第19話 家庭の味

 誠さんに美空と向き合うヒントを得られた夜から一夜、俺は太陽が高く上がりかけている時間に父さんと誠さんに起こされた。


 昨日、家に帰ってから自分の中で色々と考えていたら寝付けなかったから、こんな時間まで寝てしまった。

 まだ寝ぼけている眼をこすりながらリビングに行くと、父さんと誠さんがソファーに座っていた。


「悪かったな、優斗。むさくるしい男たちで起こしてしまって」


 父さんがにやけ顔を隠すことなく俺に話しかけてくる。


「別に。どうせ此処に男が集まってるってことは女性陣で何処かへ行ったんでしょ」

「………」

「アハハ!これは一杯食わされたね怜央」


 美空が俺に何も連絡も無しに急に来ないのはおかしいからな。どうせそんなことだろうと思ったんだよ。 

 思うような反応が得られなくて父さんは悔しそうな表情をしていたが、不意にまじめな顔になった。


「優斗、心の行く先は決めたか?」

「…あぁ、決めた」


 しばしの沈黙の後、その空気を壊すように父さんが再び笑い話し出した。



 この後、女性陣が帰ってくるまでの間、男のみの会話は大変盛り上がったと言っておこう。





◆◆◆





 普段母さんが夕飯を作り始める夕方になって女性陣は帰ってきた。

 母親に挟まれた美空の顔が夕焼けでごまかせないほど赤くなっていたが、俺も巻き込まれそうなので触れないことにしよう。


 誠さんと綾香さんはこの後、仕事の打ち合わせがあるそうで合流した後、美空を置いて仕事に向かった。

 それで、美空が家で夕飯を食べるらしい。前からあったことなんだが、実家にしばらくの間いなかったからか、何故か新鮮な気がした。



 母さんが料理を作っている間、俺は自室で調べ物をしていた。

 美空の気持ちに答えるための準備として俺の知りたかった2つの内の一つは父さんと誠さんに聞けた。後、一つの事を今調べているのだ。

 昨日の今日だが、ここまで行動している自分を顧みると、俺の心はずいぶん前から決まっていたみたいだった。



「優斗ぉ、ご飯~」

「今行く」


 夕飯ができたらしく、母さんが俺を呼ぶ声が聞え、それに答えながらパソコンを閉じてリビングに向かう。

 テーブルには4人分の料理が並んでいて、父さんと美空はもう席に座っていた。


「旨そうだな」


 誰に聞かせるわけでもなく、呟きながら席に着くと後片づけの準備が終わったのか母さんも席に座った。

 誰に合わせるわけでもなく、各々手を合わせて目の前に置かれた料理に手を伸ばす。 


 まずはまだ湯気を立てせている味噌汁を啜る。口には懐かしい味と風味が広がった。これが家庭の味というやつだろう。

 次に肉じゃがに箸を延ばす。滴り落ちる汁を白米に載せながら口に含む。その瞬間思わず反射的にこう言っていた。

 

「これ凄い旨いな。母さん」


 普通に褒めたはずなのだが、母さんが俺を見て固まっていると思ったら急に笑い始めた。

 それと同時に美空の顔が赤くなっていく。


「母さん、どうした?」

「いやぁ、美空ちゃんは優斗の胃袋をがっちり掴んでるなと思って。それに母さんだなんて、子供がいるみたいじゃない」

「………」


 やらかしたぁぁ。

 美空の方を覗き見ると、真っ赤な顔を下を向けて肩を震わせている。


「ご、ごめん、美空。変なこと言っちゃて」

「い、いいよ。気にしないで」


 俺の失言?によりこの後は俺も美空も一言も発することなく夕飯を食べた。両親からの微笑ましい目線に耐えながら。


 食器を台所に運んでこの空間から逃げる為、自分の部屋に戻ろうとした時、後ろから美空が追いかけて来た。

 階段を数段上っている俺に抱き着くようにして近づいて


「さっきの全然嫌じゃなかったよ。むしろ夫婦みたいで嬉しかったよ」


 と俺の耳に囁き、自宅に逃げ帰っていた。

 その後ろ姿からでもはっきりわかるほど先ほどより耳が赤く染まっていた。



 

 …自爆攻撃はやめろよ。

 



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