第12話 君と見る夜空・上

 本格的にコートが必需品になるほど、冬の寒さが訪れている12月24日の夜、俺と美空は同じ同級生に誘われた忘年会に参加していた。

 まぁ、実を言うと断り切れなかったが正しいのだが。


 大体男女別に分かれて、座っている席順では美空が周囲の人に積極的に話しかけられているのが見える。

 あまりの人気ぶりに美空が整った眉をへんにゃりと曲げているのがまた可愛らしい。


 なんてことを思っていると、俺の方も周囲の奴らに話しかけられた。


「なぁ、お前はこの後狙ってる奴いるのか?」


「どうゆうことだ?」


 浪人して成人しているのか、それとも堂々と未成年飲酒をしているのかは知らないが、酒臭い奴らに内心ため息をつきながらも意味の分からぬことを言ってくる奴に問い返す。


「いや、わかってんだろ。酒の席で誰に声かけるかってことだよ」


 にやついた顔で言ってくる彼らの意図としては言葉を濁してはいるけど、誰を酒の席で誘うかという事らしい。

 酒を利用して交友関係を持とうとする行為自体は悪いとは思わないけど、あからさまにその先の関係を持とうとしているのが透けて見えいるのはちょっと忌避感を覚える。

 けれど、それを表に出すことはできないので表面上笑顔を浮かべて俺は答える。


「いやぁ、俺はいいかな。この後も家族と用事があるし」


「フーン。じゃあなんでもいいや」


 俺の返答に興味がなくなったようで主に話しかけてきた奴が俺から離れると周囲から人が半分ぐらい別のテーブルに移動した。

 これで落ち着いて食事ができるので、近くに座っていた奴らと食事をゆっくりと楽しむことにした。


 まぁ、家族って言うのは美空なんだけどね。

 嘘は言ってないしね。







◆◆◆







<美空視点>



 今年最後の講義が終わった後、私は友達に誘われて断れ切れなかった忘年会に来ていた。

 一人だと不安もあったから、乗り気じゃなかった優斗にも来てもらっていた。


 正直、今女友達に囲まれて話しかけられている状況でも優斗の方に意識がいってしまうのはご愛敬。

 だって、皆が話してる内容に入りにくいんだもん。


「ねぇ、この後どうする?」


「え~誘われたらついていっちゃおうかなぁ」


「やだぁ、大胆」


 彼女たちはこの後の二次会ではなく、一対一で誰かと抜け出そうという話をしていた。

 彼女たちの中では自分たちが誘われることがほぼ確定しているらしい。

 確かに彼女たちは見た目にも気を使っていて化粧やファッションなどにもお金をかけているように見える。

 そんな彼女たちを見た私の感想が優斗はこういうの好きそうじゃないなってことが私が優斗に染まっていることを実感して、勝手に嬉しくなる。

 

 好きな人と同じ考えや思いを持ちたいのは皆一緒だから私だけじゃないはず。

 と脳内で言い訳をしながら、私を誘ってくれた友達の方を見ると、私と同じように彼女らにうんざりとした目線をぶつけていた。

 私が見ていることに気づいた彼女は小さく手を合わせてからスマホで何かを打ち始める。


<美空、ごめん。こんなに盛り場みたいになると思ってなかった>


 彼女の直接的な物言いに苦笑しながら、私も彼女に同意という意思を返信した。




 そんな時、盛り上がっている女子の言葉が私の耳にスッと入ってくる。


「大丈夫だって、男なんてみんな身体をみたらイチコロよ」


 




 忘年会が終わり、何人かの二人組が歓楽街の方に消えていくのを横目に見ながら、私は優斗と二人の家に帰って行った。


 この忘年会で聞いたこの言葉は私に今思えばちょっとした楔。

 けれど、当時の私にとっては大きな楔に感じたんだ。

 

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