第15.5話 宣戦布告<裏>
カッコいい…
今日の待ち合わせから私は優斗のさりげない動作に目を奪われ続けている。
今も優斗は受付の人からチケットを購入してる。
今日は私が優斗に異性としてのデートをしようって言ったからか、優斗もいつもより気合が入っているみたい。
優斗がチケットのお金を払う時に私と繋いでいた手を離したけど、すぐに私とまた手を繋いでくれた。
普段は自分から手を繋がないくせにズルいやつ。
館内に入って優斗と水槽を見て回る。
言葉を多くは交わしていないけど、並んで同じ水槽を眺めているだけで私は幸せだった。他人から見てもわからない繋がりが優斗との間にあるようで嬉しかった。
◆◆◆
お昼を食べた後、私と優斗は出口の近くにあるペンギンのエリアに来ていた。
私の手を見てついてくるペンギンを見て、ついはしゃいでいたら優斗も同じように水槽に手を向けていた。
動き回る私たちの手とペンギン、いつかはこうなることは必然だったのかもしれない。
ペンギンを誘導している私の手と優斗の手が軽くぶつかった。
私たちが思わず一瞬、固まっている間にペンギンたちは私たちの手から離れ、お互いに見つめあい、嘴を打ち合わせて帰って彼らの仲間の待つ、岩場に帰っていった。
「ペンギンもキスするんだな」
「してたね、キス…」
そして私は水族館をでて、優斗をそのまま砂浜に連れて来た。
今日、私が優斗を異性とのデートとして誘ったのは優斗の関係に一つピリオドを打つためだった。
私はずっと怖かった。私のこの胸を焼き焦がす恋心に従って行動することが怖かったんだ。
今の優斗との関係が変わっちゃうんじゃないかって。
同じ理由で優斗が私との関係を変えることに後ろ向きなことはわかってる。私たちにとって恋人という関係はありふれた関係性に見えてしまうから。
幼馴染という関係を続けられる人は世の中のごく一部だと思う。私たちはその今も続いてる奇跡の関係を壊して恋人という更に壊れやすい関係になるのがとても怖い。
けれど、私はそれ以上に優斗と離れる可能性が怖いんだ。
最近、喫茶店で優斗が真帆ちゃんに声をかけられた時、私は今の幼馴染という立場の足りない部分を知ってしまった。唯の幼馴染じゃ、優斗の仲の良い人の一人としてしか見られないことに気づいてしまった。
私は優斗の幼馴染という立場に満足できなくなったんだ。たとえそれが不安定な立場になるとしても…
それに優斗の心を占領しているのは幼馴染としての私。
異性の、女としての私ではない。
この事実がどうしようもなく嬉しいし、悔しい。
「ねぇ、優斗。私はやっぱり欲深い人間だったみたい」
「急にどうしたんだ?」
「だからね、優斗。これは私からの宣戦布告」
私の口から発せられた言葉を理解しようと少し下を向いて考え始めた優斗。
私はその無防備な彼の目の前に立って、愛する人の顔を見る。そのまま顔を近づけ、唇を触れ合わせる。
一秒、二秒、…十秒
唇を静かに離す。
あぁ…やっぱり私は優斗のことが好き。
だから、これは宣戦布告。
怖くて踏み出せないまま優斗の心に居座る幼馴染としての私を今の女として恋心を胸に抱いた私が超えて優斗の心を染め上げる宣戦布告。
「帰ろう、優斗」
だって、私の胸を焦がす炎は消えそうにないから。
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