアストには悪いが、とりあえず基本動作を教えた。

 彼は昨日、今まで使えなかったスキルが使えるようになり、スキルを交えた戦闘方法が知りたかったようだが我慢してほしい。


 そもそも俺は、槍に限らず様々な武器を試させられたが、攻撃スキルは何一つ使えなかった。

 だがそれでも、一通りの基本を何度も叩き込まれている。

 そんなあれこれ中途半端な俺だからこそ、基本は本当に大事だと感じたのだ。


 というのは半分建前で、今日はヴェラの魔法に関して試したい事があり、正直アストにかまっている余裕がない、という裏事情がある。


 すまんアスト……。

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