第13話 テスト後の夕飯

 本日でテスト期間も最終日、晴れて多くの人にとって青春の舞台となる夏休みが明日から始まる。

 

 そんなめでたい日の午後、俺はテストが終わって家に帰る前に評判の良い洋菓子屋に向かっていた。

 美空は後一コマ分テストがあるみたいだし、同じようなタイミングで家につくだろう。

 

 洋菓子屋で目当てのものを買った俺は予定よりも少し遅れて家についた。美空の靴が玄関にあることを確認した俺は中にいる美空に届くように声をかける。

 

「ただいま」

「お帰り」


 荷物を置きに部屋へ行く途中でリビングを通りかかると美空が料理をしているのが見えた。もうある程度料理の工程は進んでいるようで美味しそうな匂いがしていた。


 荷物を置いた後、俺は洋菓子屋で買った箱を冷蔵庫に入れながら美空に話しかける。


「美空、いつもの買ってきたから入れといたぞ」

「ありがとう。今日は贅沢にビーフシチューだよ」

「お、いいな。楽しみだ」


 しばらくして出来上がったビーフシチューが机に並び、俺と美空は軽く手を合わせて食べ始める。


「旨い」


 美空に伝えるというよりは思わず口から出てしまった言葉だが、その様子を見た美空が嬉しそうに微笑んでいるので良かった。

 おかわりもして存分に美空特性のビーフシチューを味わった後、俺は冷蔵庫から買ってきた箱を取り出した。箱を開けてシュークリームを用意した皿に並べた。

 

「シュークリームがこんな馴染みのあるお菓子になると思わなかったな」


 シュークリームを見て美空は懐かしむようなニュアンスを含みながら俺に告げた。

 

 何故、シュークリームなのかというと中学生の時、初めて定期テストがあった日の帰りに美空がご褒美を買いに行こうと言って買ったものだ。

 本当はケーキを二つ買って食べようとしていたんだが、当時中学生だった俺たちはあまりお金がなく、仕方なく二人分買えるシュークリームにしたんだ。

 次のテストが終わった時はケーキが買えたけど、美空が「同じものを食べる方がお約束みたいで良いと思う」っていう発言からテスト後にシュークリームが俺たちの間でのお約束だった。

 

「あれから六年たったもんな」

「六年かぁ…色々あったね。全部が私の宝物だよ」


 そんな幸せそうな顔を浮かべられると俺は困ってしまう。それと同時に美空にそんな顔をさせてあげられているという満足感で心が満たされる。

 しかし、その満足感は唯の幼馴染というだけの俺が味わって良いものではないことは理解している。それは勇気の出ない自分のせいだという事も。



 明日の水族館にいく予定を話した後、美空は家に帰って行った。

 

 ぼんやりとしたまま寝床に寝転がってスマホを見ると美空からメッセが来ていた。


<優斗、明日は幼馴染としてじゃなくて大学生の異性として会おう。だから、9:30に現地集合ね>





 そのメッセージは俺たちの関係に変化が起き始めていることの証明でもあった。


「もしもし、海。明日のことなんだけどさ…」


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