第5話 周りには秘密
十月、二か月近くあった夏休みが終わり、久々に大学に通うと講義一コマがとても長く感じる。
夏休みには無縁だった課題にも追われて自分が大学生だったことを再認識する。
今日の講義は1,2,5コマだから、学食を食べた後時間があるので、課題を終わらせる為に大学図書館に向かう。
どうせ家だと集中してできないしな。
大学図書館の自習スペースのメインである二階ではなく、五階の小机が点在としている内の一つに荷物を置く。
この階と一つ上の階の机には個別にコンセントがついているので、パソコンを使う時に非常に便利だけど、階が高いこともあって他の学生にはあまり知られていないみたいだった。
パソコン取り出して、実験のレポート課題をやり始める。
Excelや他のツールを使いながら、レポートに使う図やグラフを作っていると、気づけば一時間が経っていた。
喉が渇いたので貴重品を持って席を離れる。
図書館では飲食禁止だから、自販機で買った缶コーヒーを飲み終わってから席に戻ると、先ほどまでは誰もいなかった俺の席の周りに数人座っていた。
その数人の中に見知った後ろ姿が見えて苦笑しながら席に戻る。
俺が席に着くとそいつも俺に気づいたのか少し目を見開いた。
「美空ちゃん。この問題ってここで求めた数値をここで代入すれば良いのかな?」
「うん。そうすればこの後の計算でそのまま使えるから、このままやってみて」
「ありがとう」
そう、俺の席の周りに座っていたのは美空とその友達だった。
美空たちも課題をやる為にここに来たようで、俺が席に着いた後でもこちらを気にすることなく、課題をこなしていた。
次の講義までの時間が近くなり、俺が教室に移動するために机の上を片付け始めた時、美空の机から消しゴムが転がり落ちた。
その消しゴムを俺が拾って美空の机に置くと、美空は俺に対して一言、
「ありがとう」
というのと同時に美空は自分の透き通るような指に煌めく指輪を俺にだけ見えるように撫でた。
唯、指輪を撫でただけにも関わらず、その何処か色気のある仕草に俺は胸を暴れさせながら、自分の荷物を纏め、次の講義へ向かった。
もちろん、次の講義の内容はほとんど頭に入ることはなかった。
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