第8話 寝落ちもちもち

 それは少し日の沈みが早くなってきたことを目に見えて感じるようになった10月の夜だった。

 お風呂に入ってきた美空が突然俺にとある提案をしてきた。


「寝落ちもしもしやってみよう!」


 すでに同じ家に住んでいるし、一緒の布団で寝ることもあるのに何故?と俺が首をかしげていると、美空は天命を受けた予言者のように語りだした。


「最近、友達が彼氏と寝落ち通話するのが楽しいって自慢してきてやりたくなっちゃたの。それに同棲する前は寝る前まで一緒にいることはあっても電話することが無かったから優斗とそうゆうこともやってみたいなって。優斗が嫌ならいんだけどさ」


 今までにやったことが無い事を提案しているからかこちらの反応を窺うような美空の表情が、俺と寝落ち通話をしたい故のものだと思うと嬉しさが溢れてくる。

 その気持ちが自分の顔の端に現れているのを自覚しながら美空に返事をする。


「嫌じゃないよ。美空と同棲してるからその発想がなかっただけで、俺も好きな子と夜まで通話してみたかったしな」

「じゃあ、23:00から通話しよう」

「了解」


 そういって俺は各々とやらなければいけない課題などをこなした後、少しうるさい心臓を抱えながら布団に潜り込んだ。



 通話が掛かってくる時刻までの時間が異様に長く感じて、スマホの画面を何度も見てしまう。 

 そんな自分に苦笑しながら、スマホを持った手を布団に落とした途端にスマホが俺の心臓と共鳴しだす。

 通話に出ると俺が待ち望んでいた声がした。


「優斗、ごめんね。早く声聞きたくて、早めに通話しちゃった」

「いや、俺も待ちきれなくて布団に潜ってたわ」


 普段、一緒に過ごしている相手なのに通話越しとなると声の聞こえ方が違う事も相まって美空の違う一面を見ているようで何処か嬉しくなる。


「なんか、新鮮だね。一緒に寝る時とは違うドキドキ感があるね」

「そうだな。対面じゃないからこその感覚だよな」


 通話越しに聞こえてくる互いの動きによる布地の音を聞きながら2時間ほど話しているとふと俺の口から言葉がこぼれた。


「可愛いなぁ」

「へあぁっ」


 反応も可愛いなぁ。


「どうしたの急に?びっくりした。優斗もカッコいいよ」



 …幸せだなぁ




◆◆◆




 優斗から返事が返ってこない。

 さっきから眠そうだったし寝ちゃったのかな?なんて思っているとスマホの向こう側から静かに寝息が聞こえて来た。

 

「優斗、好きだよ」


 どうせ聞こえてないんでしょうけど。なんてことを思いながらクスリと口角を上げると、突然寝息と布地以外の音が私の耳に入ってきた。


「美空好きだぁ」


 私のこと好きすぎでしょ。



 …私も人のこと言えないか。

 

 

 


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