腐れ縁の婚約者
第1話 残暑
九月の第一週、俺たち大学生が堕落に身を預けている一方で他の学生たちが残暑の中青春を謳歌し始める頃、俺もとある残暑によって追い詰められていた。
「優斗、美味しそう」
「………」
俺の腕を取り、抱き枕にしている美空の寝言に苦笑いをしながらも俺は思う。
暑い…
本来なら、その腕に触れている胸の感触に意識がいってもおかしくないのだが、この暑さの続く中では暑苦しさを先に感じてしまう。
それに、俺と美空が婚約者となったあの日から美空はスキンシップの頻度が急に増加した。
最近は落ち着いてきてはいるが、今のようにスキンシップを自然に行ってくる。
だけど、ほんの少し前まではスキンシップを取ろうものなら顔を真っ赤にしていた美空が急に積極的になっていることが不思議に感じる。
◆◆◆ 美空 ◆◆◆
恥ずかしい…
優斗と婚約者になって暫くは嬉しさが天井を超えてしまって積極的なスキンシップをとっていたけど、落ち着いてくるとすごく恥ずかしい。
婚約者になったんだから、それらしいことしたいとをしたいと思ったけど、私の精一杯がスキンシップだったのもある。
今も優斗の腕を抱いているけど、恥ずかしくて優斗の方を見られない。
エアコンは効いているとはいえ、夏場にこんなに密着すればそれは暑いわけで、汗が私の肌に浮かんできた。
そうして私は難題にぶつかる。
汗が気になるから離れたいのに安易に離れたら寝たふりだったことが優斗にバレてしまう。
そんなことになったら、同じ家に住んでいるのに恥ずかしくて顔を負わせられなくなってしまう。
そんな葛藤を繰り返していた時、救いの音が聞こえて来た。
「クロクロナンバーです。荷物のお届けに来ました。」
その声をインターフォン越しに聞いた優斗が私の頭を私が掴んでいない手で軽く撫でてから、私を振りほどいて立ち上がる。
その優しい手の感触に名残惜しさを感じていると、優斗が段ボールを持って部屋に入ってきた。
「ごめん、美空。起こしちゃったか」
「ううん、良い時間だったし丁度良かった」
「そうか。にしてもこの中の荷物何だろうな?俺は何も頼んでないと思うんだけど」
私も何も頼んでいないと思うんだけど…あ。
「取り敢えず、開けてみるか」
私がとあることに思い当たった時には優斗は段ボールをハサミを使って開封していた。
もう間に合わないとわかっているのに私は段ボールに駆け寄りながら、声を上げていた。
「優斗、それ開けるの待って」
そんな私の悲鳴ともいえる声は間に合わなかった。
封が完全に解かれた段ボールから覗いているものを見て、完全に優斗が固まっている。
「ご、ごめん」
そう言って優斗は顔を赤くしながら一目散に自室に逃げ帰っていった。
多分、私の顔はもっと赤くなっているだろう。
優斗が封を開けた段ボールをしっかり覗き込むと、そこには私が婚約者となって浮かれている時にいつか必要になるよねという、今思えば理解できない思考で購入した俗に言うエッチな下着が数点入っていた。
こんなものを買ったことを優斗に知られた恥ずかしさに全身を震わせながらもそのブツを部屋に持ち帰ることに成功した私は羞恥が爆発して布団に飛び込んで悶え回った。
私が落ち着いてきた頃、部屋のドアがノックされた。
「美空、ちょっと良いか」
「良いよ」
私が許可すると優斗がゆっくりと部屋に入ってきて、布団に隠れている私のところに来た。
「美空、さっきはごめん。さっきは思わず、部屋に帰っちゃったけど、冷静になって思ったことがあったんだ。美空がそういうものを買うってことは俺とそういう関係になることも見越していると思うんだけど、それに対して言いたいことがある。婚約者だからって焦らなくてもいいよ。俺たちは自分たちのペースでやっていこう。それだけ言いたかったんだ。」
そんな優斗の優しい言葉が私を思っての言葉だと思うとすごく胸の奥から暖かい物を感じる。
けれど、恥ずかしさが消えたわけじゃないから、すぐに返答できないでいると優斗は
「夕飯はエビチリだから、それまでに起きてね。お休み」
と言って私のそばを離れて夕飯の支度を始めた。
優斗に大切にされていることを否応なしに感じた私は思わず心の声を漏らしてしまう。
「優斗も十分ズルいよ」
その後、夕飯で優斗のエビチリを食べながら、私は優斗の優しさによる残暑を感じていた。
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