第二話 対魔王戦
『魔王討伐なくして、貴方の望む幸せな生活は手に入りません。
女神の言葉を思い出す。
女神は俺に魔王討伐を請うても、強要はしていなかった。
しかし、魔王が存在した世界では、強化され続ける魔物に人類の生活は脅かされ、俺の望む世界にはならないと聞かされたら、魔王を倒すしかないだろう。
だから俺は、必ず魔王を倒すと女神に誓った。
日本人時代から俺が望んでいた、”愛する者との幸せな生活を手に入れる”ためにも。
この期に及んで、俺はまだ幸せな未来を諦めていない。
いや、それしか見えていなかった俺には、諦めきれないのだ。
だからこそ、耐え難い屈辱を味わってでも『剣王』ゲリンに縋る。
「ゲリン、俺は邪魔も何もしないから、どうか魔王との戦いに立ち会わせてくれ! 俺の実力では、手柄の横取りなんてできないのは分かってるだろ? だから、どうか俺が見学するのを許してほしい。頼む、このとおりだ」
この世界でも通用する、最もへりくだった態度である土下座をし、俺は地面に額をこすり付けた。
「みっともない」
心底軽蔑したようなリアの声が聞こえた。
だがそれでもなお、俺は額を地面にこすり続ける。
「へっ、いい様だ。僅かな期間とはいえ、第一王女はこんな荷物持ちを夫にしようとしてたんだよな。まぁ、俺の妻になるのは決定してる訳だが」
ゲリンの言うとおり、婚約こそしていなかったが、俺は第一王女とも結婚する事を勝手に決められていた。
しかし二年の訓練期間が半年にも満たない内に、どう考えても活躍する未来が見えない俺を見限った第一王女は、『先例に
だが今回の勇者パーティ、男性は俺とゲリンしかおらず、実質ゲリンが第一王女と結婚する事が決まっていた。
それだけなら俺はかまわない。
むしろ、リアが第二夫人にされる必要がなくなり、リアとだけ結婚できる状況になったのだから。
だがしかし、そのリアまでもゲリンに奪われてしまった。
それを受け入れるのは……やはり辛い。
「テメーはいないと想定して動く。勝手に死ぬのはかまわねーが、こっちに迷惑だけはかけんじゃねーぞ!」
この三年間、嫌というほど何度も頭を下げてきた俺だが、土下座をしたのは今回が初めてだ。
この土下座でゲリンが同行を許可してくれたのだから、切り札として取っておいたのは正解だった。
「ねえクズ、この戦いが終わったら、金輪際わたしたちに話しかけないでよね。ゲリンは王配になって、わたしは第二夫人になるんだから。――あ、当然だけど、アンタとの婚約はとっくに解消したから」
リアからそんな事を言われるとは思ってもいなかった。
もしかすると弱い俺を守るために、リアはあえて嫌われ役になって俺を戦場から引き離そうとしてのでは……などと考えていたのだが、魔王戦に立ち会う事になった俺にこんな言葉をぶつけてきたのだ、本当に俺を切り捨てたのだろう。
まだ受け入れられていない俺は失意のどん底に落ちてしまったが、だからこそ気持ちを逸らすように索敵を開始する。
うん、やっぱり魔王しか残っていないな。
多分『そうせいの先導者』の紋章、その”先導者”の能力だと思うのだが、俺には索敵能力があった。
一応調べてもらったのだが、俺には
なので、”先導者”は
当初は、歴代最強と謳われた勇者の紋章、『
結局のところ、どう転んでも俺は役立たずだった。
「ワルター、回復薬だ!」
対魔王戦だが、現在絶賛大苦戦中だ。
ただの見学者である俺に対し、ゲリンは今までどおり回復薬を投げるよう命令してくる。
ここでシカトする、という選択肢もあるのだが、魔王戦の最中にそんな小さな仕返しなどしていられない。
魔王を倒す事は、俺の悲願でもあるのだから。
それにしても、勇者パーティ五人の動きが、いつもに比べてかなり悪い。
逆に考えると魔王がそれだけ強敵なのだろうが、それを考慮しても苦戦し過ぎに思える。
そんな事を考えながらも、俺はいつも以上に回復薬を投げつけている。
まだまだ在庫は十分以上にあるので問題ない。
しかし現状、魔王に目立ったダメージを与えられておらず、勇者パーティの回復は追いついていないのだ、考えるまでもなく拙い状況といえよう。
ここは一度引くべきではないか、そんな考えが頭をよぎるも、ゲリンが俺の言葉を聞くはずもない。
本当に役立たずな自分に腹立たしさを感じつつ、俺は自分のできる事――回復薬を投げ続けているが、視界の隅に入れておいた魔王が今までにない挙動を示した。
ヤバい! 俺の本能がそう訴えかけてくる。
現状、前線で戦う『拳姫』と『剣王』は引いており、『槍姫』のリアが最前線で孤立している。
そのリアに対し、魔王が何かを仕掛けようとしている――と思う。
しかも、リアの後方に勇者パーティの残り四人、更にその後方に俺がいる。
つまり、魔王の射線上に全員が居る状況なのだ。
間に合うか? いや、間に合わせるんだ!
俺は一目散に走り出す。
ストレージから魔王特効――
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