第12話 勉強会

「邪魔しに来たぞ」


 七月末、テスト前の休日に海が俺の家に訪れていた。

 そして、美空の家でも清水さんが来て勉強会が行われているらしい。


 飲み物を冷蔵庫から用意して、黙々と勉強を二時間ほどした頃に海の集中が切れたらしくペンを放り、口を開いた。


「なあ、この家って壁が薄くて大声を出したら隣の部屋に聞こえるとか無い?」

「あると思うか?そもそも壁が薄くなかろうとマンションで大声を出すな」

「まぁ、そりゃそうだよな」


 やっぱりかという表情を浮かべた海はカバンに手を突っ込んでスマホを取り出して机に画面を裏側にして置いた。


「そういえば、前から気になってたんだけど、優斗たちって隣に住んでて合鍵を持ってるわけじゃん」

「なんでそれを知っている」

「唯から聞いた」


 美空、そういうことはあんまり言うなよ…


「んでさ。そんな状況だったらなんか事故とか起こらないのかなって」


 言いたいことはわかるのだが、俺と美空にはあんまり無縁に近い事だった。


「あぁ、別にそんなことは怒らないよ。だって俺は美空の内に入るときは一応確認をとるし、美空が家に来るときは見られてマズいことは特に無いしな」

「なるほどな」

「それに美空がいる生活が俺にとって普通だからな」

「…コーヒーあるか?あるなら出してくれ無意識野郎」


 謂れのない罵倒を身に受けた俺は冷蔵庫に入っていたペットボトルコーヒーを海に取りに行った。戻ってくると海は机の上に置いていたスマホをカバンにしまっているところだった。


「お、サンキュ」


 コーヒーを海に渡した後は二人でわからない箇所を話し合いながら講義の内容を理解していった。




 18時頃、腹が減ったので美空に電話を掛ける。


「もしもし、美空。そろそろ飯を作ろうぜ」

「わ、わかった。今そっち行くね」


 美空との電話を切った後、料理の準備を始める。

 食材を切り終わったころに美空と清水さんが家に入ってきた。

 美空は海に軽く挨拶をして、すぐにキッチンにいる俺の方に来た。こちらに近づいてくる美空の顔が少し赤くなっているように見えたが、気のせいだろう。


「今日は何にするの?」

「人数も多いしカレーで良いかなって」

「わかった」


 いつものように二人で分担しながらカレーを作った後に四人でテストの話をしながらカレーを食べた。

 カレーを食べて、美空と清水さんが美空の家に戻った後、海は俺に二枚のチケットを見せてきた。


「これは?」

「今日、世話になった礼だ。以前、唯と水族館に行った時に使った割引チケットの余りだ。テスト後に後藤さんを連れて行って来いよ」

「ありがとう。海」

「今日は色々しちゃったからな。また俺とも遊んでくれや」



 そう言って海が帰った後、風呂に入って部屋に戻ると、美空がスマホを触っていた。俺が風呂から戻ったことを認識すると、俺を近くに来るようにジェスチャーをした。

 美空の近くに行くと美空は自身の膝をポンポンと叩いて、


「優斗、ここに頭を載せて寝転がってよ」


 と上機嫌そうに言った。

 

「急にどうしたんだ?」

「今日、唯ちゃんからこういう事は男の子はみんな喜ぶって言ってたから、やってあげようと思ってね」


 何かを言おうと思ったのに、部屋着のショートパンツから除く白い陶磁器のような脚に吸い寄せられるようにして、美空の膝に頭を載せていた。

 想像より柔らかく、モチモチな感触に戸惑っていると美空が俺の耳に囁いた。


「仰向けに寝っ転がってね」


 最早、反抗の意思など溶け落ちた俺は言われるがままに仰向けになるように体を動かした。

 そうすると美空が俺の耳をゆっくり触り始めた。


「耳のマッサージをしてあげるね」


 仰向けの視界に移る優し気な美空の表情に安心して、気づけば俺は意識を失っていた。



 頭を触られている感触で目を覚ますと、美空がそれに気づいて一言、


「気持ちよかった?今度は耳かきもしてあげるね」


 ………楽しみだな。


「おやすみ、美空」

「おやすみ」

 


 


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