第17話 帰省
お盆の帰省シーズンの少し後の八月下旬、俺と美空は実家に帰省するために電車に乗っていた。
お盆はバイトの稼ぎ時だったので少しお盆からずらしての帰省となった。
急ぐことも無い旅なので美空と相談した結果、普通列車のゆったりとした旅なので実家に一番近い駅まではほぼ一日かかる。
最初は特急を使おうかとも思っていたんだが、美空がゆっくり話しながら行きたいと、最近遠慮がなくなってきているスキンシップをしながらお願いをされたので今回の日程になった。
「久々だね。実家に帰るの」
「そうだな。まぁ、かといって帰る理由も特にないんだけどな」
「そういう事言っちゃダメだよ」
「すまん」
実は美空には言っていないが俺にとって今回はだたの帰省ではない。
美空の父親である
だから俺は一体、どんな事を言われるのか一抹の不安を覚えながら実家への道を進んでいた。
そして、道のりの半分ほどに来た頃には丁度お昼時になっていた。
「そろそろお昼ご飯食べよう。はい、おしぼり」
「ありがと」
美空からおしぼりを受け取り、今日の昼飯をリュックから取り出す。
今日の昼飯は以前テレビにも取り上げられていたおにぎり専門店のおにぎりだ。
朝ご飯としても二つ食べたが、話題になっていることに納得できるほど美味しかった。
なので、他の買ったおにぎりも食べれる昼時を待ち望んでいた。
袋から無造作に一つ取り出して、一口食べると白く輝く米の中に紅い一粒の梅干しがあった。程よい塩気と梅干しのまろやかな酸味がとてもバランス良く構成されている。
「「旨い(美味しい)」」
俺がポツリと呟いたのと同じタイミングで美空も一言呟いた。
その後は二人とも買った分がなくなるまで無言でおにぎりを頬張った。
「優斗」
「ん?何?」
「ちょっと動かないでね」
そう言って美空は身を乗り出して俺の口の周りについていた米粒をとって自分の口に運んだ。
「んな!?」
「ご馳走様、優斗」
いたずらに成功した子どものような表情を浮かべる美空に強く言い返すこともできずに唯々翻弄されてしまった。
…いつからそんな表情もするようになったんだよ。
知り尽くしたと思っても知らない魅力が現れるそんなところがいつも俺を…
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