第3話 お泊り会
九月、最終週の土曜日、俺と美空は今日、家に来るお客たちを迎えるために掃除と準備をしていた。
今日来る2人は俺たちが2人で暮らし始めてから、初めてのお客さんだ。
お昼を回ったころ、家のインターフォンが心地良い音を奏でた。
玄関の扉を開けると、仲良さげに指を絡めて手を繋いでいる海と清水さんが立っていた。
海は半袖に短パンという夏らしい服装だが、少し日に焼けた薄っすらとした小麦色の肌と高身長も相まってすごく似合っていた。
一方、清水さんは海とは正反対で肌の露出が少なく、シフォンブラウスにスカートという上品さを感じる服装をしていた。
「2人とも久しぶりだな。ほんとに2人で住んでるんだな」
「お邪魔します」
今日は4人で遊ぶためではなく、普段、なかなか話せない話を男女別で話そうという海主催の集まりで、ついでにお泊り会も兼ねている。
美空が清水さんを美空の部屋に連れ込むのを見ながら、俺も海を自分の部屋に案内した。
部屋に入って、海に飲み物を出すと、海は飲み物を口に含んだ後ににやにやしながら笑いながら言う。
「夏休みに随分と仲が深まっているようじゃないか、優斗さんよ。何があったんだよ」
聞かれると思っていたが、いざ聞かれると物凄く話したくなくなるな。
しかし、聞かれたからにはある程度は答えなければならない。俺ももちろんだが、美空も色々、彼らに相談していたみたいだしな。
詳しい話はぼかしながらも俺は海にどういう経緯で現在の状況になったのかを話した。
以外にも真面目に最後まで聞いた海は俺が話し終えたときに、俺の肩に手を置いて一言。
「青春だな」
そのたった一言に色々な思いが込められているようで、不思議と胸に響いた。
けれど、俺はただ自分の話をするだけでは勿論、海を逃がすつもりは一欠けらも無かった。
「そんな、海はどうなんだよ。俺は海たちバカップルの出会いも何も知らないからな。」
いつか聞いてみたいとは思っていたのだが、大体海のそばには清水さんがいるので今まで聞きづらくて聞いてこなかったからこそ、この機会を利用して聞いておきたかった。
いつも俺たちの事を聞いて笑っている海を逆に笑ってやろうとこのお泊りが決まった時から温めていた話だ。
「わかった。俺だけ聞くのも何かズルいしな」
そして、いつものように笑いながら話すのかと思いきや、海は少し懐かしむような表情をしながら、自分たちの出会いを語り始めた。
「俺と唯はお前たちと違って浪人生だったから予備校に通っていたんだ。勿論、その時にはお互い認識はなかったぜ」
「意外と最近だったんだな。清水さんと会ったの」
「あぁ。だから、お前たちが少し羨ましいぜ。始めはただ、来年の受験に受かる為の場所として半ば義務のようなものを感じながら予備校に通っていた。けれど、そこで偶然唯と話してから、予備校に行くのが楽しみになっていた」
そんな偶然の出会いだったのか。普段の様子を見ていると、全くそんな風に感じないな。
「一目惚れだった。一度話しただけなのに、次から唯から目が離せなくなった。それから俺は、予備校の帰りや授業の合間に唯に会いに行っていた。最初、俺が授業の合間に話に行ったけど、その後授業が終わった後、唯が帰りに話しかけてくれて俺らの関係は始まった。受験もあったし、付き合ったのは合格してからだけどな」
海も詳しい話はしなかったが、俺と美空とは違う関係の深め方だ。
それに、すぐに海も清水さんも互いに話かけようとしていたってことは両方とも一目惚れの可能性が高そうだな。
「だから、前に運命の出会いって言ってたのか」
「そう。それにお前もそうだろうけど、俺は唯のことが大好きだしな」
そう話す海の顔は愛しい人を思う男の顔をしていた。
「そうだな。俺も美空のことを愛してる」
海の男の発言に同意するように言うと、海の顔が急に変わった。
「だってよ、後藤さん。いや、もう天道さんって呼んだ方が良いのか?」
は?
「すまんな、優斗。通話繋いでた」
にこやかな笑顔でそう告げる海の顔面を殴ろうとする己を必死に押さえつけながら、自分の気持ちを吐露する。
「聞かれてるなら、もっと美空のこと言えば良かった。そしてら後で反応を聞けたのに」
「お前も十分バカップルの一部だよ。優斗」
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